第64話 洛陽探索

やぁやぁこんにちわ。気弱な董青(トウセイ》ちゃん13歳は、虐殺とか皆殺しとか思い出すとつい倒れちゃいます。


三国志みらいの英雄、曹操ソウソウさんのおかげで商品の販路は確保できたのですが、嫌な記憶も併せてもらっちゃいました。


曹操さんは三国志みらいでは商人一家皆殺しとか徐州皆殺しとか邪悪だーく逸話えぴそーどが多いのでぜひ穏当な人生を歩んでほしいです。



慣れたらいい?慣れるのは厳しいですね、私もか弱い美少女ですし。あんまり血なまぐさいことには。


でもこの間、楊奉ヨウホウさんの山賊とやりあった時は別に卒倒ばたんきゅーはしませんでした。正々堂々戦う分にはなんとかなりそうです。




さてと、それはさておき……最近、なんか難民が増えている気がします。


洛陽の城壁の周りに掘っ立て小屋が立ち、貧しい服装をした人々がたむろしています。

反乱は収まりつつあるのに変ですね……?


……


……



洛陽の城壁の外、貧しい小屋が立ち並びます。辺りにはゴミが散乱し、とても嫌な臭いがします。



「董家の炊き出しだぞー」


公明くんと子龍さんと護衛、つまりいつもの面子めんばーで穀物を運び、お粥を作ります。

ぼろぼろな格好をした難民の皆さんにお粥を配るついでにお話を伺うことができました。


「税が重くて、土地を売ったんでやす……」

「臨時の税さえなければなんとかなったんでやすが……」

洛陽みやこに行けば仕事があると聞きやして……」


難民さんたちが口々に愚痴を言います。皆さん辛そうです。


「ここはこうやってほどこしを受けられるんで何とか生きてやす……」


たしかに周りを見ると、同じように施しをしている人たちがいるみたいです。名士きぞくの方でしょうか?


「名士の方が良く来られます、あちらは張家の方々でやす」

「おお、まさか張孟卓(張邈)様か!」


知っているんですか趙雲さん。なるほど、名士の中で良く施しをする八厨という方々の筆頭で張邈チョウバク孟卓モウタク様すか。いや、知らない人ですね。


「……党錮の禁で名を挙げた名士の中の名士で高名な方であるが」


趙雲さん、可愛そうな目で見ないで?!ほら、私、ただの美少女ですし?


話題を替えましょう!あ、ほら!他にも毛色のちがう変な格好の方々がいますよ。あれは何ですか?


「あちらは浮屠ブッダ教の白馬寺ハクバジの方々でさぁ」

「あちらは嵩山スウザンの道士さまで」


むむむ、仏教と道教が活動しているみたいですね……で、この人たちは施しはしますが、仕事はくれるんですか?


「いえ?施しをいただけるだけありがたいことです」


なるほど……。重税で生活できなくなった人が土地を売って逃げてきていて、そこで施しだけもらって何とか生きてると……。この間の臨時徴税がさらに追い打ちをかけちゃったみたいですね。


常々思っていた通りです。早めに財政再建しないと難民がさらに増えて、反乱が続発して乱世まっしぐら。どうしようもなくなるはずです。



よし、こうなったらやることは決まりました。

「これではダメですね、河伯教を洛陽にも布教します!」


私は高らかに宣言しました。


「施しだけをしていては彼らを真に救ったことにはなりません。名士も浮屠ブッダ教も道教も間違っています。魚を与えるのではなく、魚の取り方を教えて自立させなければならないのです!」

「おお!そのとおりですな!この子龍、できることが有れば何でも」

「ええ、お嬢様、ここの皆も真っ直ぐ救いましょう!!」


と子龍さんと公明くんが応じてくれたのですが、公明くんが気になるように言いました。


「……ところで黒山軍の張燕チョウエンが誤解しませんか?」



ああ、なんか私が黄巾党の再来だとか、布教すんなとかいろいろ言ってましたね。だけどそんなの関係あります?


