第24話 献策

さてと、善は急げ。さっそく董卓トウタクパパに相談です。

軍議えんかいが一段落したところを見計らって、内密に父上に提案をします。二人きりなので父上とお呼びします……おや?


「……父上?なにか浮かないお顔ですが」

「あ、いや。なんでもない。なんじゃい小青青ちゃんや」


董卓パパは一人、将軍用の椅子に座って憮然ぶぜんとされていました。楽しく宴会してたんですよね?なにを悩んでるんでしょう?


まぁ、いいや。一般の兵隊さんたちが、幹部ばっかり宴会をしていることにムカついている話を一生懸命に説明したら、董卓パパはふんふんと真剣に話を聞いてくれました。やっぱりうちのパパは優しいですね!



小青青ちゃん、よく知らせてくれた。兵たちには悪いことをしたのう。しかし、城を包囲してる兵まで酔っ払ったらまずい。順番を分けて肉を配ることにしよう。それでよいか?」


「あ、はい、ありがとうございます!あと……本件は、劉玄徳(劉備)という方からのご提案なのです。一度会って褒めてあげていただけますか?」


そう、私は三国志ルートから外れるための秘策その1を考え付きました。劉備さんオトモダチ化計画です!


劉備といえば三国志の主人公で、のちには蜀漢の皇帝となる人物。今はそれほどでもないですが、この後には反董卓連合軍に参加することも決まっています。


その劉備さんと董卓パパが友達になれば、皆殺しエンド回避に役立つはずです!たぶん!


「ふむ?いや、良いことを進言してくれたから構わんが」

「ありがとうございます。劉玄徳、劉玄徳をよろしくお願いいたします」


なんか怪しい選挙演説みたいになってしまい、怪訝けげんな目で見られましたが、とりあえずうまくいったみたいです。

そうと決まれば、さっそく皆にお肉を配ってもらいましょう。



 - - - - -



「うおおおおおおお!」

「肉だ! うめえ!!」

「董将軍、万歳! 万歳!」


あちこちの宿営地で兵隊さんたちが喜びの声をあげています。いやぁ、良いことができました。気分がいいですね。


劉備さんたちは……と。


「お、これは董大人トウのだんな、うちの兵にまで肉を配ってもらいあり難き幸せ」


宿営地を見回っていると、劉備さんがやってきて、大げさに手を組み合わせる揖礼ゆうれいでお辞儀されました。手足が長いから映えますね……。


「いえいえ、劉玄徳様のご助言あってのことです。改めてお礼を申し上げます」

「どうだ、兄者はすごいだろう」

「静かにしておれ益徳エキトク


劉備さんにお礼を言うと、いばる張飛チョウヒさんを関羽カンウさんが叱ります。


ふふふ。なんか面白いですね。


ちょっと笑った私を見て、劉備さんが謝ります。

「すみませんね、董大人。こいつら礼儀を知りませんで」

「いえいえ、やはり義兄弟ですね、仲が良くて羨ましいです」


だって私、お兄さん死んじゃったし、お姉ちゃんは嫁いで居ないし、弟や妹はなかなか作ってもらえないわで兄弟いないんですよね……いいなぁ。


なんで劉備さん変な顔してるんですか。

「へ??あの、俺らが義兄弟だって言いましたっけ?」

「……」


ぐはっ?迂闊うかつぅ?!!


「いえ?!その!義兄弟みたいで仲がよろしいですねと言いました!」

「あ、そうだったんですかい。いや、ご明察めいさつのとおりで義兄弟なんですわ。天下万民のため、陛下のため、黄巾党を討伐するためにただの仲間以上に力を合わせようとね?」


劉備さんが説明すると張飛さんと関羽さんが続きます。


「そう、そして出世するんだぜ」

「ちがう、英雄になろうと誓ったのだ」

「まず大儀ね?キミタチ」


劉備さんがあきれ顔でツッコミをいれます。この人たち面白いなぁ。


「あ、大丈夫ですよ。三人とも英雄になって歴史に残りますから」

「マジで?」

「うむ」

「おお!」


なんか喜んでますね。


「えっと、ところで玄徳様、董将軍が今回の献策ていあんのお礼にお会いしたいとのことで、よろしいでしょうか?」

「へ?俺に??……あ、いや。この劉玄徳。お呼びとあればいつでも馳せ参じましょう」


「玄徳兄ぃ、将軍をヨイショして酒貰ってきてくれ。無くなった」

「こら、バカ益徳。玄徳兄がお世辞など言っては軽くみられるわ!」


関羽さんが張飛さんをたしなめます。その顔を見て……ああ!?



「あ、あのう、雲長さん?解池カイチの塩湖でお会いしませんでしたか?」

「……いや?別人でしょう」


嘘つけ。

関羽さんは表情を変えずに横を向いちゃいました。が、顔の赤みが増してます。


「ええ、塩商人の長生チョウセイという方に似ておられますが」

「長生は小悪党の人生を恥じて死にもうした。ここにいるのは関羽、英雄になる男でござる」


……ああ、そういう設定ですね。わかりました、乗って差し上げましょう。


「残念です、長生さんには560銭の貸しがあったのですが、あきらめるしかないですね」

「む……それは大損ですな。そうだ、我には酒と肉をいただいた恩義がござる。一つ助言いたそう」


関羽さんが勿体ぶって仰ります。

おや、ありがとうございます。なんでしょうか。


「|盧将軍(盧植)の元部下に不満が広がっております。これは董将軍が宦官に賄賂わいろを送って、将軍の座を奪ったともっぱらの噂だからでござる。手を打たれるべきかと」


うわぁ。


なんでそーなるの!


