第39話 皆は巫女が好き

引っ越したら、転入届だして住民票作らないとダメですよね。大漢このくににもちゃんと戸籍があるんですから、きちんと登録してない人に課税通知とか出せるわけないんです。


というわけで河伯教団が山賊だとか何かの間違い、勘違いだとわかってもらわないといけません。ちゃんと戸籍を作ってもらって、課税してもらえれば人畜無害で儒教をちゃんと守る善良な教団だとわかってもらえるでしょう。



というわけで、公明くん他、数名で出かけます。

「お役所に行ってきますので、皆さんはお留守番をお願いします」


「いやどうか、おらたちも連れて行ってくだせえ!」

「巫女様だけに行かせるわけにはいかねえだ!」


なんか信者さんたちがすごく真剣な表情でついてくると言い出しました。


……うーん、私だけでいいかと思いましたが、でもよく考えたら転入届は世帯の代表者も必要ですよね。


「じゃあ1戸につき1人ですね」

「ありがとうごぜえます!!」



あっという間に二百数十人の団体になりました。ずいぶん戸数が増えたものですね。でも皆さんの分の名簿はもう作ってあるので大丈夫ですよ!



…………



…………



河東郡カトウぐんの首府、安邑アンユウへの道を進みますと、周りの農村から人々が行列に参加してきました。

なんかお祭りだと勘違いされてるみたいですね?



「巫女様、みんな巫女様がお救いになった病人だった人たちです」

「はぁ、こんなに居たんですね……」


そういえば巫女の恰好をして安邑に行くのも久しぶりですから、なんか懐かしくなったのでしょうか。

元病人の皆さんは私を見ると「おお!」とか「ああ!」とか歓声をあげて列に参加なさいました。


「みなさん、お仕事があるなら無理しなくていいんですよ?」

「いや、ここはお供させてくだせえ!」

「おお、おねげえします!」



……まぁ、いいですけど。


ああ、人が増えちゃったから進みがすっごく遅くなってしまいました。今は、何百人いるんでしょうね?あう、日が暮れてきた……。



「巫女様、これは野営が必要です」

「わかりました、準備してください。食料持ってきてますよね……」


でも人が増えすぎで足りるかな??




…………


と思っていたら、野営地にお爺さんたちが現れました。若い衆が荷車を引いてきています。


「河伯の巫女様、我らはこの近くの里の父老ちょうろうでございます。どうか、食料をお受け取りくださいませ」

「われらの親戚も巫女様のおかげで救われました。遠慮なく」


「あ、ありがとうございます。人が多くて困っていました」


なんか近くの村から炊き出しがありましたので、なんとか食料は足りました。とりあえずゆっくり休んで、安邑まで頑張りましょう。




……




「青、護衛するよ。戦いになったら困るでしょ?」


翌日、劉豹君が匈奴さんを200人ほど連れてやってきました。全員騎馬です。



いや、住民登録するだけなんで戦いには……そっか、白波賊が仕返しにきたらダメですね。だから少数でさっと移動するつもりだったんですが、こんな大行列になるとは思いませんでした。


「恩人、匈奴ハ恩忘レナイ。返ス」

馬を取られかけてた匈奴のおじさんもいました。


「護衛ありがとうございます、助かります」





……



あ、迂闊うかつだった。お役所に行くのに、親の同意を貰ってなかった。


さっそく董家の私兵わかいしゅうをお屋敷に派遣します。とりあえずお役所に行く前に合流すれば手続きに不備があっても董卓トウタクパパや、牛輔ギュウホ義兄がなんとかしてくれるはずです。


よしよし、今度はちゃんと手が打ててます。経験が生きてますね!!




……




なんだかんだやっているうちに集団が1000人を超えました。いや、何の集まりですかこれ。


お役所の手続きするだけなんですけど……こんなわらわら動いてたら誰かに絡まれたり……



「山賊だぁ!!!!」

ほらぁ!!




大声がしたほうに行くと、ハゲ熊……ダサくて卑怯ですから名前は忘れました。が子分を連れて、なぜか地面に膝をついて座っています。


その熊がハゲ頭を深々と下げて言いました。

「……河伯賊の巫女様。この楊奉ヨウホウ、あんたを勘違いしとった。どうか、ワシらもお供させてつかあさい」

「むむ……」


いや、何か殊勝なこと言ってますけど、さっきまで普通に私たち殺そうとしてたの忘れてませんよ?


「うちの子分の命助けさった上に、飯まで与えさったそうじゃないか。しかもこんな大勢を引き連れて、匈奴族まで。なんと立派なお方じゃ……それに比べてワシは親分失格じゃけぇ、お願いじゃあ」

「……心を入れ替えて、ちゃんと働きますか?」

「おう、きっと戦力になるけえの!期待しとってつかあさい!あねさん!」



誰かあねさんだ。

まぁ、最初から殺したりしたいわけじゃないので、改心してくれるならそれでいいでしょう。楊奉さんは子分の群れをつれて、喜び勇んで列に加わりました。ってまた数百人増えた気がする……







 - - - - -






やっと安邑の城門が見えるところまでやってきました。さてと、そろそろこんな行列は不要ですから、解散して教団本部の人たちだけでお役所に……


あれ?


なんか城内からワラワラと兵隊さんが出てきます。



そして、行列に駆け込んできた若い兵士が一人。董家の私兵ですね。



「巫女様!!!董大人はお屋敷に不在で!!それだけではなく、太守が巫女様を討伐すると言って出撃してきています!!」



なんで?!!私は戸籍を作りに来ただけだよ?!で、道中危ないから行列組んでるけどもう解散するつもりで……。



「青、まかせろ。漢の歩兵なんかのろいから楽勝だ」

ヒョウくん??



「がはははは、これがワシらの世直しの第一歩じゃけえのう!気張ってこうや!」

楊奉さん?!



「太守は巫女様を討伐するつもりだべ!」

「政治を正すつもりなんかねえべや!」

「こうなれば戦うで!!」

信者さんたちが思い思いに農具やら剣やらを掲げて……



こ、公明くん……?

「こちらは2000を超えていますが、安邑から出てきたのは500も居ません。兵を集める時間がなかったんでしょうが……なぜ籠城しないのでしょうか?」





……冷静になろう。周りをよく見て。安邑も見て……うん。


どこからどうみても河伯カハクぞくが、白波ハクハぞく匈奴キョウドぞくと連合してお城を襲いに来てます。


違うってばあああああ?!!!!!!

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