第79話 人生すごろく

こんにちわ、董家の男装官僚の董青ちゃん13歳です。


補給を整えるために各地の相場を調べて、軍需物資の動きを調べています。


「……馬がずいぶんと高いですね?」


長安の市ではなぜか絹がどんどん運び込まれて値崩れしており、同時に馬と金が値上がりしています。


馬と絹?馬と絹?どっかで聞いたことが。


あ、西域交易しるくろーどの交易品じゃないですか。

西域との交通が遮断されているせいで、馬が手に入りづらくなっているんですね。


というか、西域に送れないんだから絹を持ち込むのやめてほしいんですけど、そんな急に生産や商人の動きは変わらないんですよね。


しかし、涼州で戦うのに、馬が足りないのは危険では?



董卓パパがよくぞ気が付いたと言いたげにニコニコしながら仰います。


「うむ、大軍をそろえたはいいが、騎兵が足りん。だからわざわざ幽州とうほくから援軍を呼ぶことになったぞ。公孫瓚コウソンサンが烏桓突撃騎兵を3000も連れてきてくれる」

「おお、伯珪ハクケイ兄じゃないですか!これは心強い!」


喜びの声をあげたのは劉備さんです。そういえば二人は盧植ロショク先生の同門でしたね。公孫瓚といえば三国志では袁紹と河北の覇権を争い、騎兵を率いて籠城戦して死んだ人です。騎兵は強かったはずなので期待できます。



「しかし、幽州から援軍を呼ぶ予算が下りたのがついさっきじゃからな。今我らに騎兵が足りないのは事実。わしなら……」

主公との!!涼州反乱軍の羌族騎兵が少数で侵入してきたゾ!」

「うむ、こうやって騎兵の優位を生かして官軍を疲れさせる手にでる」


董卓パパの説明の途中で、李傕リカクさんが伝令としてやってきました。少数の羌族騎兵が長安周辺のあちこちの村を襲っているようです。


孫堅ソンケンらの騎兵に計画通り対応させよ」

「はっ!」


董卓パパが作戦を命じます。江南の水兵の印象のある孫堅さんが騎兵を率いるのは違和感がありますが、部下の程普さんや韓当さんは幽州生まれで騎兵に慣れているそうです。


「さてと、騎兵の手が足りんから追い払うぐらいしかできん。早く車騎将軍そうしれいかんに出撃を命じてもらわねば先手を打たれてばかりじゃ」

董卓パパが苦々しげに言います。


車騎将軍そうしれいかんの張温さんは長安に到着してから公孫瓚をはじめあちこちに援軍を要請していて、兵力の集結に手間取ってしまっているんだそうです。大軍を揃えるのはいいのですが、動きが遅くなってしまっているので反乱軍が攻めてきてしまっています。


まぁ、補給を整える時間があるんでそこは助かりますが。



と思っていると、隣で書類仕事をしてもらってる劉備さんが声を挙げました。

「木鈴さまー、俺らにも一つ出撃を命じてくれませんか?」

「騎兵相手ですよ?劉君(劉備)は騎兵もってないじゃないですか」

「……どこかで借りれませんかねぇ?」


人手が足りないので劉備さんや関羽さんにも補給の仕事をやってもらっているんですが、なんか飽きちゃったみたいです。張飛さん?飽きる以前に机に座ってくれませんでした。外で歩兵の訓練してます。


しかし馬が足りないのは困りますね。


そうだ、劉豹くんに馬売ってもらうようにしましょう。皇帝おっさんのおかげで今回も予算はありますし、絹の現物払いなら安く買えるかもです。


というわけで、さっそく劉豹君に使者を出しました。


 ― ― ― ― ―



長安城内、董家屋敷。



コロコロ……


「五つ進む。あにゃ、『豊作です!1金を得た』です」

「わー、羨ましいのじゃー」


「じゃあ次は寡人ぼくだね。ころころ……三。えっと、禍福得喪いべんとかーどを引く。『新帝即位、昇爵一級!』めでたいね!」


漢朝このくにでは庶民いっぱんじん士大夫きぞくに共通して20等級の爵位があって、国家のお祝い事とか功績を立てると昇進していく仕組みになっています。こうやって庶民の端まで皇帝の家臣だと理解させてるんですね。


小羊君が恭しくお祝いを述べます。

「ははー、おめでとうございますです」


「うんうん、これなら毎年新帝に即位してほしいよね」

「……それは不吉なのじゃ?!」

「あれ?」


お屋敷では弁皇子、小羊さんと董白ちゃんが仲良く漢朝農民すごろくを遊んでいます。弁くんに農民の生活を知ってもらおうと作ったものです。なお、小羊さんは弁くんのお世話のために無理やりつれてきました。そして白ちゃんは私のために無理を言ってつれてきました。


