第65話 虐めと喧嘩
董家屋敷に戻ってきたら、私の可愛い
よしよし、どうしたのー?
「公明さんと二人っきりで馬車仕立ててどこ行ってきたのじゃー?」
「えー?ちょっと
というと、白ちゃんがなんかニコニコしながら質問を加えました。
「景色がいいところなのじゃなー。いい雰囲気になった?」
「ええ、いい雰囲気の場所を見つけたから、そこに教団の支部をつくることにしましたよ」
「んん?」
白ちゃんがなんか困惑したように。
「……何しに行ったの?」
「だから、開拓地探しですけど。教団の信者さんを移す場所で」
というと明らかに落胆したようでした。なんで、私何か間違えましたか?
白ちゃんはため息を一つついて。
「はぁ……嫁入り前の娘が男と二人で出歩いてそれはどうなのかと思うのじゃ」
「えええ、そんな変なことは起きないですよ?まぁ、公明くんは身体もガッシリしてきましたし、男と言っていいですけど、私はまだ幼いので大丈夫でしょう」
「……どこが?お姉様も大人の背丈と言っていいぐらいなのじゃ」
「せ、背丈だけですよ?」
私は自分の身体つきを確認するように、服をぱたぱた叩きます。
うん、肉付き全然ですね。
「ほら、背丈だけのびて、女とはいえないですね。こんな成熟してない娘と一緒に居たっておかしなことにならないですって」
「……お姉様はもう少し自覚したほうがいいのじゃ……」
自覚……うーん、
なんか好意があっても……こう、子供をかわいがる感じでしょう。そう、私にはまだ早い。だから考えたくないです。
とか考えていると、いきなり
「おう、青よ。
「何もしてませんからね??」
「おう、分かったわかった」
分かってない感じで手をひらひら振る叔父様。
「兄者にお見合いの件を報告したら、もう名士との結婚は
「まだ早いですってば!!」
なんでみんな私をこう誰かとくっつけようとするんでしょう。恋愛脳だと困りますね……。
「まぁ、お前、たまに男みたいだしなぁ……」
董旻叔父様は
「で、男のお前に招待状だ。袁本初(袁紹)の紹介で大将軍(何進)の派閥に参加したやつでな。
「ええ、面識が。
「
なるほど。曹操さんが赴任地で役人の八割を
「だったら招待状のあて先は叔父様では?」
派閥の
「いや、お前も名指しで招待されててびっくりしたが、文面を読むかぎり、お前は男と勘違いされてるみたいだな?どうする?」
「……せっかくですので参加しますけど、叔父様の後ろで黙ってるだけにします」
「おう、そうしてくれ。招待状を断ると面倒だが、お前が目立っても面倒だからな」
― ― ― ― ―
洛陽の曹家屋敷での宴会は大勢の客を招いて盛大に行われました。
父親の
大勢の参加客が行儀よく席について、曹操さんにお祝いの言葉を述べて飲み食いしています。お隣の董旻叔父様はガハハと笑いながら酒を飲んでいますが、私はそもそも飲めないのであまり手を付けていません。
しばらく黙って様子を見ていましたが、董旻叔父様の逆側のお隣さんが施しが趣味の名士、
一通り自己紹介などが終わったので、施しについて聞いてみることにしました。
「張孟卓(張邈)様。最近、洛陽にも流れてきている難民の方が多いみたいです、前に私も施しをしたのですが……」
「おお、君も施しに興味があるのか。若いのに見上げたものだ」
にこにこと嬉しそうに笑う張邈さん。
「なぜ施しをなさるのですか?」
「なぜと言われても困るな。自分が食料を多めに持っていて、持ってない人がいる。だから配ってしまうだけだ。難しいことは分からんよ」
にこにこしながら仰る張邈さん。手にお金があると配ってしまう、
「わが一族の董卓もそういう人物でおかげで屋敷には余分の銭がなく困っております」
「ははは、ワシもだ。董中郎将(董卓)とは仲良くなれそうだな」
「ところで、施しをしていますが、難民は増える一方にも思います。これで本当に正しいのでしょうか。政治の本を正す必要はありませんか?」
「それはそう思う、思うが、ワシには力が足りん。曹君(曹操)のように太守でもないしなぁ」
「
おおっ?!噂をすれば曹操ですっ?!
