第73話 修復しなきゃ

こんにちわ、美少女女官の董青ちゃん13歳です。



悪い宦官見つける大作戦により、宦官の悪事を指摘したのですが12人いる十常侍の張譲チョウジョウさんと趙忠チョウチュウさんに上手くしてやられてしまいました。


見つけた宦官は『自殺』してしまい、その責任を取らされて皇帝のお気に入りの蹇碩ケンセキという新興宦官勢力の人が謹慎。


さらに、宮殿修復の任務が言い出しっぺ扱いで何進派閥に降ってきてしまい予算無し、つまり自腹で宮殿を修復しろと押し付けられる始末……。


弁皇子も激しく動揺してしまっていますから、今後は宦官に厳しく言わずに何かあれば事前に張譲さんや趙忠さんに相談してしまうでしょう。


今の皇帝おっさんのように!

今の皇帝おっさんのように!


うん、全部張譲さんと趙忠さんの得になってますね。





うん、ごめんなさい。正直宦官をナメてました。あれだけ分かりやすい悪事をしながら好き勝手な政治をしながらも政権を維持しているんです。


漢朝の法律や決まり、そして何よりも皇帝や皇族の機嫌の取り方を熟知している政治力の化け物なんですよ。



下っ端の宦官がマジメに働いてる?趙忠さんが親身になって皇子の世話をしてる?だから悪事を働いて私腹を肥やしてるのは別に居るはずだ、なんて先入観に完全に騙されてました。


宦官たちは皇帝に忠実に仕えている有能な召使、だからこそ腐敗してて悪事ができるんだと考えなきゃダメだったんです。




それを勘定にいれて、宦官の害を除くには……。何を言ったって皇帝や皇族の信頼は揺るがないわけで……。



言い訳の暇もなく一気に全員を排除……。

うわぁ、袁紹さんの宦官大虐殺が正解だと言うことに……



それだけは嫌だ。それが三国志らんせ一直線じゃないですか。




何かおかしい、まだ何か騙されてる気がする。

本当に悪いのが宦官なら宦官を皆殺しにしたら解決するはずじゃないですか。



三国志を思い出せ私。なんで三国志が起きた?表面的なことじゃなくて……漢朝このくには黄巾の乱に対処できた。黒山賊だって対処できてる。涼州の大反乱だって起きてるのに洛陽はこんなに平和だ。


三国志の魔王董卓が独裁して、討伐のために反董卓連合軍が発生したのに、宦官が政治を牛耳ってても地方政府が従ってるのは……。



成人した皇帝陛下が居て、権限も財源も確保してるからですね。反乱が起きたらその権限と財源で殴れるからです。すくなくとも今の皇帝は三国志の献帝みたいなお飾りでも傀儡でもないです。


宦官は好き勝手してますけど、それは皇帝が宦官を信頼しててある程度分かっててやらせてるところもあり。宦官だって皇帝の信頼がないと死ぬから忠実な召使の立場は崩さないわけです。


三国志の献帝が三国志の董卓や曹操に逆らったりはできませんが、皇帝はやろうと思えば宦官を追放したり処刑したりできます。十常侍が黄巾党に内通してた時に皇帝が激怒して宦官が裸足で泣いて謝ったということがありました。


宦官は今の皇帝に表立っては逆らえません。裏でコソコソはできますが、コソコソ前提です。

表向きに宦官が玉座を奪って漢朝を滅ぼしたりはできないわけです。

そんなことをしたらそれこそ袁紹さんが大喜びで名士たちを率いて大反乱起こすでしょうからね。




つまり、今の政治がダメなのは。




あの皇帝おっさんが悪いんですね。




 ― ― ― ― ―




洛陽の宮殿の弁皇子の部屋。



弁皇子がメソメソとふさぎ込んでしまっています。


「うう……あの上奏文はいいことだって盧植も褒めてくれたのに……あんなことになるなんて」

「いえ、皇子は間違ってません」


あの皇帝おっさんの政治が間違ってます。あと教育方法も間違ってると思います。


きっぱりと言い放った私にびっくりして弁皇子が聞き返しました。


「え……でも人が死んだよ?あれは寡人ぼくのせいで……」

「違います」


あなたの親父が間違ってる、と言いたいところですがそんなことを言ったら13歳の多感な男の子の精神なんてすぐにボロボロです。


13歳の多感な女の子としては、耳の長いおじさんの話をそのままするだけです。


「罰を受けるべき人間がその悪事を公開されて自殺しただけです。皇子が指摘しなければ今でもより多くの人が迷惑し、賄賂を取られていたことでしょう。皇子は見ておられませんが、今回のことで助かった人々はいます」

「そ、そうかな……」


弁皇子はほっとしたようにつぶやきます。


「でもさ、宮殿を建てなきゃいけないんだ。どうしよう、何進伯父さんに相談したほうがいいのかな……」


もう、何進派閥への意趣返しで、13歳の多感な男の子にどれだけ押し付けるんですか……。


「そんなの私にお任せください」

「えっ?!できるの?」


出来ますよ何言ってんですか。


私は河伯の巫女だぞ。




 ― ― ― ― ―




洛陽城内、禁中きゅうでん



カーンカーンカーン!!


