第70話 悪い宦官を探そう
こんにちわ、美少女女官の董青ちゃん13歳です。
あれから
孫堅さんは私と董旻叔父様にお礼を言いながら、もともと広い肩幅をさらに張って長安に旅立って行かれました。
いやぁ、やりました!私偉い。三国志の主人公の一つ、呉の主要人物が丸ごと董卓パパの部下ですよ。これで董一族皆殺しの運命から大きく遠ざかったことでしょう。
もう一人の主人公、劉備関羽張飛の三兄弟は
最後の主人公、最強勢力の
なにせ三国志ですからね。主人公の三勢力を抑えていれば乱世になってもかなり有利になるでしょう。
……ただし、それだけでは根本的な解決になりません。
やはり、乱世を防ぐのが第一です。
そして最大の問題は
なので、悪い宦官を見つけて先に処罰することで、名士たちの決起を防ぐというのが主な作戦になります。
……ということを考えていたら、私の
なんか私がお見合いをぶっ壊したり、男装して仕事をしたりするので白ちゃんに心配されてしまっているようです。女の子として。
私は良い機会なので、白ちゃんに向き合って諭すように言いました。
「
「……お見合いを組んでもらえるのじゃ?」
「そうです!即座にお見合い結婚して家庭に入らなければいけなくなります!!」
「お姉様が問題なく幸せになれそうなのじゃが?!」
「ダメです!そんなことをしたら
「もともとお姉様と白とでは結婚は無理なのじゃ!?」
「そんな?!」
白ちゃんに可哀そうなものを見る目で見られていますが、冗談です。冗談ですよ?だって仕方がないじゃないですか。
董一族皆殺しの未来を防ぐために活動してるとか言ったら余計変な目で見られます。それにただでさえなんか実現する予言を言う巫女みたいになってますから、本当になってしまいそうで嫌なんです。
そう、私の使命は董一族皆殺しの未来を防ぐこと!白ちゃんが殺されるところなんて見たくありません。そのためにはまだ結婚して家庭に入るわけにはいかないのです!
白ちゃんに可哀そうなものを見る目で見られて困ります……。
― ― ― ― ―
さて、所変わって、洛陽の
後ろにお盆を持った宦官さんたちを引き連れ、しずしずと
お盆の覆いを取って、美しい黄金色に焼きあがった点心をご覧にいれます。バターを塗った表面はテカテカと光り輝き、あたりに
「本日の新作で、
「おお……」
何皇后が期待を抑えきれない顔で
「では早速、切り分けまして」
お盆の上で小刀をいれて、
「ああ……早よう!」
何皇后様はもう我慢できないようで、早く持ってくるように宦官に指示します。ですが。
「まず私が毒見いたしますわ」
とふくよかなお婆ちゃん……じゃなくて宦官の趙忠さんが進み出て、大きな一切れを遠慮なく掴んでしまいました。
「ふむ。匂いは良し。味は……はむ。あら、美味しい……」
「ああ、なぜ妾より先に食べるのよ?!」
「必ず毒見せよとおっしゃったのは皇后殿下ですよ」
とはいえ、
と呆れてみていたら、趙忠さんがこっちをみてこっそり目くばせなさいました。いや可愛いふりをしてもダメですよ??太った宦官のお爺ちゃんですからね?!
「ああ、半分になってしまった……美味しい」
なんか何皇后が悲しみながら
嬉しいのか悲しいのか忙しい方ですね。
はい、私、董木鈴は宮殿の
「今日の新作もなかなか美味しいわね!褒めてあげるわ!」
何皇后様ですが、最近はあまり鍛えていただけなくなりました。
これでは花嫁修業にならないのでは……?