来客にお酒を注いで回っていた曹操さんが気が付いたらこちらまで回ってきていました。断るわけにもいかないので、ありがたく一杯だけいただきます。
おおう……ほんわかする……。
「いや、施しだけでは民は救えんでな。政治を正すべきではないかと思うんだが、孟徳ならやり方を知ってるだろう」
「む、孟卓よ。皆が
いや、孟卓と孟徳でややこしいですね。ちょっと頭の中で張邈と曹操に切り替えて聞くことにしましょう。
「ははは、天下百郡に配置する孟徳(曹操)が百人いればいいが、そんなことになってはクビになる役人が数万になって天下が大混乱する」
「いや、孟卓(張邈)。
「ふむ、いまの
「親孝行な人間を採用しても才能があるとは限らんだろう、人格と才能は別だ」
今の
なので完全に
張邈さんが反論します。
「なるほど、しかし人格を軽視してはやはり賄賂を取ったり、優れた能力を使って不正を働くのではないか?」
「そこはさらに上司が見張るしかない、
曹操さんもそれは理解しているようです。ですが曹操さんが100人いないのが問題なのではないでしょうか。
でも、張邈さんと曹操さんの議論は参考になりますね。続けて続けて。
「その地方の役人を見張るべき中央の政治が乱れているのも問題だと思うぞ」
「いや、それはそもそも
突然、誰か現れて口を挟みました。
「ええ、そのとおりです。中央の政治が正しければ地方の政治も改まります」
にこにこと笑顔を貼り付けたようなおじさんが現れました……前に見ました!袁紹です?!
おおう、私の女装姿知ってるんですよねこの人。何か聞かれたら双子ですとか言っておきましょう……。
袁紹さんがにこにこしながら表情を一切変えずに話し続けます。
「民が困っているのは政治が宦官により歪められており、何かと賄賂を求める政治になっているからです。中央の高官が賄賂を贈り合い、官位を銭で買う。これはすべて宦官がそういうやり方にしてしまったもの。政治を正すためにはやはり宦官を
にこにこしながら言ってますが、袁紹さん……ここ、宦官の孫の曹操さんのお祝いの場、宦官の養子で銭で官位を買った曹嵩さんの家なんですけど……。
さすがに曹操さんが可哀そうです。一言言ってやりましょう。
「あ、あのぅ……孟徳様は宦官の縁者ですが……」
「む?」
「ひっ?」
にこにこしながらこちらを見る袁紹さん。表情が一寸も変わりません。割と怖いなこの人。
「あなたはどこかで……いや、孟徳(曹操)は素晴らしい人間ですよ?今回の仕置きも正しいことをしました。なので朝廷で弁護したのです。政治も正しいし、人間としても正しいのです。なので宦官の縁者かどうかなど本人には関係ありません。私は孟徳は親友だと思っています」
「ははは……ありがとう本初(袁紹)」
なんか曹操さんが引きつった笑いを浮かべてますが……大丈夫ですか?実は虐められてません??あまり気が合いそうに見えないんですが……。
「董木鈴殿が誤解しておられたようだな?」
曹操さんが助け舟を出してくれましたので、おとなしく謝っておきます。
「あ、はい。わかっておりませんでした、差し出がましいことを。申し訳ございません」
「いえいえ、構いませんよ。若いのですから気にしなくとも。やはり董家の方ですね?」
にこにこしながら観察されますが、どうにもこの人は本心が見えなくて怖いです。
「おう、本初どの!うちの若いのが申し訳ないな、いやいくら言っても無礼でなー!まぁ飲んでくれ!」
そこに董旻叔父様が酒をもって乱入してきたので、無事、逃げることができました……。
……
……
「いやぁ、曹君(曹操)の祖父様は国家への功績甚大だったが、
「
「いや、あれは本当に噴飯ものの人事でしたなぁ」
……なんで十常侍なのに12名なんですかというのはさておき。
実際に戦った功績はそりゃないでしょうけど、宦官にも戦争用のカネを集めた功績はあるんじゃないですかね。本当に黄巾討伐戦で軍事費だけは豊富にあって、つねに朝廷軍が圧倒してましたし。
たしかに漢朝の功績判断基準が敵の首の数だから、それで評価すると宦官の功績はゼロなんでしょうけど。
やっぱり、政治と役人の採用の仕方、そして評価の仕方とか、いろいろ問題がありそうですね……。
……
……
いい感じに酒が回ってきて、皆さんぐだぐだになってきました。袁紹さんはひたすら宦官の悪口を言いまくっていますし、取り巻きがどんどん増えて宦官殺せだの宦官死ねだの酷い有様で。
曹操さんが話の輪に入りにくくて困ってるじゃないですか。いや、本当に虐められてません??
さすがにそろそろ帰りたくなってきました。
「ああ?なんだとてめぇこの野郎、言わせておけば
なんか喧嘩が始まりました。……って、なんですかこの
赤い頭巾をかぶり、肩幅が人の倍ぐらいありそうなおじさんが喧嘩相手を吊り上げています。
「おうおう、いい度胸だ、てやんでぇこの野郎。この
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