第86話 涼州の腐敗
涼州は大漢帝国の西北の辺境であり、大砂漠と大山脈に囲まれた乾いた土地に微かに流れる川の水を使ってほそぼそと人々が暮らしている。漢人の戸籍人口は約40万であり、中原の州に比べると僅か1/10に満たない。
このような貧しい土地が州の格をもち、朝廷が多大な経費をかけて維持しているのはひとえに
しかし北方の遊牧民族を防ぐため、砂漠の奥地へ奥地へと砦や長城を拡張した結果、駐屯する兵士は数万を数え、その費用は数億銭に上る。
ならば、辺境の要塞を放棄し、前線を長安の前で引き直したほうがはるかに費用が安く済むのではないか?
朝廷では何度も涼州放棄に関する議論がなされ、大激論の末に現状維持が選択されてきた。しかし何か確たる戦略があるわけではない。面子とか気分の問題が大きい。
なので、漢朝は涼州経営についてはやる気がない。
派遣される将軍や高官の質も悪くなる一方で、軍費を横領したり、賄賂をとったり、重税を課したり、従属している異民族を奴隷のように酷使して反乱させるような連中ばかりである。
昔、
部下に名将がいたのでその功績をねたんで、わざと辺境に足止めを食らわせた。ながく足止めされたせいでその将軍の部下が反乱を起こしたが、それを罪として将軍を処罰し、
昔、
とある
つい最近、
羌族と韓遂たちが反乱を起こしたので、討伐をするという名目で兵糧数万石を横領した。そしてそれを諫めた部下を前線送りにし殺そうとたくらんだ。そのため官軍はまともに戦えずに反乱軍は連戦連勝。ついに自分が反乱軍に攻撃されたので、最初に前線送りにした部下を呼び戻して守ってもらい生き残ることができた。さすがにひどすぎたので朝廷にクビにされた。
着任早々、反乱が涼州の大部分を占拠していることに驚き、「これは礼儀が足りないのだ」と言って儒教の教本を配って民を教育しなおそうとした。まさしく反乱軍が攻めてきている状況なので部下が諫めたが聞かなかった。朝廷に「兵ではなく本を送ってください」と上奏したので朝廷が激怒してクビになった。
― ― ― ― ―
「ワシらが反乱したときの涼州の高官というのはこういう感じですな」
「だいたいろくでもないですね?!」
私、男装美少女官僚の董青ちゃんです。
まだ男装してるの?って言われてもここは戦場なんであまりに美少女だとすぐ拉致されちゃいますからね。
せっかくなので賈詡さんにいろいろ涼州の現状について教えてもらっていましたが、聞きしに勝る無能と腐敗の展覧会でした……。まぁその、歴代の
「はぁ……すごいね?」
何かの勉強になるかと弁くんにも聞いてもらっていますが、ぽかーんとしちゃってます。
あ、弁くんですか?勉強のために連れてきました。もうこの辺は董卓パパが支配してて安全ですし。戦争や反乱の実態をできるだけ肌で感じてほしいのです。
「ところで、銭が必要なんだけど、稼ぐ方法ないですか?涼州の人たちは銭や穀物も持ってないと思うので、商売も難しいのですけど」
「銭稼ぎですか……おお、でしたら持っている人間から貰うというのはどうでしょう?」
まぁ、賈詡さんってすぐに策を思いつくんですね、ぜひ教えてください。
「董将軍が羌と月氏に絹を配ったため、彼らは故郷に戻りましたが絹はまだ持っているはずです。なので、羌族と月氏族、それぞれに『相手の部族を殺して絹を回収すれば罪を許す』と使者を送ってですな、またお互いにそれが伝わるようにいたす。それと同時に騎兵で彼らの本拠地に攻めかかれば彼らは疑心暗鬼に陥って連携できず、各個に動いたり同士討ちをしたりしましょう。結果、官軍の勝利となって絹が全部回収できます。ふむ、将軍は孫文台(孫堅)将軍がよろしいかな」
「……うわぁ」
賈詡さんの策略っぽいいいいいい?!なんでそんな悪辣な策をすらすらッと思いつくの!?
うーん、有効っぽいけど……なんかヤダ。あと異民族を平気で騙し討ちするなら今までと変わらない気が。
なんか私がドン引きしているのを見て、賈詡さんが若白髪の頭をかしげて不思議そうになさいます。
「あの、ごめんなさい。私は軍権を持ってないので……、商売の案はないですか?」
「いや、商売についてはワシはあまり詳しくありません、申し訳ござらん」
……やっぱり私が考えないといけないのかな。
うーん、商売で稼ぐには相場の差が発生しているところがよくて、今は……
「商売といえば西域交易ですな。ワシの故郷の
「それだ!ありがとう文和(賈詡)さん!」
「はい?」
― ― ― ― ―
さっそく、董卓パパにさらに追加で軍事費を横領してもらい、長安で大量に絹や穀物を買い付けさせます。
特に絹の相場が下がっているのでひたすら買い占めました。
そして劉備さんの騎兵隊に護衛してもらいつつ、金城を越えて武威へ!
私の狙い通りなら、西域の商人が足止め食らっていて交易品がだぶついているはず。
長安と西域をつなぐ道の中間地点の金城は今は董卓軍の支配下にあります。しかしまだまだ盗賊や反乱軍の残党があちこちにいるので、商隊は動けていません。いまなら私の商隊が独占的利益をだせるはずです!
商隊を率いるために、馬車に乗りこもうとしていると賈詡さんが寄ってきて言います。
「あ、
「え?でもそれは悪いような……」
「いえ、ワシは反乱の罪で奴婢に落とされた身。さん付けで呼ばれるような身分ではござらんし……それに示しがつきません」
「そうですか……わかりました。では行きますよ賈詡、道案内してください」
「ははっ!
「西域かー、楽しみだな!」
弁くんは初めての旅行でさっきからずっと機嫌がいいです。結構可愛いところありますね。
※
・何この歴代刺史の皆さん……信じられますか?史実なんです↓
・(参考)後漢書 虞傅蓋臧列傳 第四十八 蓋勳傳
・(参考)後漢書 皇甫張段列傳 第五十五 段熲傳
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます