第78話 長安の情勢

やや、こんにちわ。私、董家の若手官僚である男装董青ちゃん13歳です。



董卓パパに牛輔義兄と子飼いの武将だけが集まった部屋で賈詡さんの訪問について父上に報告します。

「ということで、涼州反乱軍は降伏したいといいつつ、父上を寝返らせようとしていました」


「お嬢様、あれは寝返りではネエぞ」

「そう、主公とのさんを盟主に涼州から天下に号令しようって案やで!素晴らしいやないですか」

なお、李傕リカクさんと郭汜カクシさんが口を挟んできましたが、すでに二人は賈詡さんに論破され済みで完全に納得しちゃってるようです。お静かに。


「で、それが叶わないと見たか別の条件を出してまいりました。反乱軍のうち異種いみんぞくであるキョウ族や月氏ゲッシ族を先に討ってくれれば涼州豪族は素直に降るとのことです」


そこまで聞いて、父上が口を開きました。


「ふむ、朝廷が予算を付けたから反乱軍も焦り始めるとは思ったが、条件をつけるとはずいぶんと偉そうだな」

「さよう、そもそも反乱軍が許してほしければ今すぐ出頭する以外にないのですよ?」

牛輔兄も言葉を続けます。


あれ、お二人とも反乱軍に参加とか言い始めないか不安だったんですが、それは大丈夫でしょうか?



と思っていたら、賈詡さんに説得され済みの李傕さんと郭汜さんが発言しました。

主公との、ここはご決断ヲ。宦官討滅と辺境の安定は我らの悲願デ!」

主公とのさん、朝廷から討伐予算が少ないのも全部宦官のせいやないですか。主公とのさんが政治を叩きなおして、名士の政権を作れば全部解決でっせ!」


しかし董卓パパはあまり説得されていないようです。

「まぁ、それは聞こえがずいぶんいいがなぁ」


良かったです、私も賈詡さんを説得した話をします。

「そうですよ、そもそも朝廷が宦官が予算をため込んでいる上に、豊かな関東の2000万の民からいくらでも補給を得られます。関西100万の人口では山を越えて函谷関を抜いて洛陽に至るのは難しく、そこから中原を制覇するのは……」


と言ったところで董卓パパが口を挟んできました。


「む?数字ではそうだがな、そこはやりようがあるぞ?まずそれは羌や匈奴の人口が計算に入っておらんし、わしが東に向かえば関東の名士も呼応しよう。袁老師(袁隗)とも連絡を取れるしな」


あれ?董卓パパはやる気なんですか?


「では!」

李傕さんと郭汜さんが食い気味に董卓パパに向きます。



董卓パパがゆっくりと口を開きました。

「やらんぞ。気に食わん。あいつら、先に皇甫嵩に声をかけた・・・・・・・・・・からな。ダメだったからわしに来とるんだ」

「まったく、見る目のない連中です」

牛輔義兄も呆れたように言いました。


……いやいや、まっさきに董卓パパを誘いに来てたら受けてたんですかー?!


「……それは仕方ねえナ」

「すんまへん。危うく、主公とのさんをナメてるようなやつらのいうことは聞くとこでしたわ」

李傕さんと郭汜さんもそれでいいんですか。一発で納得しちゃってますけど……男や戦士の誇りってやつなんですかね?うーーん、よく分かりません。



董卓パパによると、皇甫嵩おっさんには涼州豪族の部下が多く、黄巾党を討伐したときから彼らが涼州軍とつながっていたそうで。皇甫嵩が黄巾討伐軍を率いたまま東の冀州キシュウで挙兵し、涼州軍が西から攻め込み、東西から漢朝を挟撃する案があったそうです。成功したら皇甫嵩おっさん王朝を建てようとまで言っていたとか。


という風に私は地図を頭に思い描きながら考えます。

いや、それ食らってたら皇帝も危なかったでしょうね。




たしかに皇甫嵩も涼州出身の出世頭ですから、涼州軍としてはまず皇甫嵩に声を掛けますよね……あっそっか。これって明確に「董卓パパが皇甫嵩の格下」って扱いなんだ。それはむかつきますね。



「いまさらやっても皇甫嵩の反乱案の劣化にしかならんのが極めて気に入らん……それにもっと良い方法があるしな」


というと董卓パパが私を見ました。

……あれ?そのもっと良い方法を聞きたいんですが……?


なぜか董卓パパは私を見て。


「がんばれよ」


とだけ仰いました。何を頑張ればいいんですかね??




