第54話 献策、実行、なんで貴方が

パチッ……くるっ……。

パチッ……くるっ……。


房室へやに駒音が響く。

盤面の色が白から黒、黒から白へ目まぐるしく変わっていく。


弁皇子ベンおうじとの対戦、約百回目。

皇子の白黒りばーしの腕は格段に強くなっていました。


美少女対局士びしょうじょせんし董青トウセイちゃん13歳です。

またもや年頃の男に部屋に連れ込まれ、白黒りばーしの相手をしています。


……あれだけ叩きのめしたので、諦めるかと思ったのですが、数日でまた再戦を挑まれました。


まぁ、再度叩きのめしたんですが、その後も数日おきに呼出があり、対戦相手をしています。


なので、禁中きゅうでんでの私は、何皇后カこうごう様にご指導いただいている以外の時間は延々と白黒りばーしで遊んでいるだけなので、お仕事としては楽なものです。


白熱した中盤戦になり、互角の戦いが続きます。ふと気が付いたように、弁皇子がおっしゃいます。

「……やっぱり、最初は駒をあまり取らないほうがいいんだね?」

「お、ついにお気付きになりましたか。さすがは殿下」


私も別にそこまで白黒りばーしが上手いわけではなく、いくつか定石を知っているだけなのですが、弁皇子ベンおうじは何度も対戦するうちになんと自力でそこにたどり着きました。


「序盤にたくさん駒を取らせて、相手を調子に乗らせて、実は相手の打ち筋を誘導して有利な端や角を取るんだよね?……青ってひょっとして性格悪い?」

「ひどい?!戦略と呼んでください!遊戯は勝つものです」


不当な言いがかりに反論する私。


「なんで最初から教えてくれないのさ」

「教えられても強くなれません、自分で気付く人が一番強くなるのです」

不満げに言う皇子様に適当なことを言ってごまかす私。だって、教えたらボコれないじゃないですか。


「それもそうか、言われるだけじゃ理解できない」

素直ですね?!


どこに刺さったのか弁皇子が何か考え込んでしまっています。

あまり素直に受け取られるとちょっと恥ずかしいので……そうだ、話題を替えましょう。



「そういえば、門の近くの高台、燃えたままですけどいつ修理するんでしょうか」

「ああ、雲台うんだいのこと?そこもそうだし、楽成門も燃えたし、広陽門も崩れてるからさ、修理の費用を集めたんだけど、足りないんだって」


もともと禁中きゅうでんが広いので私も長秋宮こうごうのみや以外を見て回ったわけではないんですが、あちこちボロボロみたいですね。


あれ?臨時徴税ありましたよね?農地1畝あたり10銭で。河東の信者さんがぼやいてましたよ?


「反乱討伐の費用が大変なんだって。黒山の賊百万に、涼州の反乱軍十万に……」


なるほど。たしかにそれなら黒山の山賊退治が優先で、だから董卓パパは涼州を攻める予算もないと。いや本当に財政やばいですねこの国。


おかねが足りないってどういうことなんだろうね?陛下ちちうえに教えてもらってるけど分からないんだ」

「……え?」


そこからですか!?


おかねが足りないなら宦官かんがんに蔵から持ってきてもらえばよくない?」

「いえいえ、蔵に入ってる銭は民から集めないといけないんですよ?ただでさえ税が重いのに、さらに集めたら民が生活できなくなります」


「そっか、詳しいな。じゃあ銭をもっと作ればいいのかな?」

「作るための銅を集めないといけないので一緒です」

「じゃあやっぱり陛下みたいに、官位を売って銭を集めるしかないんだ、やっぱり陛下は正しい」


……そうかなぁ??いやいや、そういうことを本気で思ってるから政治が無茶苦茶なんですよねあの皇帝おっさん。銭あつめできたらそれでいいわけじゃないんですよ?!


