第38話 諦めない

匈奴キョウド族の援軍により白波ハクハ賊を撃破しました!!


「あれ?殺さないの?」

「手当しますよ!」


劉豹くんが意外な顔をしますが、白波賊のけが人を収容して、さっそく手当します。河伯教団はもともと傷病人の世話は手慣れたものです。


少数ですが死人も出ましたので、きちんと葬ります。……悲しいですけど、私を信じてくれる人たちを守るためですから。……こう命が軽くなっていくと乱世が近いのを感じます。



白波賊が落としていった武器なども回収して、信者さんたちのうち希望者に防犯部隊になってもらうことにしました。




「兵士はこれだけかぁ……あとは農民で、それでこの柵……なるほど、豹がやるなら歩兵100いたら楽勝だと思うな」


劉豹リュウヒョウくんに事情を話すと、さっと防衛状況を確認して判定だめだししてくれました。ええ、そうですよね。私、そういう軍人の視点ないんです!!



「お嬢様、申し訳ございません。僕がもっと早く進言していたら……」


公明くんは済まなさそうにしなくていいから!そもそも白波谷ってここから北に200里80km以上はあるところで、近くに盗賊がいるとも思ってませんでしたし。



「いいえ、公明くんが一騎打ちで勝ってくれたから、山賊たちはすっかりビビッてましたしね!公明くんのおかげですよ!」

うん、死ぬかと思って泣きそうだったのはナイショです。


公明くんが嬉しそうに照れて頬をかいてますが、それを見て豹くんが。


「……豹が居たらもっと楽勝だったし。弓矢で倒せば楽勝だったし」


張り合わないでください。


「そうだ!豹がここに住めばいい!うちの騎兵も置いておくからこれで安全!」

「坊チャマ?右賢王(於夫羅)ノ言イツケ覚エテルカ?」

「……ぐっ!?」


思い付きでとんでもないことをいいだすので、お付きの匈奴さんたちに注意されます。


「えっと、援軍に来てくれたのは助かりました、でもどうして?」

「あ、ごめん。豹は援軍に来たんじゃなくて」


と言うと匈奴のおじさんが馬を2頭引いてきました。


「これ!豹が捕まえて馴らした!」

「おお、すごいですね!」


野生馬を捕まえるとか、調教もできるんですか。さすが立派な匈奴に成長していますね。


「そう!成長した!大人になったから結婚しよう」

「ダメです」

「ぐあっ」


いや、だから、そういう話にするなら惚れさせてほしいんですけどなんで豹くんはこう空回りしかしてないんでしょうか……。


「ど、どうして……」

「馬捕まえたのはすごいですけど、大人になるってのは、もっといろんな意味で成長しないとダメだと思いますよ」

「む、むずかしい……」


豹くんが考え込んでしまいました。


「そういえば?お父様……右賢王様は?」

皇甫嵩コウホスウの作戦で、匈奴がたくさん死んだ。だから単于庭みやこで長老たちに謝ってる」


「そーですよね!皇甫嵩は酷いですよ!」


「本当は青が心配だからここにいたいんだけど、父上の言いつけだから豹があちこちの部民の様子見てまわらないといけない」

「安心してください、まっすぐお嬢様は守りますから!」



……


なんか豹くんと公明くんの間で一瞬変な緊張感があったような……


「だったら、もっと防衛を固めるんだ、弓矢を作らせよう。あと鍛冶場はないのか?……炉がたくさんあるじゃないか」

「あれは食料や土器用です。なので別に作りましょう。燃料は豊富ですし」


匈奴と董家私兵とでワイワイいいながら弓矢づくりや鍛冶場、製鉄炉づくりの計画が始まっているようです。





まぁ、劉豹くんも忙しいのに様子見に来てくれて、助けてくれただけじゃなくて、そのあとも気にもしてくれてるみたいです。求婚も諦めてないみたいですし。

……ちょっと嬉しいですね。べ、別に惚れてないですけど。




……



「す、すまない……食事までもらえるなんて」

お手当した白波賊の捕虜の皆さんが泣いています。

なんかずいぶんお腹が空いてたみたいです。


「食料がギリギリだったんだ、最近また流民が増えて親分を頼ってきて」

「小さなむらを襲ったって大した食料もないから、ここを脅して仲間に組み込もうって。ダメでも女子供しかいないから楽勝で奪っちまえと」

「こんなに強いはずじゃなかったから、本隊つれてくるまでもないだろうって。しかも匈奴まで敵にまわるだなんて。」


本隊って、千人超えてるんですか……。




「でさ、青。どうする?殺さないなら奴隷?」

「巫女様、役所につきだしますか?」


劉豹くんと公明くんが聞いてきますが、殺すのも奴隷も嫌ですし、お役所につきだしたら捕まるのはこっちなのでは……。


それより千人超えの盗賊団が郡内にいるなんてまずいですよね。

こうなったらすぐにでも取り掛からないと。


「歩ける人は解放します、当座のお弁当はさしあげますから」

「えええっ?!」


皆に驚かれました。


「それより盗賊なんてやめて家に帰ってください。危ないです」

「……帰る家があれば白波谷に住まないぜ」

「故郷はもう……」


この人たちも難民なんですね。


「巫女様!おねがいだ、ここに置いてもらえないか?あの親分にはもうついていけねぇ」

「仕事ならいくらでもありますよ」


というわけで、河伯教団に参加してくれることになりました。

……なんかうちの教団、さらに見た目が山賊っぽくなりましたね……いやいや、認めませんよ。私たちは堅気かたぎです。



……



それよりも、時間はありません。急いでやることが有ります。


私はつくえの上に竹簡たけふだを並べて書き仕事をはじめました。


「公明くん、これが終わったら出発しますから」

「どこにですか?」

「どこって……お役所に戸籍つくりに」


引っ越したら住民登録しませんと。


どれだけ外見や状況証拠的に山賊だからって、私は絶対に認めません!諦めませんからね!

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