第82話 (閑話)賈詡その1
※賈詡視点です
「どうしてこうなった?!」
涼州反乱軍の主力である
どうしてこうなった。
賈詡の予定では決してこんな結果になっている予定ではなかった。
涼州反乱軍は予定通り
騎兵の少ない官軍は必死になって騎兵をかき集めているが、
結果、官軍は羌族や月氏族の遊牧騎兵による襲撃への対応をはるかに少ない官軍騎兵で行わざるを得ず、補給を断たれることを恐れて防衛に回っていた。
官軍の総司令官をやっている
もちろん、この戦略の要点は羌族や月氏族の戦意であり、だからこそ董家の人間にも「羌族や月氏族を先に倒してください」と伝えたし、羌族や月氏族には「官軍は降伏させるふりをして殺す策略を何度も使っているから、いくら宝物を積んできても引っかからないように」と何度も伝えてあったのだ。
まさか、官軍が羌族や月氏族に何も要求せずにただ絹を渡すとは?!腹いっぱいに絹を受け取った
いや、
銭で官位を買うような無能が総司令官なのだ。そんな策略を許可するわけがないし、宦官に牛耳られている朝廷がそんな作戦に予算をつけるわけがない。
一体だれがこんな作戦を実行したのか……おそらく董卓か董家の何者かだろうが……いったい誰なんだ?!
賈詡は若白髪をボリボリと
― ― ― ― ―
そう、董卓。董卓の勧誘でもそうだ。
賈詡は董卓を寝返らせるのが逆転の秘策だとずっと考えていた。なので、皇甫嵩と董卓が長安でいがみ合っている時期に、反乱軍総大将の
以前に
それなのに反乱軍の総大将の韓遂は自分で行くのを嫌がり、豪族たちも「今すぐやらなくてもいいのでは?」「やはり皇甫(嵩)将軍を再度説得しては?」と時間ばかり浪費している間に、皇甫嵩がクビになり、涼州反乱軍の討伐予算が下りてしまった。
そこで慌てて賈詡が派遣されたのだが、予想通り董卓には会っても貰えず、配下の武将や一族の人間は説得できたもののその先に進められなかったのだ。
ああ!なぜワシの提案はいつも中途半端にしか採用されないのか……。
皇甫嵩にも意見を採用して貰えなかった。
皇甫嵩は英雄だというのが涼州の漢人豪族の一致した意見であり、皇甫嵩に助けてもらえばいいという意見が多かったが、実際に従軍した身からするとありえなかった。皇甫嵩はたしかに決められたことをやるのは有能だが、自分で新しいことは始められないし、視野が狭い。
いくら宦官討伐を説いても一切まったく聞かないどころか、権限があるのに宦官排除に動きもしない。結果、宦官にクビにされて権限を失っている。
皇甫嵩の働きで一体だれが助かったのだろうか。
そこで董卓ならばと思ったが、会うことすらできなかった。
今の主君の
「賈詡ゥ!!!いったいどうなっとるんや!官軍はここまで追ってこないんやないんかい!!」
涼州反乱軍の本陣に賈詡が到着すると、さっそく騎乗の甲冑姿の将軍から叱りつけられた。
韓遂将軍だ。
「申し訳ござらぬ」
「ふん!策が失敗ばかりやないか!」
韓遂と韓遂の傘下の漢人豪族たちが口々に賈詡を非難する。
董卓が攻めてくると聞いて、賈詡が立てた策は以下の通りであった。
董卓は慎重な性格である。黄巾の乱でも城攻めに時間をかけて準備をして速攻はしない。
よって、大軍でゆっくり攻めてくるはずであり、漢陽、隴西の城をそれぞれ固めて進軍を遅らせ、軽騎兵で補給を攻撃することで時間を稼ぐ。その間に羌族と月氏族を再度説得して、包囲して補給切れに持ち込んで撤退させる。
という策である。
しかし、羌族や月氏族が
ただ、そこまでなら慎重な董卓が一つずつ城を回収するのに時間をかけるはずだったが、なぜか董卓は孫堅という武将に兵をあずけて急追撃をさせたのである。
いや、孫堅は黄巾の乱では朱儁の配下で孫堅と董卓には一切関係がないはずなのになんで配下にいる!?しかも董卓の性格と違う作戦を何故実行できる?
董卓が賈詡の想像以上の英雄だと言うことしかありえないではないか。
「で、次の策はないんか!」
「……本拠まで来ましたので兵を倍に増やしますか」
「ほう?」
とは言っても、この賈詡に策が尽きる日など来るはずがない。
腐敗した高官と宦官、功績と搾取しか頭にない関東の連中にこれ以上搾取されないために宦官を排除して政治を正す。すくなくとも涼州を救うためには今ここで負けるわけにはいかないのだ。
「ここ金城には皆さまの荘園が多くありますので、
「おう、それでどないする?」
偽兵である。漢人豪族たちの荘園がたくさん集まっている。その荘園の
「孫堅が率いているのはたった1万です。偽装を含めて10万の兵をみせれば、さすがに10倍の敵には敵わないと退くはずです。その間に軽騎兵を催して敵後方の兵糧を攻撃すれば戦わずして勝てましょう」
「さすがは賈詡やな。よう思いつくわ」
韓遂は機嫌を直したようだ。
さっそく漢人豪族を集めて
これでも献策を採用してくれるだけ良い主君ではある。身分が低いからと賈詡を無視するようなことはない。賈詡が朝廷に仕官したときは結局、宦官に賄賂するか官位を買うかでしか出世できないことが分かったので絶望とともに帰郷せざるを得なかったのだ。
せめて、人脈や賄賂ではなく、才能で採用される世の中になれば、賈詡は朝廷を守るために献策していただろう。
いや、そういう世の中にするために戦うのだ。
まずはこの作戦を……。
「……将軍、兵が足りぬようですが……」
「いや、思ったよりも
結局、漢人豪族たちが自分の財産を出すのを嫌がり、偽装兵含めて6万しか集めることができなかった。足りる……いや、足りるだろう。
普通の武将なら6倍の兵力に突っ込んでくることはない。
しかし、これだと兵糧を急いで攻撃しなければ不安だな。
「では、閣下。ワシが騎兵を率いて兵糧を攻撃してまいります」
「ほう?お前が?わかった、頼むで」
ここで負けるわけにはいかない。
賈詡はまたもや馬にまたがった。
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