第28話 曹孟徳(ソウモウトク)

皇甫嵩コウホスウさんがトゲトゲしく董卓パパのクビを言い放つと、皇甫さんの隣に立っている背の低い武将さん……副官でしょうか?がうやうやしく絹に書かれた文書を董卓パパに差し出しました。


董卓パパは絹に書かれた文字をさっと読むと、「勅命へいかのめいれいが?!」と言って肩を落とします。


いや、いくら何でも急すぎます……首都の宦官は何進カシン大将軍や、袁隗エンカイ司徒だいじんが抑えてくれてるんじゃなかったんですか。最前線にいるというのにこんなめちゃくちゃな人事……まさか、また宦官かんがんですか?


「や、やむを得ん。ではわしから作戦や状況の引継ぎをさせてくれ。いまから軍議えんかいの準備を……」

「軍議も引き継ぎも不要だ!!時間も兵糧も無駄にしおって、そんな有様だからクビになるのがわからんのか!」


董卓パパの提案を一蹴する皇甫嵩。神経質そうな表情でパパを睨んでいます。


って宴会はダメでしょうけど。引継ぎも要らないんですか???前任者さんの突然の逮捕で着任したパパは部隊の把握するだけで一苦労だったんですけど?まぁ、手段が主に宴会だったのはアレですが。


それに、時間をかけてたのも、兵糧を兵隊さんに配ってたのも城を攻めるための準備なんですけど??


なんか皇甫嵩の副官っぽい背の低い人も、溜息をついています。うん、こんなひどい上司だったら辛いですよね。お察しします。


「ぐっ……そ、そうか。では指揮権に地図、名簿をお渡しする。後は頼みますぞ……」

好意を無碍むげにされたせいか、董卓パパは苦虫を嚙み潰したような表情でやっと言葉を絞り出しました。



皇甫嵩は節を受け取ると、もう用はないというように隣の背の低い副官さんに指示を出しました。

「さっそく、前任の怠惰な気分を一新する!!部隊長を全部呼び出せ。匈奴キョウドも呼び戻せ。騎兵も歩兵も総攻撃だ。すぐに攻めるぞ!」

「はっ。かしこまりました!!」


「あ、いや、皇甫将軍?。匈奴騎兵に城攻めをさせるのはどうかと思うが」

「何を言うか、仲穎(董卓)。せっかく匈奴に来てもらってるのに、手柄を立てさせなくてどうする。ぜひ先陣を切ってもらおう」


しかしこのオッサン、董卓パパを呼び捨てにした上に、董卓パパの言うことの全部逆をしますね。本当にひどいです。宦官と関係がなかったとしてもそもそも性格が悪すぎませんか?



皇甫嵩おっさんはそこまで言うと、副官さんに振り向いて叱りつけました。


「……孟徳モウトク、なにをぼさっとしている!」

「はっ!ソウ孟徳モウトク、準備にかかります!!」

背の低い副官さんはさっと揖礼おじぎをすると本陣を退出します。


って、孟徳??


三国志の主人公、曹操孟徳じゃないですかーーー?!


な、なんとか接触して、今後を有利に……


と思う暇もなく皇甫嵩おっさんが怒鳴ります。

「これから作戦会議だ。仲穎(董卓)とその部下は早く出ろ!逮捕されたいか!!」


オッサンとその取り巻きに全員おいだされました……。

ほんとうにこのオッサンは!!



 - - - - -



あああああああ、腹がたつ!!


「ひどすぎる、陛下がこのような命令をするはずが」

「いや、宦官の仕業に違いない」


董家の家臣の皆さんも口々にそう言ってます。


なんか宦官が悪いことしてるとか、いままで直接に何かされたわけではないから本気で腹がたったことなかったですけど、これも宦官のせいなら本当に許せません。よしんば関係がなかったとしてもパパに対してあの扱いようはなんですか!



そんな風にイライラしながらも、私はちゃっちゃとパパの私兵に指示をだして馬車に荷物を積み込ませています。

さっさと荷物をまとめてでていけと言われてしまいましたからね!


「はい、李司馬リーたいちょうの部隊はこちら、郭司馬カクたいちょうの部隊はこっちで、食料はこの馬車にまとめて……」


「ほう、若いのに手際がいいな」

あ?誰ですか、私は機嫌が……きゃああああ?!曹操が出たー?!


振り向くと背丈が私より少し高いぐらいの小さなおじさん……曹操さんが何やら腕組みして頷いています。


余りにも驚きすぎて悲鳴が声にもなりません。まぁ女声で悲鳴上げなくてよかったです。


私は襟をささっと直すと曹操さんにお辞儀をしました。

「そ……曹孟徳様ですね」

「おお、ご存じであったか。いかにもおれ騎都尉きへいたいちょうの曹孟徳だ。そなたは?」

「董将軍……あ、クビになりましたよね……董仲穎の一族にて董と申しまして、ただの儒子みじゅくものです。何か御用ですか?」


「いや、董家に若くて有能な文官がいると聞いてだな。ちょっと若すぎたが」


曹操がなんかジロジロとこちらを見てきます。美少年だから目が離せないんですね、わかります。

しかしそんな名前を売ったつもりはないんですが……。いや、人材の噂が大好きな曹操ならあちこちの人の噂を集めててもおかしくないですけど。


「どうだ、おれの手伝いをしてくれんか?」


はい???


それもいい……いやいやいや。他家に仕えるとか無理!?男装美少女だってバレたら危険すぎます!?


「え、いや……いま退去しろと言われたばかりですし。それに……皇甫将軍のお側は嫌です、董仲穎に対して無礼でしたし、人事も不自然すぎます。きっと宦官に賄賂したんでしょうと皆の噂ですよ」


「ダメか。……まぁ、たしかに物言いはキツかったな。で、宦官に賄賂??あの方が??」

「だったらなんでこんな突然に勅命が下るんですか。宦官の悪事これに極まれりでは?」

「ははは、まぁそう思うならそれでいいだろう。しかし……宦官の孫のおれに良く言う」


迂闊うかつぅ?!!!!!

曹操って宦官の関係者だったぁ!!!!



「あわわ……その、失礼しました……」

「構わんよ、宦官の悪名は天下にとどろき、悪事だってしてるからな」


なんか他人事のように曹操が言います。

いや、認めるんですか。


「で、宦官をどうすればいいと思う?」

「悪事をしているのを認めるなら、もう退治するしかないのでは?天下の名士はみんな宦官を皆殺しにすべきだと言ってます」


董卓パパははっきり言いませんでしたが、何進大将軍や袁隗司徒、袁紹エンショウさんたちも宦官皆殺しの準備しているみたいですしね。まさしく三国志にあったとおりの宦官皆殺しイベントを。


「ははは、本当にバカだな。悪い宦官だけを獄吏牢番に引き渡せばそれで終わる話だ」

「そうですね?」


たしかに。皆殺しとかしないで、悪い宦官だけとらえて、政治を安定させれば乱世にならないですよね……?


「あ、でもそれを陛下に提案しても宦官が邪魔するのでは意味がないのでは」

「陛下の為になる提案なら採用されるぞ。今回の黄巾討伐の策に皇甫将軍の提案が採用されたようにな」


え、今回の作戦ってあのオッサンが立てたんですか??


「……結局、誰も陛下の為を本気で考えていないのだ」

寂しそうに曹操さんが呟きます。


むむむ。


それはどういうことですか。と聞こうとしたら、曹操さんはいつの間にかいなくなっていました。

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