「二が出たのじゃ。『鮮卑が攻めてきた。兵役を受けるか兵役代行銭を払え』……それは怖いのじゃ?!銭は少ないけど払うのじゃ……」

「ええ、国のために戦おうよ?」

「怖いからいやじゃ」

白ちゃんは堅実に危険をひたすら回避しています。そのためには賄賂も辞しません。



「コロコロ……四、『仲人の話がある。銭があるなら嫁取りができる』……します!やりましたです!家族です!」

小羊さんは豊作で得たお金を払ってお嫁さんを手に入れました。車のコマに自分とお嫁さんを指してご満悦なようです。


……宦官だから結婚できないもんね。それを考えるとちょっと残酷だったかな?いや、本人嬉しそうだからいいか。



寡人ぼくは兵役から逃げないぞ、立派に国を守るんだ」

弁くんは意気揚々と兵役マスに進んでいきました。


「えっと、兵役の結果表は……一で死ぬ。二で手足を失う。六で敵の首を取って爵位を得る、か六でろ!……三かー。何もなかった」

「ぶるぶる、やっぱり兵役は怖いのじゃ……」


白ちゃんは怯えながらもサイコロを振ります。


「五が出たのじゃ。『戸籍の調査がある』ここは銭を払ってはたけを小さく申告するのじゃ」

「それは賄賂だよ?!」


しかし白ちゃんは無事に賄賂に成功し、兵役も回避して収穫を貯めていきます。資産が溜まったのでお嫁さんにも来てもらえたようです。



「……え、お嫁さんを増やせるですか……はい!」

小羊さんは収穫で得たお金で、どんどんお嫁さんを増やしていきます。うんうん、宦官だし家族ほしいからしかたない……だから二人目でもしょうがないですね。いや?この子、見た目によらないですね……。



ころころ……次は弁くんの番です。


「……『兵役に出ていたため、はたけが荒れた。収穫半減』ええ?!国のために戦ったのになんで?」

弁くんが怒っていますが、それははたけの世話をする人が居ないからですね。兵役で得た給料は雀の涙なので、さっそくお金が足りません。豪族に借金することにしたようです。


今からちゃんと耕して収穫があれば何とか返せるでしょう。


そして翌年。


「……『ああ、イナゴだ……』」

「収穫が全部なくなったのじゃー?!」

「……あにゃにゃ……税金が払えないです?!」

「……」


白ちゃんと小羊さんが借金生活に突入。つつましい生活でなんとか返していきます。


弁くんは……

「……『借金のカタに土地を取られた』」

無事に流民になってしまいました。


今回の結果は白ちゃんが賄賂を贈りまくって、幸運にも一度も捕まらずに財産を保って一位。

小羊さんは借金漬けになりましたが、二人のお嫁さんに六人の子供を産ませてとても嬉しそうです。財産はカツカツですが二位。


そして三位が流民になり山賊となり、河伯教団の信者に身を落とした弁くんです。


「おかしいよこれ?!なんで賄賂も贈らずにまじめに兵役してるのにこんな目にあうの?!」

弁くんが怒りだしました。


「……そういう人がたくさん城壁の外にいますよ?」

「……」


そうなんです、この国の農民は代々分割相続で土地が減っていき、兵役や凶作があれば借金を負い、不運が続けば簡単に流民になってしまうのです。


政治が安定していればまだましなのですが、汚職官吏があらわれて賄賂は要求しますし、反乱や異民族の襲来があれば一気に生活が崩壊してしまいます。


そういう人たちを奴隷として受け入れているのが豪族名士たちで、肥え太るのは彼らばかりです。


「……」


弁くんは何か考えているようでした。




 ― ― ― ― ―




それからしばらくして、弁くんと一緒に流民たちを見に行くことが増えました。


流民たちを公明くんと熟練プロ信者さんが毎日布教しているので、少しずつ減っていきますが、まだまだいます。


反乱軍所属の羌族による焼き討ちで新しく発生もしているようです。



「なんで民はこんなに貧しいんだろう?」

「税が重いんじゃないですか?」

「……や、やっぱりそうだよね……寡人ぼくらが贅沢してるから」


と、意地悪を言いましたが、本当の理由は分割相続で土地が狭いからだと思います。農地が広ければ収入も多いですし、貯えもできます。農民の収入がもっとあれば税が高くても問題ないので……。新田開発したいですね。開発費用が宮殿に化けちゃいましたけど。


などと考えながら、長安の城外を散策していると。


パカラッ!パカラッ!パカラッ!パカラッ!

突如、騎馬の蹄の音があたりに響き渡りました。


慌てて護衛の兵が周りを固めます。


騎乗した人の群れの先頭にたつのは見知った顔の少年。


「青!結婚するって本当?!」


劉豹くんでした。なんか怒ってます?

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