 - - - - -




「知っておった」

「だから軍議をしたんじゃないか」


さっそく本陣に戻って、董卓パパに報告したところ、董卓パパと牛輔兄にがあっさりとそう返しました。


うぐっ。すみません、ただ単に宴会が好きなだけかと……。

「いや、でしたら。そんなことはないと否定すればいいのでは?」


「状況だけ見てみるんじゃ……盧将軍が賄賂を拒否してクビになった。じゃあ次の将軍は?なんで将軍になれた?宦官に取り入ったんだ、と思い込む余地はある」

「でさ、小青青ちゃん、いちど犯人だと思い込まれたら、いくらやってませんといっても白々しいだけなんだよ」


「だから軍議で打ち解けようとしたのじゃが、盧将軍の部下たちの態度が頑なでなぁ……これでどうやって戦おうと」


だから困っておられたんですね……。

これ、本当にどうしましょうね……




「で、小青青ちゃんや。客人が来るのでは?」

「はい、そうです。劉玄徳様を呼んでまいります」


社交の上手い董卓パパで対処法が分からないなら私には無理です……切り替えて劉備さんオトモダチ作戦を進めましょう。



改めて面会の場を整え、劉備さんをお呼びします。

劉備さんは、董卓軍の武将たちの居並ぶ中を平然と進んでいき、董卓パパの前に立つと深々とお辞儀をしました。


実に立派な作法です。


「董将軍、兵卒に肉を配っていただき、誠にありがとうございます。兵はみな閣下の人徳を讃えており、死をも辞さずに戦うことでしょう」

「いや、貴君そなたからの提案あってのことじゃ。大変よい提案をしてくれた。こちらこそお礼を申し上げる」

「いえいえ、小人の浅知恵に耳を傾けていただける。これは閣下の度量の大きさと賢明さあってのことでございます」


いやぁ、ペラペラと良く喋るな劉備さん。しかも聞いてるほうがだんだん気持ちよくなるぐらいに耳触りがいいです。


「……閣下、もしお時間がありましたら、もう一つ提案をさせていただきたいのですが」

「む。そうか、助言をしていただけるならば大変ありがたい」


董卓パパは劉備さんに向き合って一つお辞儀をすると聞く姿勢を取りました。


「わが師、盧将軍も仰っていたことですが。賊将の張角は籠城の準備もできずに大兵とともに城にあります。今は黄巾賊の士気も高く力攻めでは損害が増しましょう。包囲して兵糧を削り、敵の士気が下がったところで攻めれば大勝利間違いなしです」


いや、そんなこと知ってるってば。董卓パパの作戦そのまんまじゃないですか。

劉備さん怒られますよねこれ……と思ってちらっと董卓パパのほうを見ると、意外。


「いや、まさしく金言というべきもの。ようやく勝ち筋が見えたわ」

なんで董卓パパが褒めてるんですか。


「ところで、師と申されたが、劉君(劉備)は盧将軍の弟子で?」

「ははっ、不肖の弟子にて師には迷惑ばかりかけておりましたが、師匠の黄巾討伐の一助となればと参じましたところであります」


董卓パパは何か考え込んでいます。そこに劉備さんが続けました。


「さらに申し上げますと、これも師匠のお言葉ですが……いま大いに雲梯ながばしご井楼たかやぐらを作っておりますが、兵達にはこれらを使う訓練が不足しております。少なくとも1-2か月は訓練して、使いこなせるようにしないと、本番で手痛い失敗をするかと」

「おお、全くその通りだ。いや、この董卓、目は空いていても見えず、耳は通っても聞こえないところであったわ。さすがは盧将軍、そして劉君はよくその言葉を伝えてくれた」


董卓パパは感動のあまり立ち上がり、劉備さんの手を握って言いました。

「さっそく城攻め用の精鋭部隊を選抜し、訓練を施すことにしよう。劉君の部隊もぜひ参加いただきたい」

「光栄至極に存じます」


父上は劉備さんの助言を採用し、褒美をたっぷり渡しました。

ほっ……しょうもない提案をして怒られるかと思いましたが、オトモダチ作戦は上手くいったようです。



 - - - - -



劉備さんが退出した後。


「……義父上?あのような浮浪者の提言など聞く必要がありましたか?そもそも我らの作戦そのまんまではないですか。功績があるならともかく、無駄に褒美を渡すなど父上らしくもありませんよ?」


身内だけになったところで、牛輔義兄様が董卓パパにぶちまけました。いや、私もそう思うけど……


董卓パパは涼しい顔で言います。

「あやつは盧将軍の弟子らしいな」

「といっても名前も聞いたことがないような小物ではありませんか」


それだ、と言いたげに董卓パパ。

「その、小物の提案が盧将軍の弟子というだけでここまで尊重され、褒美が貰えるとする。ならば普段から盧将軍の言葉を聞いていた幹部たちはどう思うかな?」

「は?……お……ああ?!」


怪訝そうだった牛義兄さんの顔がどんどん明るくなっていきます。


あ、なるほど??それなら少なくとも董卓パパは盧植さんを尊重してることがわかるし、みんな我も我もと提案をしてきますよね?


かいより始めよ、ということですね義父上!!」

「いや、今回は本当に助かった!小青青ちゃんのおかげじゃ!よく劉玄徳を呼んでくれた!!あんな都合のいい小物が落ちてるなど全く気付かんかったわい!」


董卓パパは極めて上機嫌ですが……うん、まぁ、小物ね……今はソウデスネ……

……あ、ありがとうございます。



そのあと、旧盧植軍幹部とのわだかまりも解け、軍議でいろいろ提案してくれるようになったそうです。


めでたしめでたし。

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