第29話 婚約破棄!

「おのれ皇甫嵩コウホスウ……なんだあの態度は」

「まったくですよ義父上、また宦官かんがんの差し金でしょうな!」


本陣から追い出されたばかりの私たちはとぼとぼと洛陽に向けて歩を進めていました。馬を並べて文句を言い合っているのは董卓トウタクパパと牛輔ギュウホ義兄です。


「むぅ、しかしあやつは”党錮とうこきん”の解除を進言するなど、反宦官だと思っていたのだが……」


あれ、そうなんですか?


「いや、ご覧になったでしょう?皇甫嵩のやつ、宦官の孫の曹孟徳(曹操)といっしょに居ましたぞ?曹孟徳を通じて宦官と結びついたに違いありません」

「むむ!曹騰ソウトウの孫かっ!ならば決まりだな。皇甫嵩のやつは宦官とグルだ!」


牛輔義兄と話し合って、董卓パパのテンションがどんどん魔王方面に高まっていきます。悪い傾向だぁ……


あ、あと。ちょっと待ってください。あの皇甫嵩オッサンはどうでもいいんですが、あの曹操孟徳ソウソウモウトクと敵対するのは困りますよ!危険です!死亡フラグです!


劉備さんと仲良くなる大作戦に続いて、曹操オトモダチ作戦も発動しなければ!!

さっそく曹操さんの弁護をします!


「あのー、父上。曹孟徳様は悪い方ではないですよ?会って話しました。孟徳《様も皇甫将軍あの態度の悪さはダメだって言ってましたし、だから悪いのは皇甫ナントカだと思います。」

「……む??会ったのか。まぁそれはよい。それより、小青青ちゃんは曹一族は嫌いだと思っていたのだが」

「へ?なんでです?」


え、私、曹操さんの一族と何か因縁ありましたっけ??


「ほれ、ずいぶん前に、宦官の縁者がカネで大司農経産大臣になって、中央がまともに仕事をしないせいで苦労したことが有っただろう」

「ありましたね、均輸きんゆのお仕事を手伝っている時でしたか」

「その大司農が曹嵩ソウスウ


……曹操さんのパパじゃないですかーーー!!!!陶謙トウケンの部下に殺されて、曹操がブチきれて大虐殺するフラグのーーー!!!!


あ、うん。お爺さんは大宦官、親父はカネで官職買って、息子は曹操ですか。親子代々真っ黒ですね……だとすると曹操さんの発言はただの宦官擁護ようご??



うーん、でも宦官大虐殺はダメだってのは正しい気がするんですよね。悪い宦官は退治する。だけどそのあとの政治の混乱は防ぐ。両方やらなくちゃいけないのが美少女わたしの役目です。


というかそもそも、董卓パパが政権取っちゃうのが問題なのでは。



「父上、やはり宦官は悪いですね」

「もちろんだとも、宦官の悪政により天下万民が苦難に陥っておる。宦官をいかに取り除くかというのが心ある名士みんなの悩みなのだぞ。だから曹孟徳などに騙されてはいかん」

「は、はい」


うう、曹操オトモダチ作戦は無理っぽいです。


「ところで父上、宦官を無事に討伐できたとして。父上が中央で政権を取るつもりはありますか?」

「お、おう??なんじゃそれ。またお告げか?」


董卓パパがびっくりして茶化すので、慌てて否定します。

「お、お告げじゃないです、父上がどうお考えかなと」

「ならば答えよう。わしに中央の政治など無理だ!!!」


あっ、はい。

董卓パパが何とも自信満々に言い切られました。


「そもそも無事に宦官を討伐すれば、政治は何大将軍(何進)がお取りになるし、袁老師(袁隗)が大将軍を正しくご助言なさるだろう。」

「で、でもなんかの拍子に政権取ってくれといわれちゃったり……」

皇帝を拾っちゃったりしたら?


「ははっ、そんな状況になれば天下で弾圧されている名士名族を推薦して、朝廷でしかるべき位置を占めてもらうさ、わしのような田舎武将に出番などない」

なるほど。


董卓パパは私を見据えると、優しく語りかけました。


小青青ちゃんや、わしは戦争しか能がない。将軍として戎狄いみんぞくに武威を示し、辺境を守って栄達し、たっぷり褒美をもらって兵に配り、張将軍のような高名を得て、故郷の涼州リョウシュウ隴西ロウセイが平和になればそれでいいのだ」


それにな?と董卓パパが続けます。


「朝廷で儀式をやるなどと肩が凝って堪らんぞ。それに考えても見ろ、こんな馬鹿な部下ばかりで中央の政治なんかができると思うか?」


と、みんなを指さしました。


「まったくです、君たちのことですよ?」

「あれ?お婿さんのことやおまへんの?」

「いや俺以外ダナ」

「「「ワハハハッハハハ」」」


牛輔さん、李傕リカクさん、郭汜カクシさんが陽気に笑いだし、つられて董卓パパも笑い出しました。


うん、私たちに天下の政治をさせちゃいけないよね!!!!三国志の未来は絶対にこさせないぞ!!!




などと言っていると、李傕さんが何かを見つけました。


「ム、前方に騎兵!」

「あれ、匈奴ですな。まさかホンマに城攻めに使うんか……」



見ると右賢王うけんおう於夫羅オフラさんと配下の匈奴たちが馬に乗って進んできています。なんか皆さん表情が暗そう……


「オオ、董将軍……聞イタゾ大変ダナ。コッチハコレカラ城攻メダ……」

「いや、右賢王殿も大変だな……そうだ。劉玄徳というのが城攻めに詳しいから、困ったら相談するといい、なんか手足が長くて耳がおおきい若造だからすぐわかる」

「ソウカ、助言タスカル」


董卓パパと於夫羅さんが慰め合ってます。うんうん、仲がいいですね……。



お二人を眺めていると、突然叫び声がしました。


「ひっ?!」

「え?ヒョウ君?」


なんか久しぶりに劉豹君がそこに居ました。ちょっと精悍になった顔で何かに驚いてます。


「……そうか、青は男だったのか……」

「はい?」


あ、男装のままだった。いや、当たり前じゃないですか。戦場ですよ?!


すると劉豹君はなぜか泣きそうになって言いました。

「うう……ごめん、男とは子供が作れない……婚約の話はなしに……」



……婚約してないのに婚約破棄されたーーーっ?!!!

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