第71話 検収(うけとり)
はいこんにちわ。美少女女官の董青ちゃん13歳です。
洛陽の命令を受けた河東郡太守からの
しかし、洛陽の役人が材木を受け取ってくれません。これでは
― ― ― ― ―
各地方から運ばれて山積みになっている材木や石材を前に立ちすくむ
えっと、材木の運び先というのは……私は思いついたように言いました。
「えっと、建設資材ですから、
「わしもそう思うたんじゃが、担当が違うと言って追い返されたんじゃ」
「えええ、拒否するなら担当教えてくださいよ」
「わしらはまだマシじゃ、早うに来とるやつらなぞ、もう木材が腐り始めとるで」
「野ざらしですからね」
「というわけで、巫女様なら宮中に伝手がないかなと思うんじゃが」
なるほど、というか宮殿の修復は皇帝陛下の命令ですからね、どこかの役人が仕事してないんでしょうから……皇子にいいつけてあげましょうか。
ざわざわ……
などと、考えていると急に騒がしくなりました。
城内から立派な服装の役人がわらわらと出てきたのです。
真ん中に居るのは黄色い服のなよっとした感じの方々。宦官さんですね。
「
「これはこれはご苦労様です、それでは先に来ていただいたところから木材の品質確認をさせていただきますよ」
「あ、ありがとうございます!こちら涼州からの荷です!」
各地方の担当者さんが一斉に寄り集まって宦官さんたちのところに集まっていきます。
はぁ、どうなるかと思いましたが、ちょっと仕事が遅れてただけですか。ここはこの時代のあるあるで、ちゃんとした時計なんて無いので、仕事は結構10日とか月単位でのんびりやる傾向にあるんですよね。
ガチガチに縛っても誰も対応できないんです。だからのんびりさんですが、ようやく担当者が見つかったんでしょう。
と、材木をチェックしていた宦官さんの眉が急に吊り上がりました。
「……これはいけませんね?材木が腐ってますよ?」
「いや、それは
「あなた、
「いえ、めっそうもない?!」
「だったらやり直しね。全部また涼州から運びなおして頂戴」
「それは困ります?!」
……なんか雲行きが怪しくなってきましたね?
涼州から来た担当者さんとかもう泣きそうになってます。そもそも涼州は半分以上反乱軍に制圧されてるから手ぶらで戻って材木運び直すなんて、それは大変でしょう。
「あ、賄賂渡しとりますで?」
「……」
楊奉さんが私を突っついて小声で言います。ああ、もうこの国の政治ぃ……。
賄賂を受け取った宦官がふぅやれやれという感じで言い始めました。
「まぁ、しょうがないですね。涼州も大変な時期ですし。これで引き取ることにいたしましょう。でも買上げ価格は公定の十分の一とします」
「そんな?!」
「あら?全部やり直しでもいいところを譲歩しているのですよ?!」
「か、かしこまりました……」
えっと、宮殿作りは公共事業です。その費用はすでに天下に臨時徴税して集めているので、材木や石材は「定価で買う」という約束になっていました。
これが1/10だと輸送費も出ないでしょう。
涼州の担当者さんは泣きそうになりながらなんとか材木を受け取ってもらい、納品書を貰って帰っていきました……。
― ― ― ― ―
「次!次はウチをお願いします!まだ腐ってませんから!」
「だめよ。今日の仕事は終わり。我々も忙しいの。一度に持ってこられたって一度に宮殿は作れないでしょ?少しは人の都合も考えたらどうなの」
めちゃくちゃなことを言い出しましたよこの人。あなたこそ人の都合を考えてください。
「そんな?今受け取ってもらえないと腐ります?!」
「何言ってるの、ちゃんと管理なさい!あなたの責任でしょう」
つぎは待機していた并州の担当者さんと宦官が揉め始めました。
たしかに仕事の段取りとか決まってませんし、多少の日程の前後はあるでしょうけど。これだとわざと腐るまで待ってるような気が……。
え。まさか。
「分かりました、では次はウチでお願いします!」
「皇室の行事が立て込んでいて大変なのよねぇ?」
「そこをなんとか……」
懇願する并州の担当者さんに言を左右してのらりくらりとかわす宦官。
「あ、賄賂渡しとりますで?」
「……」
楊奉さんが私を突っついて小声で言います。
ふぅやれやれという感じで宦官さんの態度が変わりました。
「まぁ、できるだけ早く受け取りに来てあげるからもう少し待ってなさい」
「ありがとうございます!」
并州の担当者さんが賄賂を貰ってもらえたのでお礼を言っています。
この国の政治ぃ……
― ― ― ― ―
楊奉さんが宦官にお願いしましたが、うちの順番は并州のさらに後となりました。
これはウチの材木も腐るかもしれません。
楊奉さんと相談します。
「どうしやす?腐らないように天幕でも張ります?」
「……そうしたらそうしたで、色が気に入らないとか別の理由で拒否する気がしますね」
「あと、賄賂なんじゃが、ワシら、人夫の旅費しか持ち合わせが無いけぇ……これを渡してしまうと飢えるで……」
楊奉さんが銭を貸してくれと言います。渡さないと材木の引き取りになんか来てくれないでしょう。しかし銭を渡すと人夫として運んでくれた信者さんたちの食費が足りない。切実な悩みですね。
……あれ?なんかおかしくないですかね?私たち洛陽の命令で洛陽が買い上げる材木を運んできたのに、なんでお金を払わないといけないんですか??
「そうですね、ではこうしてください」
……
……
楊奉さんが宦官さんたちに話しかけます。
「
「あなた達の順番はもっと後よ、待ってなさい」
「いやいや、そうではなく、お世話になるんでぜひお礼をしたいんじゃ
と言いながら、手持ちの銭と一緒に楊奉さんが自分の名刺を差し出します。
「まぁ、良い心がけね、じゃあこれを」
楊奉さんが無事に名刺交換を終えて、宦官さんの名刺を入手しました。
この時代の名刺は面談を申し入れるときに渡すもので、交換するものではないんですが、賄賂が効いたみたいです上手くやりましたね。
さてと、楊奉さんや信者さんたちの食費が無くなっちゃったので、みんなが飢える前に早くケリをつけませんと。
※
・当時は名刺が一般的で、禰衡さんが名刺を用意したり、朱然の墓から名刺が出土したりしています。人に面会を求めるときには案内人経由で名刺を渡して案内されるのを待っていたようです。
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