第116話 情報は大事ですよ

「コレ、綿花ノ種。綿花、塩ニ、強イ」

「え?!本当ですか!?こんな土地でもいけます?」



河伯教団の長安支部。


塩気たっぷりの大地に塩角草や菜の花が散らばり、家畜がそれをモリモリ食べています。



「……チョット塩オオイ?デモ綿花、塩ヲ吸ウ」

綿花の種を持ってきてくれた粟特ソグドの商人さんがあまりの塩害にちょっとビビリながらも説明してくれました。


……塩を吸ってくれる?!うわ、なんて狙いぴったりの作物が……。


「さっそく植え方教えてください!絹ならいくらでも払いますから!……あと賈詡カクさんお見事!」

「はっ……いや、ワシは作物とか分からんので、胡人ソグドの商人を連れて来ただけですが……」

「それでもよくやってくれました!!」


私はもう飛び上がらんばかりに喜んでいます。

隣についてくれている公明くんも塩の土地には苦労したので感慨深いようです。


若白髪の賈詡さんは……なんか引いてますね。自分の功績を理解していないようです。

だって、下着用に木綿を持ってきてもらったら、それが塩害対策になるなんて思わないじゃないですか!


「その……主公との。羌族の降伏について報告とかせんでよろしいでしょうか?」

「……要りますか?何か緊急で気にすることあります?」

「そういわれると無いですな。董公トウタクさまが見張っている限り、羌族も月氏族も大人しくしていることでしょう」

「じゃあ、それはそれで!見事でした。ご褒美に奴婢どれい身分から解放します。官職は司馬たいちょうで。それで、持ってきてもらった西瓜すいか蜜瓜めろん胡瓜きゅうり人参にんじん胡葱たまねぎについてなんですが……」

「それも胡人ソグドの商人に聞いて……って?今なんと?!」


賈詡さんが何か言ってますが、新しい作物のほうが大事です。

なにせ水不足の対策になる西瓜に、カレーの具になる人参と玉葱ですからね!


公明コウメイくんが「文和ブンカさん、良かったですね!司馬ですよ!」とお祝いを言っているので賈詡文和さんが「いや、ワシ、謀反人なんだが……」とかうろたえてますがそれはそれで。


それに、西域の人参とか胡瓜なら塩に強いかも……強いですよね?


「弱イ」

「ええ……、ダメですか……」

「木綿ガ強イダケ、普通ハ弱イ」


粟特ソグドの商人さんがふるふると首を振ります。

残念でした……。


でも、さっそく長安の郊外で木綿の栽培を始めることにします。

なにせ塩害にやられた土地はたくさんあるので、上手く行けば綿織物の産業を興せるかもしれません!


あと、木綿がないので、この時代の防寒用の綿入れって真綿まわた、つまり絹のワタを使ってるんですよね。

綿入れの綿を絹のワタから木綿こっとんに変えるだけでものすごく安くできるはずです。


夢が広がりますね!!!





そのあと、趙雲さんに「叙任はきちんとなさってください」と怒られて、賈詡さんに印綬みぶんしょうを渡して司馬たいちょうの官位の就任式をしました。


いちおう、董卓パパから預かった正規の官職ですからね。


「謀反人のワシに正規の官職を……」


賈詡さんもなんか柄にもなく感動しているようです。


「あ、ご家族もよければ洛陽に呼び寄せてください」

「お気遣いありがとうございます!」



 ― ― ― ― ―



長安でバタバタと作付けの指示をして、洛陽に戻って現状について賈詡さんと共有します。


いなかった間の話をいろいろして、長沙の話は愉快そうに、また危ないことを……といった感じで楽しそうに聞いてくれてたんですが。


「……で、曹操どのが思わせぶりなことを言って、主公とのはそれからどうなさったのです?」

「なんか怖いから大人しくしようと思って、大人しくしてねって父上と孫将軍にお手紙しました」

「いや、情報を集めませんか!?洛陽には弁皇子もおられますし、十常侍の趙忠どのにも伝手がございますよね?!」

「皇子はあまり知らないって言ってたし……、あと趙忠さんは……ほら、董家があまり宦官と仲がいいとか噂されても恥ずかしいし……」


いろいろ言うと、賈詡さんはため息を一つ。


「もう遅いです」

「……遅いですかー」

「はい」


賈詡さんに断言されました。


いや、私もなんとなくそうかなあとは思ってたんですが、私もお茶や黒砂糖を売ったり、鉄を長沙に輸出したりして忙しかったんです。


おかげでこんなに金塊が儲かって……。

と手元にある「オウ」って刻印のある金塊を見ます。


あれ?これって、孫堅さんが長沙の豪族の区星オウセイさんから没収して趙忠さんに送った金塊では??

なぜ私が手に入れているかというと、砂糖とお茶を宦官さんたちに売って儲けたからですね。


……すでにずぶずぶですね。


「そもそも、政権を手に入れるためにまずは皇帝と宦官に取り入ると決めたではありませんか……作戦を立てるにもまずは正確な情報からです。さすがにワシも宮殿の中までは情報収集ができませぬ、これは主公とのにお願いしなければ」

「また正論を言いますね、完全に賈詡が正しいのでそうします」


ほんとうに、賈詡さんが来ると何でも話しが早くなるんですよね。気分はさておき。


賈詡さんはそんな私を見てなぜかニヤリと笑って頭を下げました。





・木綿の塩耐性ですが、東日本大震災で津波の被害を受けた農地で木綿を植えて塩を抜く計画があります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る