宮殿の造作けんせつがどんどん進んでいきます。

現場に入っているのは河伯教団の信者さんたち数百人。


城外では地方から運ばれた木材石材をどんどん受け取り、加工しています。



この時代の建設費用というのはほぼ人件費と材料費です。で、材料そのものは地方から運ばれて宦官が安く買いたたいたものに加え、河東から運んだものもそのまま使えます。


そして人手ですが、孟津支部で洛陽城に集まってる流民さんたちを全員信者として雇用しました。


ええ、ここまで全額が教団の持ち出しですね。ものすごい勢いで銭も穀物も飛んでいきますよ。


あはははは。


あ、皇子命令で宮殿建設の技術者は将作大匠府建設局から無理やり引き抜きました。




「木鈴殿……銭をお持ちしました」

「ありがとう呂伯奢リョハクシャさん!」


男装している官吏姿の私に、洛陽の大商人で曹操の友達の呂伯奢さんが話しかけます。

河東の産物を売る約束で、前借した売上金を持ってきてもらいましたのです。



みるみる進んでいく建設現場を見ながら呂伯奢さんが感心したように言います。

「いや、河伯教団の力というのはすごいものですな」

「いえいえ、彼らには人手を借りただけで。まぁ仕事をして国に尽くすのだという教団ですから。皆さん大喜びみたいですね」


他人事みたいに言う私。一応、董家の木鈴さんは河伯教団とは無関係ってことになってますしね。


「しかし、董家でこれだけの銭をお出しになるとは……」

「何一族や袁一族からも協力銭はいただいていますよ?」


それこそお気持ちだけ頂いています。一応何進派閥を動員せよというのが皇帝陛下のご内意ですからね。


でも、実際はほぼ教団で出しています。董家から出したことになってる分も教団で出してます。


「木鈴どの、ここまで自腹でされるのは何かお考えが?」

「いえ、洛陽に来てから宮殿が焼けていて悲しいと思っていましたので、いつか修理できればと常々思っていまして」

「これは、なんと立派な憂国の志……」



呂伯奢さんが心服してくれてますが、当然狙いは別にあります。

言われたから宮殿直してるわけじゃないです。


私の狙いはですね。


 ― ― ― ― ―




禁中、弁皇子が皇帝に呼び出された。


皇帝は上機嫌で弁を褒めている。

「弁よ、外戚しんせきの上手い使い方を覚えたようだな。大変よろしい。皇帝は外戚に使われてはいかん、使うのが大事だ。皇帝に一歩近づいたな」

「ありがとうございます陛下。そう言っていただけると光栄です」


弁がそつなく回答する。


「そうだ、弁よ。何か褒美をやろう。何が良い?何一族しんせきに何か官位でも推薦するか?それともそろそろ女か」

「はい!一つお願いが……宮殿の外に出たいのです。今回のことで僕は世間を知らないことを痛感いたしました。安全で便利な宮殿に閉じこもっていては勉強になりません。どうかまた洛陽の町で住むことをお許しください」


弁の発言に、皇帝の表情が真剣なものになる。周囲の宦官がざわめきだした。


「む……そういえば幼少時にそなたを嵩山スウザンの道士に預けたことがあったな」

「はい、大変勉強になったので……」



張譲が進み出てきた。

「陛下、このように聡明な皇子に何かあったら、漢朝の先行きに問題が……宮殿から外にお出しになるべきではないと思います」


それを見て弁が言う。

「……陛下、洛陽の町にでるだけです。どこに危険がありましょう。それに……僕がいなくても協がいます」


皇帝は弁を見て、張譲を見て、そしてここにいない協を思ったか宙を見て、そして言った。

「分かった許す」



ということがあり、弁皇子は洛陽城内で、嵩山の道士に預けられることになったのである。もともと宮中で幼児がなかなか育たないということがあり、弁は幼少時に一度預けられていたのであるが。再度、外に出されることになったのだった。






 ― ― ― ― ―







ところかわって、漢朝の古都長安。


長安は黄河の支流である渭水の南にあるまちです。

今の首都洛陽から西へ千里。あの有名な函谷関カンコクカンを超えて、関西地方の中心都市であり、秦の首都、咸陽カンヨウは川を挟んで北にあったようです。きっとこの近くに兵馬俑も埋まってることでしょう。




長安、董卓屋敷。



「父上!!」

「おお、小青青ちゃん!!久しいのう……」


私は董卓パパの姿を見て駆け寄ります。


ああ、牛輔義兄さんに、李傕さん、郭汜さん……懐かしい人ばかりです。

半年ちょっと会わなかっただけなのにもう数年も会わなかったような気分です。



「で、そちらの若者はどなたかな?」

「あ、はい。皇子様です」


「は?」

「はじめまして、皇子の弁です。木鈴さんに連れてこられました」

「はい、拉致らちってきました」


にっこりと笑いながら説明する私。ええ、拉致りましたよ。だって三国志を防ぐためには、皇子があそこに居たらダメですからね!!



董卓パパは弁皇子の顔をじっくり見て……


「まさか……そのお顔は……以前宮中で?!?!!!」


バタン!!



「董将軍が倒れられたぞーー!?」


パパまで人のネタ取るんですか?!!









 ・第二章おわりです。 次は第三章「涼州からの風」となります。

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