「でしょう?僕が勧めたおかげですよ」
何皇后の隣に座っている弁皇子が何故か威張ってますが、あなたの手柄ではないと思いますよ。
― ― ― ― ―
というわけで、なぜか宮廷のお菓子係となり、給料が増えました。また待遇もよくなって、宦官の部下もつけてもらえました。
「最近、皇子殿下が活発になっておられるからね?木鈴さんと遊び始めてからいい傾向ですよ?」
どうも最近、弁皇子が自信を取り戻して、皇帝にいろいろ助言だとか始めたとのことで、皇帝の評価が良くなっているのだそうです。
「皇后さまも貴女を認めてるようですし、いい雰囲気になっても構いませんよ?帯もちょっと緩く着付けさせてますから」
「なりませんよ?!」
趙忠さんがとんでもないことを言い出しました。いやいや。皇子様だっていつも遊戯で遊んだり、政治の話をするばかりでそういうことないですから。まだお子様ですよ。私もですが。
趙忠さんが不思議なものを見るような顔をして仰います。
「珍しい子ね、宮中に上がった女官なんて皆その機会を狙ってるというのに」
「ええと、なんというか、私なんかまだ子供なので、ご遠慮させていただければ」
「あら、謙虚じゃない。皇子様も気に入っておられるし応援してますよ?」
「ご遠慮いたします!」
しかし、悪い宦官というのはどこにいるんでしょうね。
趙忠さんはなんか孫のためにかいがいしく世話をしてるお婆ちゃん(宦官です)みたいな感じですし?宮殿の宦官もただの召使しかいませんよ。
政治をゆがめて賄賂を要求している悪名高い
12人いる十常侍のうち、一人がこの趙忠お爺ちゃんです。なんか噂と全然違うんですよね……。
― ― ― ― ―
そして、皇后さまのお部屋に戻ります。
「ねぇ趙忠、宦官たちは毎日仕事を頑張っていて、漢家に尽くしているのに世の名士は宦官の悪口ばかりを言っているよね。なんでだろ。悪い宦官っているのかな?」
「は?」
私が作った
悪い宦官がいるなら趙忠さんが知ってるはずです、弁皇子に役に立ってもらうことにしました。
「ええ、その……皇子殿下のご存じの通り、悪い宦官など居りませんし、いたら私や張常侍(張譲)が捕まえて追い出しております」
「賄賂を取って法を
弁皇子がさらに質問します。
「うう……殿下、そのような悪人が宮中にいましょうか?!もし居たとしたら恥かしくて首をつって死んでしまいます!そのように思われるだけで我らは悲しく思います、しくしく」
なんか趙忠さんが泣き出しちゃいました?!!
ちょっと弁皇子もびっくりしています。
「あわわ……その、趙忠が悪いわけじゃなくて。ごめんね?ありがとう。別に僕が疑ってるわけじゃないよ」
「殿下、どなたがそのようなことを?」
趙忠さんが涙をふくために顔を
「誰ってわけではなくて、そういう噂だって」
皇子にはそう言うようにお願いしておきました。
趙忠さんはちょっと考えてから、弁皇子に言いました。
「……我らは陛下や皇室だけを考えて仕事をしておりますので、それが気に入らないものが心のないことを言うのでしょう。また、過去に悪い宦官が居なかったわけではありませんが、そのようなものはすでに罪を受けておりますので今の宮中にはおりませんよ」
「ありがとう。悪い宦官が居たら陛下に申し上げて罰してもらおうかと思ったんだ、だってみんなも迷惑でしょ?悪い宦官を見たら教えてね?」
「おお、皇子殿下のお心遣い、大変ありがとうございます。ええ、もし悪い宦官がいましたら真っ先に陛下や殿下に申し上げますとも。皇子殿下、
なんか趙忠さんが万歳じゃなくて皇子だから千歳していきました。
……うーん、政治の乱れ方からして宦官に悪い人が居ないわけないので完全に信じるわけじゃないですが、でも弁皇子や何皇后からしたら普段お世話になってる人間に対してこれ以上厳しく言えないですよね。
銭集めを宦官に頼ってしまってる
― ― ― ― ―
「あにゃ、木鈴さま、木鈴さま」
控室に戻った私に、私の部下になった美少年宦官、小羊さんが話しかけてきました。
「これは噂ですよ!噂なんですが!
