第58話 麦茶
女中さんが陶器の
お客様、
「おや?この飲み物は……澄んで金色に輝いてる……茶でしょうかね?」
「ええ、今日は蒸すのでさっぱりしたものが飲みたいと思いまして」
この時代の飲み物は、普通は湯冷まし以外は
なので。
「こ、これは……木の実のような香ばしさに、きりっとたつ苦み、ほんのりと甘みも……実にさっぱりと冷たくすっきりとする!しかもお茶のようで茶ではない?!」
「麦茶というものです」
私は得意げに言いました。
麦茶。そう、麦茶を作ったのです。
やり方としては鉄鍋一杯に大麦をいれ、中火でじっくりと煎り上げていきます。一般的な麦茶のようにきらりと金茶色に輝くまで煎り上げたものを取り出します。最初は焦がしちゃいましたが、何度かやれば上手くいきました。
たまに爆ぜてポン菓子みたいになるので、それだけ食べてみたくて作れないかと試したのですが、焦げただけでした。やっぱり
充分に焙煎した麦をひと煮立ちさせてから蒸らしてじっくり抽出します。そして粗熱がとれたら竹筒に入れて井戸水で冷やすと……
さっぱりした夏の飲料、麦茶の完成です!
なお、麦茶のガラはそのまま雑穀ご飯に混ぜて食べるので、ムダはありません。むしろ麦茶がタダで作れるのでお得ですね!
というわけで安く作れてさっぱりと美味しいということで、董家屋敷では一族の飲み物として大変好評です。
……
……
来客用に
ああ、男装だと結婚とか考えなくて楽ですね……女に産まれずに男だったらよかったのでしょうか。
一杯麦茶を飲んでもらって落ち着いたところで、私は目の前の福耳の男性に話しかけました。
「で、劉玄徳様。今回は何の御用でしょうか。あの後は盧尚書(盧植)にお会いになったのでは?」
「いやぁ、おかげ様で木鈴さまの
しかし、と言いながら劉備さんが頭を掻きます。
「これが
……賄賂を拒否して最前線からクビになった盧植さんがそれを言うかという感じですが、まぁ似たもの師弟なんでしょう。
「それは大変でしたね……」
あくまで丁寧な私に対して、董旻叔父様はちょっと
「で、用件はなんだ?」
「あ、はい!ずばり俺に官職を推薦いただけないか、なんとか董将軍にお口添えをと」
やはりな、と董旻叔父様は不機嫌になられます。
「そんなのを相手にしている余裕はだな……」
まずい、劉備さんは味方にしないといけません。なにせ三国志の原作主人公ですからね。慌てて口を挟みます。
「叔父様、こちらは大変有能なお方で、
「おお、あり難いお言葉。いや、この劉玄徳。だてに中山靖王劉勝の子孫ではありません、朝廷のため天下のために貢献したくてたまらんのです。いま木鈴さまが仰ったように、広宗の戦いでは董将軍のために必死で献策し、城攻めの準備を整えました。
「お、おう……」
……ぺらぺらと立て板に水を流すようなしゃべりに董旻叔父様が圧倒されています。
しかし、劉備さんってこんな口が回る方でしたっけ。なんか三国志ではこう人徳者って感じで自分からはしゃべらない印象がありましたが。
「もうすこし謙虚な方と思ってましたが、攻めますね」
「ははっ、地位も名誉もあるお方が謙虚なのは美徳です。ですが、俺みたいなやつが謙虚ですとただ自信がないだけで。木鈴さまもモノを売るときは良い商品ですと言って売るはずです。悪い商品ですが買っていただけませんかなどと言われて買うものはおりません。そこは
ははぁ、それは全くその通りですね。しかもこれだけのことを言っておいて悪印象がないのは媚びてる感じもなく素直に言ってるように感じるからですね。なかなかの話術です。
「ううむ」
董旻叔父様はどう評価していいのか困って言葉に詰まってるようですので、私が面接を続けることにします。
「なるほど、では玄徳様という商品はどこを売り込めば宜しいです?」
「そうですな、まずは漢朝の
なるほど。山賊にビビらず、賄賂が嫌いで、山賊の事情も分かって、天下のために働ける。
わぁ、ちょうどいい。
私は叔父上の方に振り向き、深く頷きました。
「叔父上」
董旻叔父様もピンときたようで、改めて劉備さんに顔を向け。
「うむ、それでは劉君(劉備)にお願いしたいことがある」
「おお!何なりとお申し付けくださいませ!」
― ― ― ― ―
さっそく、董旻叔父様から
そして、使者として北の太行山脈の山賊100万のど真ん中に放り込まれるのは劉備関羽張飛の三兄弟です。
大丈夫、
「お、おお、任せとけ……」
なぜか劉備さんが武者震いしておられます。大丈夫、劉備さん原作主人公だから上手くいきますって!
「ふむ、賊将の
「出発祝いに酒をくれ」
出発前に酔っ払われたら困るので麦茶をどうぞ。戻ってきたらお酒差し上げますから!
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