第36話 真っ直ぐに信じて
「はじめい!」
ハゲ熊の
「ぶもぉおお!!」
「うおおっ!」
石牛さんが雄たけびと共に
手戟というのは槍の横にも刃が飛び出ていて、刺したりひっかけたりする大変一般的な武器です。
ガキン!キーン!!ガッキーン!!
鉄と鉄がカチ合う音が周囲に響き、火花が散るような打ち合いが続きます。
……私は祈るしかありません。なんか口先ではいろいろ言ったりできても、ただの少女では戦えばすぐさま打ち殺されるだけでしょう。
今まで、実際の戦いなんてほとんど見ませんでしたし、喧嘩があっても
でも、今は山賊に襲われているのです。負ければどうなるか。拠点と産業を引き渡すだけで済めばいいですが、乱暴されたり殺されたりするかもしれません。
それに、あの真っ直ぐな
……巫女の私にできることは、祈るだけです。神様、何か私にできるなら、公明くんを勝たせて……お願い!!
「ぐ、ぬぬ……もおおおっ!!」
「ぐあっ?!」
石牛さんがひときわ大きく叫ぶと、
ズガァッ!!!
そして、胴が空いたところを
耐えきれずに後ろに吹き飛ぶ公明くん、ごろごろと地面を転がると、手で地面を打って、石牛さんに向きなおりました。
「うおおお!!」
「やっちまえ石牛!!」
「まけるな少年!!」
「まだいける!」
思い思いの歓声と声援が両陣営から挙がります。
「ぐっ……!!」
「こ、公明くん!!」
柵の中から不安そうな顔で覗いている私をちらりと見て、公明くんは悲しそうに言いました。
「……巫女様、そんな心配そうな顔をしないでください」
「で、でも……」
「……僕は巫女様を信じてますから、巫女様も僕を信じてください。それに」
公明くんはすくっと立ち上がると、石牛さんを指さして言いました。
「ははは、こんなノロノロした牛さんに僕が負けるわけないじゃないですか」
「ぶっ殺す!!」
石牛さんが勢いよく突っ込んできました。つぎつぎと戟を勢いよく公明くんに振り下ろしますが、公明くんはなんとかギリギリのところで戟を避けていきます。
……
……くっ、私が男だったら。こういう時に人任せにしないで戦えて……。公明くんを危険な目に合わせず済んで。そしてパパもきっと息子が活躍したほうが喜んでいたはずで。
三国志で女の私ができることなんて……
……
「見えた」
「ごはぁっ!?!!」
敵の攻撃に呼吸を合わせて避け続けていた公明くんでしたが。一撃を避けた瞬間に、石牛の左側面に回り込んで長剣を脇腹に強烈に打ち付けました。
「うおおおおおおっ!!」
石牛さんがやっと手戟を握りなおして、怒りに満ちた表情で向き直ります。
「ごほっ!!小癪なマネを、て、てめぇ……ぶち殺してやる!!」
「
しかし、公明くんは何か納得がいかないのかぶつぶつ言っています。
「違うなこれは僕じゃない。巫女様のため。もっと全力で、真っ直ぐに」
公明くんは長剣を握りなおすと。真正面から石牛さんに突っ込んでいきました。
「いくぞ牛さん!」
「もおおおお死ねぇええ!!」
ガッキーン!ガリッ……キーン!!ガキン!!!
両者、火を噴くような打ち合いを、何合も何合も続けます。
互角の戦いが続く中、
「お、おい……あのガキ、石牛と互角だぜ?」
「なんでだ、力比べで石牛に敵うやつなんていねえのに?!」
その戦いを眺めているハゲ熊の楊奉さんがイライラしながら叫びます。
「おい!石牛!何を遊んどんじゃい!!!そんなチビガキちゃっちゃとひねり潰すんじゃ!ぶっ殺されてえんかのう!!」
「ぶもおおおっ!!」
それを聞いた石牛さんが雄たけびと共に必殺の一撃を放ち……
バキンッ!!!!
公明くんが手戟の柄を斬りとばしていました。
「なあっ!?!!」
「そこだぁああっ!!」
ザシュッ!!!
石牛さんの肩から胸に長剣の一撃が入ります。
「ぐおっ?!」
そしてよろめいたところに、公明くんの蹴りが入り……
ドスンッ!!!!
石牛さんが轟音とともに倒れました。
……
……すごい。強い。信者の皆さんも、護衛の皆もちゃんと信じてたのに。私が信じなきゃだめだったんじゃない。
そう、分かってた。彼が頑張ってるって。努力してるって。そしてその結果も出てるって。だから送り出したんだから。
こんな強い人が助けてくれるんだから、私が彼を戦わせるに値する人に成らないとダメなんだ。
……
公明くんは石牛が倒れたのを見て、なんか褒めてほしそうにちらりと私の方を向きます。
そして、私がニコッと笑いかけたのを見て前に向き直りました。
長剣をかかげての勝ち名乗りです!
「……
「おおおおおおおっ!!!」
「おおおおおおおっ!!!」
信者の皆さんの歓声があがります。
……
……えっ。あれ?徐晃公明って……あの?!
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