「反乱軍の妄言は気にしなくて良かろう。とりあえず我らは粛々と討伐を行う」

「ははっ」


うーん、とりあえず私は兵糧の用意をすればいいんでしょうか。


 ― ― ― ― ―



視察と情報収集のため、男装しておでかけしようとしたら董卓パパに服を着替えさせられちゃいました。なんかずいぶんと上等な絹服ですけど、私には似合わないような……?


あと、動きづらいんですけど。仕方なく馬車に乗ります。屋根付きのやつではなく、大きな傘のついた三人乗りの二輪車ですね。


弁皇子を隣に乗せて、御者は公明くんがやってくれます。

趙雲さんが騎兵を連れて護衛についてくれました。


……なんかずいぶんと大仰な行列になっちゃいましたね。



長安城は洛陽には敵いませんが、やはり大変栄えているまちです。

ただ、全体的に空地がおおく、スカスカした印象があります。


これは旧首都だったときに広く設計された城がそのままなためですね。官吏が洛陽に移って人が減ったから空地が増えたんでしょう。城内に畑地も多くあります。



そして、ここにもあちこちに難民の姿が見えます。

それぞれ日雇いや討伐軍の人夫などをしてなんとか食べているようです。


「弁皇子、ごらんください。あのように庶民は暮しが厳しいものも多いのです」

「なるほど……」


しかし反乱から逃れてきた人でしょうか?いつも通り施しをして話を聞いてみます。




「粥を配るぞ!」

「ありがたや、ありがたや」


さっそく臭くてボロボロの服を着た人たちがワラワラと集まります。


「涼州の反乱で家を焼かれて逃げてきただ」

「臨時税を払えなくて土地を売っただ」

「虫がでて収穫がなくなってしまっただ……」


もっと反乱の影響が多いかと思いましたが、そもそも貧乏で凶作に耐えられない人や、この間の臨時徴税で没落してしまった人も多いみたいですね。


それで何十億銭も蔵にため込んで皇帝喜んでますけどね!!!



「……このように重税を課し民の貯えを奪うと、虫や水害などの凶作に耐え切れずに土地を売って逃げるしかなくなるのです。土地を失った農民は収入がなくなり飢えて凍えてしまいます」

「……宮殿をなおせばいいなんて気軽に言いすぎてた。ここの人たちに比べれば建物の一つや二つ焼けてたって大したことないじゃないか」


弁くんも初めて難民をみてけっこう心に響いているようです。その気持ちを大事にしてくれればいい皇帝になれると思いますよ。



長安をぐるっと馬車で回って、帰ってきました。

難民には驚いたようですが、弁くんも話に聞いていただけの長安を見て回れてとても興奮しています。


私は建物や城を見てもあまり面白くないので、やっぱり難民が気にかかります……。




長安の董家屋敷にもどって弁くんと別れて部屋にこもります。


「さてと、あの難民さんたちをどうするかですね」

「お嬢様、いつも通りで良いですか?」


私が独り言を言っていると、公明くんが話しかけてきました。

いつも通り……?


「そうですね、まず仕事を作って……」

「お任せください、準備できております」


そういうと公明くんが河伯教団長安支部の案を持ってきました。

すでに必要な物資の計画や布教用人員の確保、そして用地選定まで済んでいます。

将来的には関西の各郡にも広げる計画のようです。


「え?いつのまにここまで?」

「難民が多かったので、お嬢様はきっとこうすると思いました」


うわ、すっごい助かる……またいろいろ考えたり用地探ししなきゃいけないかと思った。補給計画も立てなきゃいけないから忙しかったんですよね……


「公明くん、本当にありがと。助かります!」


思わず抱き着きそうになりましたけど、我慢して公明くんの手をとって感謝します。


「あわっ?!」


……なんか突然公明君が真っ赤になってしまいました。

照れないでくださいよ私まで照れ臭いじゃないですか。




というわけで、長安でも河伯教団を作って難民さんを受け入れることになったのです。




・正史でも下記のとおり涼州反乱軍が皇甫嵩を動かそうとしていました。

 後漢書/卷71 皇甫嵩伝 「漢陽の人、閻忠は皇甫嵩に反乱を説き、失敗した」

 資治通鑑/卷059 孝靈皇帝下中平六年 「韓遂は閻忠を(涼州反乱軍の)首領に仰いだ」

 三國志/卷10 賈詡伝  「漢陽の人、閻忠は賈詡を認め、張良陳平に匹敵すると言った」

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