第47話 最大の危機

どうも私は割といい扱いのようで、大広間を帷帳かーてんで仕切った場所につくえと椅子をいただいています。

書庫の書物も勉強用に借りることができることになりました。


予定がぎっしりというわけでもなく、じっくり学ぶ時間があるようです。


……うん、半分お客様扱いですね。董卓パパが上手く口を聞いてくれたようです。



私がぼーっと宮殿の外を眺めていたら、壮麗な宮殿に似合わない、焼け落ちた高台が見えました。

なんでも火事があったそうですが、修理しないんでしょうか?なんかやりかけで放置されたままですね。


パタパタパタ……


そしてその周りでは宦官さんたちが荷物を運んだり、掃除したりとあちこちで忙しそうにしています。


なんかイメージ違いますね、宦官って告げ口と謀略で権限を独占して左団扇ひだりうちわの生活してるんじゃないんですか?

なんていうか……ただの礼儀正しい召使の群れにしか見えません。


趙忠チョウチュウさんも「偉そうな召使なんて失格です」と言ってましたし。


でも、確かに宦官って皇帝陛下とその家族のお世話をする人であって、政治家じゃないんですよね。

だとするとこれで正しい?すると問題は……





よし、時間もあるし、ちょっと考えますか。



……


……



三国志で起きる出来事を思い出せる順番で整理します。




今は黄巾の乱が終わったところです。


この後に起きることは


・皇帝陛下が崩御くなられる。

・何進が宦官を討伐しようとして逆に暗殺される。

・袁紹が宦官を大虐殺する。

・その混乱で政権が崩壊して、董卓パパがやってきて独裁開始。

・これに反発した諸侯が反董卓連合軍を組んで、三国志の本番になる


という流れになります。



あれ?でも董卓パパは政権なんて欲しくないから、袁隗エンカイ老師せんせいや宦官に虐められてる名士おえらいさんに全部任せるって言ってましたよね?

じゃあちゃんと政権運営されて反董卓連合軍も起きないんじゃ??


でも大将軍が死んで宮中で宦官大虐殺とかやったら政権はボロボロですよね。やりたくないけど独裁しなきゃいけなくなる?

やはりこれは避けたほうがいい出来事だと思います。


宦官大虐殺については曹操ソウソウさんに笑われました。

たしかに……宦官が全員悪い人?には見えません。


本当に悪いことをしている人がいるなら、その人を見つけて捕まえればいいですよね。




よし、じゃあせっかく後宮にいるんですし、悪い宦官を見つけて董卓パパに報告しましょう。で悪い人にだけ退場してもらいます。

宦官を皆殺しにしようとしなければ何進さんの暗殺も起きませんし、そうしたら政権が安定して董卓パパの出番はなくなるはず!!


完璧ですね!!!





……


……





「ここかな?」

「えっ?!」


そこまで考えたところで、誰かが帷帳かーてんをめくって入ってきました。



……って私と同い年ぐらいの男の子?で、でも宦官……の服でもないし、後宮に宦官でない男って……あれ?!


「あー!董家トウけから女の子が来たっていうから……気になってたんだー。やっぱり馬車の子だ!」


立派な服に身を包んだ、素直そうな少年……董家の馬車で出会ったって……劉弁皇子リュウベンおうじ様じゃないですかーーーー?!


「あ、えっと……お久しぶり……です殿下」

慌ててお辞儀をする私。



それを見て弁皇子はとても嬉しそうに笑って、隣を顧みて言います。

ふくよかな体形の趙忠さんもご一緒でした。


「ねぇねぇ、大長秋宮内大臣。この子を寡人ぼくに頂戴」

「……ははっ!!差し上げますので、今すぐ準備させます!」

「えっ」


えっ。えっえっ。差し上げられちゃったーーー!?私の同意は?同意は……不要ですよね、相手は皇子様ですもんね?!



 - - - - -



そのあと、趙忠さんのご指示で、大勢の宦官と女官が襲い掛かってきて、私は連れ去られてしまいました。


別室に連れていかれ、女官さんたちに着付けをやり直されます。


身体や足を拭いて、丁子ちょうじを一つ口に噛むように言われました。


まぁ、私、いいにおいがします。……食べられませんよね?



まさか。久しぶりに会ったからお話とかするだけですよね?だってお互い13-14ぐらいですよ?


……なんで腰布をそんなに固く縛るんですか。簡単にほどけなくなりますね。……えっ。


全部、奇麗に出来上がったのを確認して、趙忠さんが耳打ちしてきました。

木鈴モクレイさん、何かあったら報告してね?」


何かって何ですかー?!


 - - - - -



「よく来たね、じゃあべっどに上がって」


弁皇子様のお部屋にあがると、皇子様は床の上でお待ちでした。


「あ、あのう……早すぎませんか。私きたばかりで……」

「そう?大丈夫だよ、寡人ぼくがいいって言ってるんだから」


「ま、まだ私、年少わかいですし……」

寡人ぼくもだよ?同い年ぐらいでしょ?何年なにどし?」

丑年うしどしです」

「一緒じゃん!ほら、早くおいで」


な、なんでそんなに積極的なんですか?!というか前に買い物してた時はもっとオドオド、気弱な感じでしたよね?13歳でなんでそんなオラオラ系に……


ってこの皇子様、前も「私にだけ」強気でしたよね……


え、その……後宮にあがるってそういうことではないと……

まさか、その、いきなり……べっどとかちょっと……


「キミが相手してくれると思って、とっても楽しみだったんだ♪」


……助けてーーー?!










※劉弁は後漢書の熹平2年(丑年、173年)または資治通鑑の熹平5年生(辰年、176年)説があります。

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