「陛下はね、地方の王家から入った人で、皇帝になる前はとっても貧しかったんだって。だから銭の重要性は分かってるんだ。でも寡人ぼくにはよくわからない。 陛下からは教えてもらってるんだけど、やっぱりよく分からないんだ。だからさっき青が言った「教えられてもわからない、自分で気付くしかない」ってのが正しいと思う」


ごめんなさい、口先で適当に言いました……。感心されると恥ずかしいです。


ああ、だからわざわざ市場を作って弁皇子に買い物の練習させてたんですね。でもあんなのじゃやっぱり理解できないと思います。やっぱりあの皇帝陛下おっさんは分かってるようでどこか見当が外れてますね。



「青はどうやって銭を理解したの?」

「えっと、そうですね、やっぱり自分で稼いで自分で使ってみてやっと理解しました」


そう、給料は最初の休日で使いつくしてはいけないと。


「うーん、寡人ぼくが理解するためには稼げば……どうやろう?」

「えっと、殿下が全部をわかる必要はなくて、わかっている人間を使えばいいと思いますよ」

「なるほど、じゃあ青に頼むね?」


んん??

いや、そうなります?今の会話で。


「燃えた宮殿と、反乱軍を全部なんとかしたいんだけど、どうすればいいかな?」


いや、女官に聞く質問ですかそれ……うーーん……。


河伯教団の巫女としては、黒山賊が心配なんですよね。あそこが河東を襲ったら困ります。だから楊奉ヨウホウさんに様子を見に行ってもらってて。


でも討伐なんてしたら余計にお金がかかるので、ああ、そっか。私と同じようにすればいいんだ。


国家転覆かくめいを狙っていた黄巾賊と違い、黒山賊は山賊ですが元は良民です、天下を狙っているわけではなく、生活が困窮して山賊になっただけです。なので彼らに官位を与えて降伏させたらいいと思います。そうすれば討伐の費用が浮くだけではなく、河北も安定して税収も増えるでしょう」

「なるほど!青は頭が良いね!」


というお話をしながら、白黒りばーしはギリギリ私が勝ちました。


……



……



次の日、私はまた弁皇子に呼び出されました。


「陛下にお願いしたけど、ダメだった」

「……言ったんですか?!」


驚く私を尻目に、弁皇子はまるでオモチャをねだったけどダメだったみたいな口調で続けます。

「うん、向こうから言い出すならともかく、朝廷からそれを言いだすと威厳がなくなってさらに反乱がおきるって。だからまずは討伐して、一回勝って、残党を降伏させるんだってさ」


あ、それはいいことを聞きました。

なるほど。向こうから言わせればいいんですね!


じゃあえっと、あれをこうして……。


「やった!勝った!勝ったぞ!!」

というお話をしながら、白黒りばーしは……しまった。考え事してたから負けてしまいました……。


弁皇子がめちゃくちゃ喜んでます。ま、いっか。



 - - - - -


またもや何度目かのお風呂休暇の日。

お風呂もそこそこに私は護衛の公明くんをつれて洛陽の城門を抜け出しました。



「巫女様!お久しぶりじゃけえ!」

洛陽のはずれで、ハゲ熊……じゃなくて楊奉ヨウホウさんと落ち合います。


楊奉さんは信者数名と、あと見知らぬ若者数名と一緒に立っていました。


その若者が丁寧に揖礼おじぎして自己紹介をします。


「河伯の巫女様、飛燕ヒエンの大親分からよろしくと言われております。私は常山ジョウザンの黒山軍から参りました、趙子龍チョウシリュウと申します」



……えっ。あれ?なんで趙雲チョウウンが来たのーーー?!黒山軍の出身だっけ貴方!?趙雲といえば常山ジョウザン……あああ、出身地が常山ジョウザンだから大親分……張燕チョウエン飛燕ヒエンと同郷だったの?!




・趙雲子龍 出身地 冀州常山郡真定県

・張燕飛燕 出身地 冀州常山郡真定県

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る