第37話 ゾクの戦い

なんとなく出会った親孝行な真っ直ぐ君が有名武将でした。


いや、その……三国志の全登場人物の姓名やあざなを覚えているわけじゃないので、しょうがないんですけど。



それはそうと。


なんかオタオタしていた自分が気恥ずかしくて、正面から徐晃ジョコウ、いや公明くん……が見れません。


「か、勝つならもっと苦戦しないで勝ってくださいよね……し、心配したんですよ……」

「……はい!真っ直ぐに巫女様に信じてもらえるように次からもっと簡単に勝つようにします!」


何時も真っ直ぐな公明くんですが、なんか急に人物が大きくなったような気がします。自信をつけたんでしょうか。




見ると、白波賊の皆さんがぶっ倒れた大石牛ダイセキギュウさんの周りを取り囲んでいます。


「お、おい!石牛よ、大丈夫か!」

「傷を縛れ!」



上体を起こした石牛さんがハゲ熊の楊奉ヨウホウさんに謝っています。


「お、親分、すんません……」

「……ちっ、普段無駄飯ばかり食うてのう!役立たず!!」


楊奉さんがそう吐き捨てると、石牛さんがガックリとうなだれます。ちょっと、頑張って戦ったんだから誉めてあげてもいいじゃないですか。


私はちょっとムカつきながらも柵の中から、楊奉さんに向かって叫びました。


白波賊ハクハぞくの楊将軍!勝負はつきました!約束通りここは引いてください!」

「うるせぇ!ガキの使いやねえんじゃ!こうなったら総攻撃じゃけえ!」


むっ……


「えーーー、約束破るんですか?!それでよく仁義とかおとことか言ってましたね?……ダサイですよ」

「うぐぐ……」


楊奉さ……ああ、もうハゲ熊でいいや。ハゲ熊がハゲ頭を真っ赤にして怒っていますが怒ってるのはこっちもです。せっかく公明くんも石牛さんも命をかけたのに、あっさり反故ですか。


「約束はどうしたんだや!!」

「そうだーー!卑怯者だべ!」

信者の皆さんがはやし立てます。



「知るか、攻撃じゃあ……!」

真っ赤になったハゲ熊が叫びますが、しかし、山賊さんたちは二の足を踏んでいます。


その山賊さんたちに向かって剣を抜いて改めてハゲ熊が叫びました。


「何しとんじゃ、行きんさいや!ぶっ殺されてえか!」

「わーーー!」

「わーーー!」


剣で脅されて百人にのぼろうかという山賊たちが柵に向かって攻めかかってきます……が。



「なんですかあれ?やる気あるんですか?」


ずいぶん前に見た劉備リュウビさんたち選抜部隊に比べても全然ちんたら走っています。


ようやく柵のところまで来たので、信者さんたちが柵越しに剣や長い棒、石投げなどで対抗していますが……信者さんたちも素人のはずなのに対抗できちゃってますね。


そこに、公明くんと董家の私兵わかいしゅうが門を開いて逆襲しました。たちまち数人を打ち倒します。


「ひえええ?!」

「お助けぇ!!」


あ、山賊が逃げていきます……弱っ?!



「お、親分、無理だ……」

「あ、あいつ強えよぉ……」

「馬鹿野郎!おめえたちが弱ええんじゃ!」


逃げた白波賊はハゲ熊の周りに集まりました。ハゲ熊が何か怒鳴り散らして、陣形を立て直しているようです。



うーん、公明くんの強さは印象づけられたんですが、こちらでまともに武装しているのは公明くんと董家の私兵だけで、あとは棒や石をもった信者さんたちです。


さすがに百人近い山賊さんたちにやる気を入れなおされると厳しいかもしれません。


これは私の迂闊うかつでした。産業を成長させるのばかり夢中になってないで、もっと防犯に力を入れて、柵も直して、あと、せめて20人……いや10人でも武器を持ってる人がいれば……。



……


「巫女様!何か来ました!!」

「え?」


公明くんが遠くを指さします。

遠くに土埃がたっていて、馬が3、4、5、たくさん……。



……



「きょ、きょ、匈奴キョウドぞくだぁああああ?!」

「な、なにぃ?!河伯カハクぞくは匈奴と組んでいたんけ?!」


驚愕する白波ハクハぞくに10騎ほどの匈奴が駆け寄って、弓矢を射かけます。


「ぎゃああ?!」


一部の山賊が匈奴に攻撃しようとしますが、武器をもって攻めかかった瞬間に匈奴騎兵はさっと退いて、弓を射かけます。


追いかけきれずに引き下がると今度は追っかけてきてさらに弓を射かけます。


「に、にげええ!?」

……ついにたまらずにハゲ熊率いる白波賊は一目散に逃げ去っていきました。


賊が逃げ出したのを見て、匈奴騎兵たちは馬首を返して柵のほうに寄ってきます。



いつも乳脂ばたーを持ってきてくれる人たちでしょうか。

お礼を言うためにみんなで柵から出ます。


「あ、ありがとうございます!匈奴さ……ええっ?!」

「賊は逃げた!追撃しよう!矢はある?」



「ありませんよ、匈奴の里じゃないんですから」

「えっ……そうなの?じゃあもっと予備の矢を持っとけばよかったな……えへへ、お久しぶり」


そう言って匈奴の王族の子、劉豹リュウヒョウくんは困ったように笑いました。

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