第26話 節制(だいえっと)

小青青ちゃん!?なんか食事から脂身が消えておるんじゃが?」


「父上。最近太りすぎです、痩せてください。健康に悪いですよ」

「うぐっ」


董卓トウタクパパが泣きそうな顔で黙りました。


包囲戦はじっくり囲むのが仕事なので、あまり動かないんですよね。そこに軍議えんかいのやりすぎで、脾肉ももにくがだるだるなのを自分でもわかってるようです。


たしか三国志の董卓って、丸々太ってたせいで、遺体のオヘソに芯を挿したらろうそくみたいに三日三晩燃え続けたっていうじゃないですか。今のパパはまだ堅太りって感じですけど、このままそんな人間ローソクな豚魔王になったら困りますからね。節制してもらいます。


「な、ナンカ料理がさっぱりしたナ……」

「これはこれで美味しいですわ」

「……義父上がこれでよいと言っておられるのか」


李傕リカク郭汜カクシ牛輔ギュウホ義兄の面々も脂身は抜きです。普段飲んでるお酒がカロリー高いんで脂身抜きでちょうどいいと思いますよ??


そうだ、今度から毎朝の体操もしてもらいましょうか。



 - - - - -




さてと、幹部用の銅製の大鍋に豚の脂身をぶち込んで、火を焚いて豚脂らーどを絞ります。そして豚脂を煮立たせたものに、骨髄、油粕、みじん切りにしたニンニク、ネギ、ニラ、ショウガなどを投入。塩水と豆鼓まめみそで味を調えます。


うん、食べる豚油たべらーの完成です。

なんか本来は唐辛子というものを入れた気がするんですが、今生では見たことがないのでどんなものか忘れました。


食べる豚油たべらーの見た目はギトギトしていて身体に悪そうですが、そもそも雑穀ご飯オンリーの生活している兵隊さんたちにはむしろちょうどいい活力源になるでしょう。


匙一杯でご飯が進むぐらい超濃厚な味付けで、日持ちもするので大量に作れば手間も省けます。



「はい!まっすぐ美味いです!」


人体実験を引き受けてくれた公明くんがご飯をむさぼるように食べています。よし、成功ですね。



さてと、本当は全軍に配りたいんですが、材料と予算が足りません。董家の料理人さんと一緒に量産したものを、攻城兵器を訓練中の選抜部隊さんに配ってもらうことにしました。

 



 - - - - -



食事を改善してしばらく経ちました。



「それ、かかれ!!」

「「「おおーっ!!」」」



選抜部隊の兵隊さんの動きが明らかに良くなっています。

まぁ、ニラにニンニクにアブラましましでパンチの効いたものばっかり食べてもらってるので、元気がでたようです。


「おら、走れ!」

「特別食は我らがもらう!!」


で、選抜部隊は良いご飯が食べられると噂になりまして。さらに参加者が増えたようです。うんうん、いい感じですね。




そうやって部隊を見回ってると、お辞儀をしてくる人がいました。原作主人公の劉備リュウビ玄徳ゲントクさんです。


「これは、董大人トウのだんな。お久しぶりです」

「あ、玄徳様。最近いかがですか?」


「いやぁ、董将軍のすばらしさに感服しております。この劉玄徳の提言をお聞き入れいただくだけでなく、軍規も行き届いておられる。なんでも兵に配る兵糧をピンハネしていた属吏やくにんを即座に追放なさったとか」


あの文官さんそこまでしてたんですか。いや、しておかしくなかったか……。



劉備さんがにこりと笑います。

「で、それも董大人が補給を受け持っておられるからと聞いておりますぞ。兵を飢えさせず、滋養溢れる調味料を作ってお配りになり、さらには属吏の不正にも常に目を光らしておられる。そのために属吏たちは寸悪をも慎んでいるとか」

「あー、その、あまり褒められると困ります。私など何もしてませんので」


本当に劉備さんて話が上手いんですよね。聞いているだけで気持ちよくなるというか、自分を見失いかねないので気を付けないと。


「いやいや、董大人の功績がなければ誰にあるといえましょうか」

「話を変えましょう!!!戦争はどうなりますかね!」


ああ、なんか恥ずかしくて顔が赤くなりそうです。


無理やり話題を変えると、もともと顔の赤い人、関羽カンウさんが説明しはじめました。


「うむ。城壁を観察するに、敵兵は明らかにやる気が落ちてござるな。董将軍のご指示にて匈奴キョウドが敵城への補給を完全に封じているからでしょう。そろそろ攻め時かと思いますぞ」

「おお。私にはわかりませんが、さすが三国志随一の名将軍」


素直に感心してしまいました。ここから城壁の敵兵なんて、なんか小さな豆粒が動いてるようにしか見えないんですけど……よくわかるものですね。


「三国がどこかは知りませぬが。名将と呼んでいただけるとは光栄な」


長いヒゲをしごきながら関羽さんが嬉しそうにしています。


「もしや、このあたりにあった国……カンチョウのことでござろうか?」

「あ、すみません。三国とかいうのは忘れてください……」


冷汗をかきながら、取り消します。どうしても迂闊なことを言う癖はなおりませんね……



そうしていると、李傕さんがすっ飛んできました。


小爺わかさま!!!一大事ダ! スグに本陣ヘ!!」

一体なにごとでしょう?!




 - - - - -




「董将軍。そなたはクビだ。今すぐ指揮権を引き渡してもらおうか」


本陣では、細面のいかにも神経質そうな将軍が偉そうに董卓パパに追放宣言していました……

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