第113話 移民はつらいよ
あう……。
そりゃあ、もう長い年月、漢人が侵略してた土地なんですよねぇココ……
恨んでる……?
いや、恨みがすべてだったらこんな風に会うわけないです。
そもそも長沙が開拓されてからもう数百年たつわけだし……。
「それはすみませんでした。……じゃ、じゃあ米があれば満足ですか?米をたくさん食べられるようにすれば……」
「……オオ、ソレハイイ、クレ」
族長さんが即座に食いついてきました。
あ、やっぱり米に釣られてくれた。
食料不足は本当なんですね……
だったら。
「いいですよ、米はなんとかします。その代わり、茶や
「アレ、味ヨイ。デモ、オ腹イッパイ、ナラナイゾ?」
族長さんは茶や
それはそれで助かります。
「大丈夫です、お茶や
「ワカッタ」
族長さんが部族民を集めて説明します。
米が食べられるならということで、納得してくれたようです。
村を退去するときになって族長さんが何か思い出したように聞いてきました。
「漢ノヒト、名前ハ?」
あー、そういえばいきなりの
「あ、
「ソウカ、俺、
沙摩柯。
どっかで聞いたことが。
あー、なんか三国志の
「そうですか、その節は
「リュウビ、ダレ???」
まだ若い族長さんが頭を捻ってますが、そのうちに逃げ出すことにしましょう……。
村の外に出ると、公明くんがそっと近寄って耳打ちしてきます。
「米、どうなさるのですか?」
「どうしましょうね?」
……た、たしかに米を食べられるようにすると言いました。しかし、いつ、どれだけとは言ってません……
……なんとかしなきゃ。
― ― ― ― ―
難しいことはさておき。
固形茶や黒砂糖の生産はなんとか軌道に乗ったようです。
さっそく商隊を編成して洛陽に送り込みます。
まず狙うべきは金持ちの需要ということで、洛陽の
白ちゃんにいろんな
今ではかなりの腕前です。
白ちゃんに砂糖を使った
これで濃いお茶で甘い
次に、移民ですね。
長沙太守の孫堅さんには、民の戸数を増やして名太守として文官仕事の名声を高めるって約束をしています。
なんで偉大な武将の孫堅さんが文官仕事やりたいのかは分からないですが、私にとっては好都合。
黄河中流域の中原地方には重税や、続発する反乱で発生した困窮した人たちがじわじわ増えています。
その根本的な原因は人口が増えすぎて農地が足りないことです。
中原地方はもう数千年も人々が住んでいるので、開墾できるような土地はほぼ使いつくされています。
なので、未開拓地がたくさんある荊州南部に、彼らを移住させて暴発させないようにしたいのです。
「お嬢様、集まりが悪いです」
「……うーん」
河伯教団の
これら、関東地方の支部は黄巾の被害の大きいところに設置されています。
いつのまにか公明くんたちが作ってくれていました。
私のやりたいことを先回りしてくれてありがたいです。
なお、荊州北部の
ここも黄巾の乱の影響で荒れまくっていたのですが、ここは
なんでもこの羊続さん。小さな贈物でも一切受け取らない上に、きわめて質素な暮らしをしており、ボロ家にボロ服を着て平気で暮らしているのだそうです。
かといって理念だけではなく、黄巾の乱では軍を率いて大活躍。
南陽を治めるにあたっても、赴任前に豪族や
おかげで布教は失敗、支部の設置は早期に諦めざるをえませんでした。
……いや、儒者がこういう人ばっかりならいいんですけどね……
でも羊姓って珍しいですね。三国志だと
話がそれました。
「えっと、移民したがらない理由が……」
・夏が暑そう
・先祖の墓があるから移れない
・引っ越しの費用が高そう
・引っ越しとかやったことがない
・言葉が通じない
・南蛮人が怖い
・水が変わると病気になる
・他所の村に入ったら呪われそう
・米を作ったことがない、稲作をしろと言われても困る
・米を食べたくない
「……うーーーーん」
いや、ちょっとこれは深刻ですね。
「中原、関東の人はちょっと……行き先が長沙と聞いた瞬間、化け物が住んでいる
「……でもでも、長沙で新田開発したほうが遥かに安く済むんですよ?!北ではもういい土地が残ってないから大工事しないとダメですけど、
「水田を貰っても使えないと」
「うぐ」
「借金があるとかでもう
あああああ、上手く行かないいいいい。
というか孫堅さんに戸数増やすって約束してて、水田も増やさないと蛮族さんが怒るじゃないですかーー!!
どうしよう。
※
・出典: 後漢書 第二十一 羊続伝
・羊祜(ヨウコ) 三国志後半の名将。呉の陸抗のライバル。羊続の孫。
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