第66話 江東猛虎

孫堅文台ソンケンブンダイ!三国志の主人公の一人であり、孫家三代の初代になります。パパの孫堅ソンケンの戦いが、長男の孫策ソンサク伯符ハクフ、次男の孫権ソンケン仲謀チュウボウに受け継がれて、孫権がを建国してショクの三国志になるわけですね。


この孫堅さんが重要人物だというのは、三国志での孫堅さんが反董卓連合軍に参加し、主力の一人として奮戦ふんせんして董卓軍を撃破、洛陽を奪還してしまうのです。


この人の活躍で董家わたしたちが不利になってしまうので、この人と仲良くなるのは最重要目標と言えましょう。


しかし孫堅さんってこんな江南言葉べらんめぇで乱暴者な感じでしたっけ?

……いや、合ってるか。最後は部下がいさめたのを無視して突出して戦死ですし。ちょっと乱暴者は嫌なんですが原作主人公ですし、話は通じると信じます!!



というわけでいざ突撃。


喧嘩相手を締め上げている孫堅さんの下に駆け寄り、裾に取りすがって声を掛けます。

「乱暴はどうかおやめください!!」


「おいーーーっ?!!」

突然暴れている人に向かってかけだした私に、董旻叔父様がびっくりして大声をあげています。曹操さんや袁紹さんもびっくりしています。


「……おめえさん誰だい?」


「董家のもので、董木鈴と申します。豪勇の孫将軍(孫堅)ともあろう方がこのようなところで武を示す必要はありません。めでたい席ですので、そのような者に関わるのは江東猛虎コウトウのとらの二つ名が勿体ないです!」

「お……おう……?」

ぺらぺらとまくし立てると、孫堅さんは毒気が抜かれたように一瞬固まって、そして頭をひねって尋ねてきました。


「いや、いいんだけどよ、その江東猛虎コウトウのとらってあだ名初めて聞いたんだが……」

「あれ?」


迂闊うかつ?!あれ?このあだ名ってもっと後だっけ?


「いや、でもいい呼び名だな、気に入ったぜぇ!」


孫堅さんは広い肩をいからせ、大きな口を開けてニッカリと笑うと、ぽいっと締め上げていた人から手を放しました。


どさりと喧嘩相手が崩れ落ちます。


「おめえさんよう、こんな若ぇ少年に庇ってもらって情けなくねぇのか……まぁいいや、飽きた」


喧嘩相手さんは「ひええ!?」と言って咳き込みながら逃げ出します。


孫堅さんはもう喧嘩相手に興味を失ったのか、私に向かって声をかけてきます。

「で、アンタは董家だったっけ?董将軍(董卓)の縁者か……俺の名前を知ってるったぁ光栄なこった」

「もちろん董家では孫将軍の名前はよく伺っております、朱将軍(朱儁)のもとで大活躍されたとか」


これは事実で、董卓パパは朱儁将軍の戦いぶり(と孫堅さん)を良く調べていました。主に「なんでアイツも兵糧攻めしてたのに、わしだけクビになるんじゃー!」という理由だったのですが。


なお、調査の結論は「全部皇甫嵩が悪い」となりました。


皇甫嵩さんがたまたま広宗方面に起用されたので董卓パパがクビになりましたが、もし朝廷が南陽戦線をもう少し重視してたら朱儁さんがクビになって皇甫嵩が後任で、董卓パパはきっちり準備した城攻めを行って黄巾党を打ち破ってたはずだ!

というのが董卓パパの主張です。



「俺の名前をご存じだったとは……それはありがてぇな……そうだ!董将軍は涼州リョウシュウの反乱軍討伐に参加中だったな。俺を使ってもらえるように頼んでもらえねえか?」

「あれ?孫将軍は朱将軍の部下だったのでは?」


仕事が欲しいなら朱儁さんに頼むべきですよね。朱儁さんも大出世して右車騎将軍げんすい銭塘侯だいみょうになったはずなのですが。


「……朱将軍は服喪中みうちのふこうだってンで、仕事の話は都合がわりぃンだよ」


ああ、服喪ふくもですか。両親がなくなったら3年間、一切の仕事もせずに引きこもってないといけない規定です。高官の推薦基準が孝行なので、当然ながら服喪をちゃんとやらないと大罪になります。


でもまぁ、わからなくはないですけど3年は長いですよね……。でもそんなことをいうと言ったら孔子様に「お前は人の心がないのか、親が亡くなったら食べ物の味もしないはずだろうが」と怒られますけど。


いや、たしかに今、董卓パパが死んだとか言ったら私はショックで寝込みますが、3年、3年かぁ……。


「えっと……聞いてっか?」

「あ、すみません。わかりました。ちゃんと董将軍には伝えておきます」

「おお!頼んだぜ!」


よしよし、孫堅さんオトモダチ作戦成功ですね!!



内心喜んでる私の後ろに、ツカツカと背の低いおじさんがやってきました。


「……孫君、酒が楽しいのは構わんが喧嘩は困る、帰ってもらおうか」

「これは曹君(曹操)……いや、暴れてすまねぇ、ちっと飲みすぎた見てえだな、失礼するぜ」


ああ、曹操さんに孫堅さんが追い出されてしまいました。

董卓パパへの就職活動が上手くいったのが嬉しいのか、なんか楽しそうに帰って行かれます。



「……はぁ……同じ黄巾討伐で活躍した仲間と思って呼んだのだが、招宴でああも暴れられるとは、まだまだおれの名は軽いなあ」

「孟徳(曹操)よ、あれはあの者が乱暴すぎるのだ、気にすることはないぞ」

「本初(袁紹)……ありがとう」


なんか曹操さんが溜息をついて、そこを袁紹さんに慰められています。

袁紹さんって普段の行動は虐め半分なのに曹操さんに優しくするときは優しいんですね……どっちが本性でしょうか?両方天然だったらちょっと曹操さんの胃が心配ですけど。



ガシッ!!


「……青ぃー?」

「はひ、なんでしょうか叔父様」


なぜか大変お怒りの董旻叔父様に捕まってしまいました……。


「おお、孟徳どの!本初どの!うちのバカが宴会を荒らして済まねえ!酒を飲みすぎたみたいだから連れて帰るぜ」

「あ、いや、董君(董旻)、木鈴どのはあの大虎ソンケンをうまく宥めていただいたので、むしろありがたかったが」

「いやいやいや」


 ― ― ― ― ― 




結局、叔父様に怒られました。


「宴会に連れてくるときに、黙って立ってるだけにしますってお前は言ったよな?!!なんで袁紹に喧嘩売って、孫堅に絡んでるんだよ?!!」

「そのー、その場の流れというか」


「あと、なんで勝手に孫堅を推挙する約束してんだお前?!」

「あ、あれは褒めてください!絶対父上のためになります!」

「褒めるかぁ!!!」


……ごめんなさい!むちはやめてください!いま反省しました!


「……お前、今すぐ反省文を書いて兄者に提出、孫堅のこともだ」

「はい……」


むちで頭をぽこぽこ叩かれながら、反省文をたくさん書かされました……うう。

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