「なるほど、ありがとうございます」
蹇碩って確か、曹操さんの逸話で出てきたような。曹操さんが親戚の法令違反を咎めて死刑にしたのを恨んでたけど、叩いても埃が出ないので諦めて栄転で追い払った小悪党だったような気がします。
今は勅命を伝える係である小黄門って役職で、皇帝陛下の側近をやっているはずです。悪いことをしようとしたらやりやすい位置ですが。
……いや、都合のいい情報が手に入りましたね。これが都合がいいのは……
「で、誰に言えって言われたんですか?」
「ふにっ!?だ、だ、誰にも言われてないです!本当ですあります!」
小羊さんはそれを聞くと顔を真っ青にして言い張りました。
さっきの会話の流れからすると、趙忠さんかその取り巻きの人が小羊さんに言えって言ったんでしょう。小羊さんが逆らえるわけないですしね。
そして私が弁皇子と遊びながらその情報を伝えて、弁皇子が皇帝に伝えると。ん?これって誰が得するんでしょう?
― ― ― ― ―
董家屋敷に戻った私は、
「ああ?
「なるほど」
すると蹇碩さんの悪い噂を流すのは趙忠さんの得ですね。うわさを流してきたのは趙忠さんか、その取り巻きかですね。
「何でそんなこと聞くんだ?」
「宮中で蹇碩さんの悪いうわさを聞きまして」
「……絶対に関わるなよ?!宦官どうしの勢力争いとかどっちに巻き込まれても死ぬぞ?!」
たしかに厄っぽいですね。いくら私が迂闊でもこんな見え見えの罠に突っ込むわけには。どっちかというとお世話になってる趙忠さんの味方をしたい気分はありますが、なんか策略に利用されるのは避けたいです。
「もちろん関わりませんよ?」
「冗談になってないからな?本当にやめろよ?!」
叔父上が必死なので、聞かなかったことにしておきましょう。
うーん、宦官の悪事を見つけるのは違う方法がいいんでしょうか。
……
……
あまりうまくいかないので、私は気分転換に河東のハゲ熊、
うんうん、順調に生産が伸びているようですね。資金もかなり溜まってきているようです。
で、「人口が増えてきたので、新田開発をしませんか」ですか。
田という漢字は田んぼのことではなく、畑全般を指す漢字です。なのでここで楊奉さんが言ってるのは麦畑や粟畑のことですね。というか畑も畠も日本の字なので漢代にはありません。全部「田」です。
あ、でもお米も食べたいですね。長江のほうに教団支部作れないもんでしょうか。
さて、当たり前のことですが、簡単に畑が広げられるなら土地を失って貧乏になる人はいません。土地はいくらでもありますが、畑に向いている平坦で肥えた土地は少なく、さらに水も足りません。雨水だけでは作物が育ち切らないので、水路を作って灌漑をする必要があります。
となると、小手先でできることではなく、大量の人出と多額の資金を用いて腰を据えてやらないと新田開発はできないので今まで避けてきたんですが……できなくはないか。
うん、では
― ― ― ― ―
洛陽の董家屋敷に楊奉さんが訪ねてきました。
久しぶりに楊奉さんのクマのようにごつい身体に生えたハゲ頭を見て、一安心します。
「……どこ見てんじゃあ巫女様?!」
「いや、楊さんだなぁと」
「巫女様も変わりないようじゃの……えっと、本日参りやしたなぁ他でもねぇ。新田開発についてじゃ。
「それはよかった、あの燃えた宮殿がついに修復できるんですか。それなら簡単でしょう?」
「おう、太守の指示どおりに木を切っての?洛陽まで運んだんじゃが……見てもろたほうが早いけ」
「はぁ」
私は楊奉さんたちに案内されて、洛陽の城門の外に積まれている宮殿修復用の木材の山にたどり着きました。
「あれ、なんで城門の外に山積みにしてるんですか?あと多すぎません?」
「……こっちの木材の山が河東郡の荷じゃ。あっちは并州の荷、こっちは涼州の荷」
「はぁ?」
見渡すとあちこちに宮殿の修復用に切りそろえられた材木や石材が乱雑に置かれており、その周りで困ったように座り込んでいる人たちがいます。
途方に暮れたように楊奉さんが言いました。
「洛陽の命令で材木を運んだんじゃが、洛陽の役人が受け取ってくれんのよ?何がおきとるの?」
※
・少府:山の幸川の幸をつかさどる。林水産大臣。また皇帝の衣服・宝物・食膳の世話もする。
太官令:少府の部下。大膳職(こっくちょう)である。
湯官丞:太官令の部下。主酒(そむりえ)。また餅餌(もち)も扱う。
(出典:後漢書/巻116、漢書/巻019)
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