第56話 咖哩(かれー)

「お料理、おりょうりー♪牛肉、お豆、セリ、ネギにニンニク、ショウガー♪」


はい、美少女調理師の董青トウセイちゃん13歳です。

今日は大漢このくにで手に入る材料でお料理に挑戦です。


「お塩に甘蔗汁さとうみず乳脂ばたー胡椒こしょー山椒さんしょ桂皮しなもん丁子くろーぶ薑黄たーめりっく♪」


材料を刻んで、材料をすりつぶして、次々と金属鍋にいれて煮込んでいきます。


「まーぜーて、煮込んで―♪」

「平たい焼餅ぱんと一緒に、召し上がれー♪」


よし、できた!!

味見味見……うん、美味しい。ちょっといくつか香辛料すぱいすが足りないのが勿体ないですが、これはこれで。



「お姉様?いい匂いなのじゃ?」

「青?何作ったんだそれ」


あたりに漂う芳醇な香りに、董旻トウビン叔父様に姪の董白トウハクちゃん9歳が近寄ってきました。



「あ、どうぞ。 牛肉の胡椒煮……、咖哩かれーと名付けました。食べてみてください」

焼餅ぱんに具と汁を挟んだものを渡します。私も一つ。


「なんか前の食べ豚脂らーにも似てるがな……む?」

「はむ……にゃ?」

「んー!」


いや、香ばしく焼けた焼餅ぱんの中に、たっぷりの乳脂ばたーと肉汁が舌にとろけます。ニンニクとショウガがじわりと地盤を固めつつ、ピリリと効いた胡椒や山椒の風味が具の味を引き立て、隠し味の砂糖がすべてをまろやかに!!


くううっ、なんというか今まで基本薄味というか素朴な味付けだったので、ガツンとパンチのある食べ物は効きますね……。食べ豚脂らーはご飯をたくさん食べるために塩味が勝ってましたが、塩味に勝る香辛料すぱいすの味がここにあります!


……って、何を固まってるんですか叔父上。白ちゃん。もっと食べてくださいよ。



「な、なんだこれ?!美味ええええ?!」

バクバク食べ始める董旻叔父様。


「ふむ、辛い、ふむ、美味い!いや、駄目だこれ、酒欲しくなってきた。おーい!酒持ってこい!!」


なんか咖哩かれーをツマミに本格的に飲み始めちゃいました。うんうん、成功ですね。



白ちゃんは?

「美味しい……けど辛い……けど美味しいのじゃ……ヒリヒリすゆ」


白ちゃんはつぶらなお目めをつぶって、舌をだして息を吸ったり吐いたりしています。


ああ、よーぐるとどうぞ。

「こくこく……うん、辛いのなくなったのじゃ。でも白にはちょっと食べられないと……」


ごめんなさい、えっと、確か向こうの試作鍋に……。ぱたぱたと走って別の咖哩かれーを持ってきます。


「白ちゃん、こっちの甘口はどう?!」

「辛くない?……ぱくっ……ふわぁ?!お、美味しい……」


ちょっと警戒していた白ちゃんですが、甘蔗さとうきびを増やして胡椒を減らした甘口は気に入っていただけたようです。



「おい、一族みんなの分あるな?食べようぜ!」

「はい!」


というわけで、宴会が始まりました。


よし、董旻叔父様もとっても機嫌がいいですね!これならこの後の話もすんなりいくでしょう!!



……


……



「ぼふっ?!げほげほげほっ?!」

「叔父上、お酒を吹きだすのは行儀が悪いですよ」


なぜか董旻叔父上が盛大にお酒を吹きだしたので、掛からないように避けながら注意します。


「待てや?!なんでそんなことをするんだ?!」

「え、天下国家のため、父上のためですが?黒山賊を降伏させれば平和になりますし、朝廷の戦費が浮いて父上も戦えて、皇甫嵩おっさんにバカにされなくて済みます」


生活に困って蜂起した黒山軍と違って、涼州軍閥のほうは政治的に宦官討滅や涼州自立を唱えているようなので簡単に降伏とはいかないと思います。なので董卓パパに勝ってもらうのが最適かなと。


「違うわ!なんで青がいくんだよ?!誰か他のやつにさせればいいだろ?!」

「黒山軍100万の中に少数の護衛だけで入っていける度胸のある方、宦官や賄賂わいろが嫌いで高潔な方、相手を山賊と決めつけずに穏便で柔軟な交渉のできる方、そして天下のためを思って働ける方、ここまで条件の揃った方がいるんですか?叔父上が行きます?」


ここは譲歩です。叔父上が行くなら使者の格としてもいいでしょうし。


「……そもそもこんな話を信じるやつがいないし、だから山賊に使いなんかしたがるやつはいないだろ。俺も嫌だぞ?!」

「なので私がいくしかありません、大丈夫です。男装しますし、ちゃんと校尉たいさの官位も」


正式に認められた官印綬みぶんしょうに戸籍を見せます。


「そういう問題じゃねーだろ?!!!そもそも女がそんなことに口出し……うわ、男性として戸籍に官位もってやがるー?!?!ああ、青だからしょうがないのか……?じゃなくて!」


喋りながら大混乱なさる叔父上。そこまで慌てなくても大したことではないですよ?張燕チョウエン飛燕ヒエンの大親分は楊奉ヨウホウさんの知り合いですし、話し合いの余地は十分……。


「董家がそんな危険なことする必要がないだろ?!ったく……」

喋り疲れたのか、お酒をまた口に含む叔父上。


「だって、弁皇子にもう董家が解決しますって言っちゃいましたし?陛下にも伝わってるとおもいますよ」


「ごはぁーーーーっ?!げほげほげほっ?!ぐはっ?!!」


まぁ、盛大に転がって、大丈夫ですか叔父上。酒まき散らすのやめてください。




……


……



叔父上が正気に戻るのに時間がかかりました。天を仰いだり、地面を眺めたりされて、自室に引っ込んだ後、なぜか蔡倫紙かみたばをもって帰ってこられました。


「よーし分かった、お前結婚しろ」

「なんでそうなるんですか!」


意外な発言に反論する私。


「兄者から言われてんだよ!お前が勝手するなら婿取ってからにしろってな!」

「そ、そういえばそんな話もあったような」

「忘れんな?!」


くっ……13歳の娘の貞操じゅんあいを何だと思ってるんですか!まだ恋愛もしてませんよ!


「それに宮中に仕える女官が洛陽から長期間も離れられるわけがないだろ。結婚して女官辞めないと無理だろ。」

「……えっと……病気とか?」

「元気に太行山タイコウザン登りに行こうってやつが何言ってんだ?!バレたら怒られるなんてもんじゃ済まねえぞ?!」


くっ……正論で攻めるのやめてください。反論できないじゃないですか。


「反論すんな、で、相手の家だがな。兄者が長安で知り合って意気投合された方なんだが……」


いちおう紙を見せてもらいます。


河内カダイ司馬防シバボウ京兆尹ちょうあんのちじをやっておられる方の息子でだな……」

「……司馬様……えっと、息子さんって字に「達」って付きます?」

「なんでお前知ってるんだ?」


司馬家仲達シバチュウタツ?!まさか司馬懿シバイですか?!三国志は魏の軍師で後半の主人公格の!

ええ、そこと結婚?!

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