第30話 無職(ニート)

久しぶりに劉豹リュウヒョウくんにあったら、男装してたので婚約破棄されました。


って婚約してませんからね?!

もう誤解だらけです!!!


「男じゃなぁーーい!!!戦場で危険だから男装してるんです!!」

「そ、そうか……良かった」


劉豹くんがほっとしたので、さらにちゃんと話して誤解を解きます。


「あと婚約もしてませんからね!?」

「えっ、そうなの?だってほら、贈り物も受け取ってくれたし、名前も教えてくれたし……」


え”……ま、まぁ、確かに未婚女性が家族以外に自分の名前教えないというか、そもそも他家の男女が会ったりしないんですけど。あれは太守の娘、太守の娘って連呼するから……



~回想~


「帽子にした。風よけになる」

「あ、くださるんですか、ありがとうございます!」

「おお、受け取ったか!!」

「ありがとうございます、わかさま。あ、私、太守の娘じゃなくて、ちゃんと青って名前があります」


~回想おわり~



あれ?これ、そういうつもりで見れば、結納品受け取って、聞かれてもないのに自分から名前教えてます????めっちゃ成立してる感じになってる????


う……か……つ……?


いや、そもそもそんな意味で贈物とか思ってなかったし、まだ子供だし?!!それにこの婚約には重大な欠点があります!


「いやいや、そもそも娘が婚約決めれるわけないじゃないですか。漢人は親と親が約束しないと結婚なんてできないんです」


そうそう!自由恋愛の時代じゃないんです。この時代、結婚を決めるのは董卓パパですからね!!意見はいいますが!!


「そ、そうなんだ。いや、匈奴キョウドは違うから」

「どう違うんですか」


問い詰めた劉豹くんは平然ととんでもないことを言いだしました。


「親の了解が得られなかったら、馬でさらっていいことに」

「文明化して!!!?こっちの文化学びましょうよそこは!!!」


必死で叫ぶ私をびっくりした顔で見つめる豹君。


「え、このくにではダメなのか?!」

「どの国でも割とダメだと思いますよ……」

「そ、そっか……匈奴では勇気があると褒められるんだけどなぁ……もっと学ばないとダメだ」


いやいやいや文化が違う。そりゃこういう人たちが一緒に住んでたら毎日揉めるでしょうね……。




「それはさておき、話が急すぎますよ。なんで会ったばかりの娘に求婚してるんですか。突然すぎて求婚だなんて思わないですよね普通」

「……あ、いや、その……だって、黄河で道が分かれるって聞いたから、あの時しかないと思ったんだ」


なんか照れてますが、ああ、うん。普通戦場にいくんだから女の子が来るとは思わないですよね。というか。


「時の話じゃなくて、私のどこが良かったんです?やっぱり美貌ですか?」

「う、うん。そこはあるけど……ほら、ウチの部民を救ってくれたでしょ?」


ふふ、まぁ、美少女ですから。一目惚れするのはしょうがないですねー。って、匈奴の民さん?えーっと。


「馬を取られそうになってた匈奴の皆さんですか?」

「うん、その話を聞いてさ……漢の皇帝の命令に逆らってまで匈奴をかばって、漢人も匈奴も同じだって、人間だって言ってくれた女の子がいたって」


え、えっと?まぁ、そんな感じのことを言いましたね。


「匈奴は……草原で負けて弱くなったから、長城の南で漢人と暮らさないと生きていけない……。でも漢語を覚えても、礼儀を覚えても、子供が漢風の名前をつけても、やっぱり漢人とは違うって言われるんだ。異種がいじんだからって」

「……」


うん、漢人の役人、特に異民族とか見ない関東の人間は差別酷いですしね。それに漢人には辺境で無駄な作戦しては異民族殺して褒美を貰う将軍だっていたわけですし……。



「だから、その。青が匈奴に来てくれたら、みんなに優しくしてくれるだろうし、漢人にバカにされない方法を教えてくれるかなって」


ああ、うん。その気持ちはなんとなくわかりますよ。わかりますけどね??



「とりあえず口説き方が下手だからダメです」

「ガーン?!」


子供すぎます。自信がなさすぎです。自分のことばかり言いすぎです。

もっと周りに配慮できて、包容力があって、人望もあって、確固たる自信で私を引っ張っていってくれる人じゃないと。……あれ?まんま董卓パパな気がしますが??



ふと見ると、劉豹くんがぐだぐだにへこんでいます。ちょっと言いすぎましたかね?でもこれぐらい言っていいですよね?


うーん……。


「本気だったら、もう少し大人になってからやり直してください。その時に考えてあげます」

「は、はい……そうだね……」


劉豹くんがとぼとぼと匈奴の部隊に戻っていきました……。

まぁ、これぐらいはいいですか。




匈奴たちが出撃するみたいなので、私も董卓パパたちの元に戻りました。


見ると牛輔ギュウホ義兄様がニヤニヤと気持ち悪く笑っています。


「あの子、右賢王(於夫羅)の息子じゃないか。小青青ちゃんはあの子がお気に入りなのかな?義父上に口添えしてあげようか?」

「そんなんじゃないです。余計なこと言わないでくださいね?」

「そうか?なんか楽しそうに話してたけどなぁ……?」

「やめてくださいね?」



いや、まぁ、求められるのは別に悪い気分じゃないですけど。結婚するなら求められるとともに、私が惚れた人間にしたいですよね……




 - - - - -



というようなことがあって。私たちは河東に戻りました。


朝廷で何進カシン大将軍と袁隗エンカイ司徒総理大臣が庇ってくれたみたいで、クビではなくただの交代、ただし河東で謹慎となったのです。



そうこうしている間に、皇甫嵩将軍の総攻撃により黄巾賊の本体は撃破され、黄巾の乱は終わりました。


皇甫嵩将軍はその功績をたたえられ、左車騎将軍げんすい冀州キシュウそうとくに任命され。槐里侯だいみょうとして領地八千戸に加増されたそうです。


でも、匈奴の皆さんや義勇兵の皆さんは無理やりの城攻めで死者多数、敵兵を殺しまわって死体10万体を積み上げた京観きねんひを作って誇ったとかで、やっぱりあの人は嫌いです。



というわけで皇帝陛下は天下が落ち着いたので改元なさいました。

光和コウワ七年あらため、中平チュウヘイ元年。



……


めでたい改元だというのに、謹慎中の董卓パパは仕事もないので不貞寝していました。皇甫嵩の悪口も言い飽きたようですが、突然それは起きました。


涼州リョウシュウで大反乱じゃとぉおお?!首謀者が韓遂カンスイ……って韓約カンヤクの大バカ野郎かーーっ!!!!」

「僕らの隴西じっかも反乱軍に占領された?!帰るところがなくなっちゃいましたよ?!どうしましょう義父上!!」



まぁ……まだ私も帰ったこともないのに実家がなくなってしまいました。

……パパは無職ニートなのに実家の仕送り無くなったらどうしましょう!?



・韓遂 文約 涼州金城の人。涼州大反乱に巻き込まれて指導者になる。 元の名は韓約。

・董卓も牛輔も隴西の豪族(じぬし)です。大きな農地と沢山の使用人がいて仕送りで暮らしています。

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