「貧民や難民を救うのとどちらが大事か。誤解したいならさせておきましょう」

「そうですね!」

「かしこまった!」


 ― ― ― ― ― ―



ということで、河伯教団洛陽支部を立ち上げます!


さっそく、河東にいる楊奉さんに手紙を送って、熟練信者ぷろしんじゃの方々を派遣してもらいます。

なぜか楊奉さんが私に銭を送りつけようと提案しますが、それは断り、生姜・葛根などの薬草に石炭をたくさん送ってもらうことにしました。



さて、人手と薬が手に入ったところで、再度炊き出し開始です。難民さんたちを集めたところで、神秘的に飾り付けた巫女服を着た私が薬を配ります。


天幕てんとを立てて、石炭で沸かしたお湯を使い、難民さんたちをせっせと洗い、服を煮沸し、ご飯を食べさせて体操をさせると、顔色がみるみるよくなります。


私は5日ごとの休暇のたびにしか現れませんが、熟練信者ぷろしんじゃの皆さんは手慣れたもので、現場を任せても次々に難民さんたちの生活を改善させていきます。


そうしてすっかり健康になった難民さんたちが続々と入信してくれるようになりました!


だんだん人が増えてきて、数百人の団体になります。こうなると、洛陽だと目立つので、どこかに拠点が欲しいですね。



……


……



またまたお休みの日に、公明くんに馬車を仕立ててもらいました。

洛陽の郊外を回って遠足ぴくにっくじゃなくて拠点探しです。



洛陽の城門を南に出ると、洛水ラクスイという川が流れています。洛陽というのはこの洛水のきたにあるから、洛陽なのです。もし川のみなみまちを作ったら、洛陰になっちゃいますね。


で、北を見ると邙山ボウザンという山……丘?が広がっています。


都を作るにあたって、山のみなみで、かわきたが縁起がいいとされています。これは山の南、川の北の陽当たりが良いからです。また風よけのために回りが緩やかな丘で囲まれているとさらに良いとします。


陽当たりが良く、風害も少なく、水は豊富に得られる、これが都の適地であるとして蔵風得水かぜよけしてみずをえると言います。




というわけで、洛陽の西にはいい感じの丘と森が広がっていて、こっそり拠点を作るにはよさそうです。


馬車を走らせると、鳥獣が豊富で狩りでも生きていけそうな場所が見えました。


「あそこいいですね、あそこにしませんか?」

「えっ……いや、お嬢様。あそこは皇帝陛下の狩場、上林苑ジョウリンエンですけど」


公明くんが引きつったような顔でいいます。


えっ。目の前の一周するのに1日かかるような大きな林が?全部?

……あの皇帝オッサン、こんなに広い土地を独り占めしてるの?狩りのために?


「あそこの鳥獣を狩ると罪になるそうですよ」

「そっか……でも公明くんはここが地元じゃないのに詳しいの?」

「はい!お嬢様が次は拠点を探そうとおっしゃると思ったので事前に調べました!」


よかった……知らないで拠点作ってたら迂闊うかつなんてもんじゃなかった。よし、次に行きましょう。



……


……


洛陽の北の邙山ボウザンを眺めます。

うん、この辺りは木々が多くて、あまり人がいませんね。この辺なら誰も使わないのでは?


「お嬢様、ここは光武帝の陵の近くです」

「……おお」


またもや特級厄物の近くに来てしまいました。皇帝の墓荒らしに間違えられたら確実に死刑です。しかし後漢初代の光武帝さんのお墓ですか……。ちょっと遠くから拝んでおきましょう。


「この辺りは歴代皇帝のお墓が多いので……ゆうれいがでると怖いです」

「なにこれ面倒……公明くん、お墓とか皇帝の狩猟場とかそういうのがないところ教えて!」



結局、ちょっと遠くなりましたが、孟津の渡しに近い山の中に拠点を作ることにしました。これはこれで河東の河伯里カハクむらが近くなっていい感じです。


いつも通り水はあるけど農地に向かない山裾の土地ですね。


ここを拠点とします!信者さんたちを移住させましょう!


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