第23話 劉玄徳(リュウゲントク)

「「ワハハハハハ!」」


董卓パパ達は、軍の幹部を集めて本当に宴会をはじめてしまいました。付き合っていられませんので、本陣の外にでることにします。



小爺わかさま、お供しまス」

スッ……と李傕リカクさんが護衛についてくれました。


そんなに気を使わなくてもいいんですが。


というと、李傕さんはギロっと目を開いてこっちを見ました。

「……戦場をナメてると死にマスゼ??」

「ごめんなさい」


そういえば戦争しに来たんでした。緊張感が足りてませんね。反省です。


そう!緊張感足りてませんよね?!!……私は宴会場を睨みました。


「ご安心ヲ、見張りは立ててイル」

いや、そこまで油断しているとは思いませんが……



せっかくなので、宿営地を見回ることにしました。こういう風に油断してる間にきっと何か起きるんです。三国志で見た……じゃないな。桶狭間か。


いくつもの天幕てんとの下に大勢の兵隊さんがたむろしています。


しかし、漢朝の軍隊には、いろんな兵隊がいますね。


李傕さんが言うには、あちらで装備が比較的揃ってるのは、正規軍だそうです。


きちんとという班で5人ごとに行動していて、兵4名は短兵、長兵、射兵に分かれています。伍長1名はちょっと装備が良く、ほこたてを持っています。短兵は短い戟か剣とよろいを装備して突撃用。長い兵は槍や長い戟をもっており、短兵の支援。射兵は弓矢を後方から撃つそうです。


「……李傕さん、短兵以外が甲を付けていませんが?」

「当たり前ダナ。後ろから撃ったり刺したりするだけなら甲はいらナイ。遅くなるダケ」


そりゃそうですけど……怖くないんですかね??


別の部隊は鉄砲に弓を括り付けたような形状のいしゆみを持っていて、精鋭部隊だそうです。弓矢よりもはるかに強く遠くまで飛ばせるとか。


「強弩を多く揃エ、槍で陣を守れバ、キョウ鮮卑センピも近づけナイ」

なるほど、まさしく鉄砲隊と槍隊……戦国時代みたいです。



別の部隊がいます、今度は服も武器もバラバラですね。


「義勇兵ダナ」


なるほど、黄巾討伐の軍隊には、こうやって自前で武器と兵隊をそろえて参加している私兵集団がたくさんいると聞きました。

まぁ、李傕さんたちも董家の私兵ですが。


正規兵とくらべると、かなりみすぼらしい見た目ですけれど、なかにはそこそこ立派な装備をつけた人たちもいるようですね。


「……ったく、盧植ロショク先生をクビにしたと思ったら、お偉いさんは着任早々宴会かよ。マジメに戦争する気あるんかね??」

「まぁまぁ、玄徳ゲントク兄。呼ばれなかったからと言って、腐るものではないぞ」


は?

あそこでダベってる、立派な装備の義勇兵さん。

いま「ゲントク」って言いました??


「おお?そんなこと言ったって雲長ウンチョウだって、サケ飲みたいだろぉー?見ろよ、益徳エキトクなんかさっきから悶えてるぜ?」


「ガアアアアアッ!!酒の匂いがッ!!!酒ガアアアアッ!!!」


わわわわ、ゲントクとウンチョウ!

劉備玄徳リュウビゲントク関羽雲長カンウウンチョウじゃないですかぁ!!

ということは、あそこでおかしな感じで悶えてる筋肉ダルマは張飛チョウヒ?あれ、でも張飛って翼徳ヨクトクじゃなかったっけ。改名したんでしょうか?


どどど、どうしよう。超有名な人じゃないですか。


五月蠅うるさい連中ダナ。しかも主公とのを批判ナド……黙らせてクル」

「待って!?」


李傕さんはちょっと待ってて?!

ええっと……考えなきゃ……

三国志の勝ち組は曹操ソウソウ。でも、劉備さんだって原作主人公!

皆殺しの運命を回避するために、仲良くして損は無いはずです!!

となれば、私にできることは……そうだ!


「李傕さん。あの人たちの言うのも、もっともです。兵隊さんたちは夏の暑さに耐えているのに、偉い人だけ宴会では、やる気がなくなります。お酒と肉をもってきてあげてください」


「む、そこまでするカ??……」

「いいですから!」


ところで関羽さんの顔どっかで見たような??


 - - - - -


「えっ、我らに酒肉を?」

「董将軍からの心遣いです」 


今までの人生で私は学びました。だいたい男の人はみんなお酒と肉が大好きです。よって、さっそく推定劉備玄徳さんにお勧めして、好感度を上げていきますよ!


三国志の劉備って、小柄で上品なイメージがあったんですけど、この推定劉備さんはちょっとイメージが違いますね。えっと、下品なほうです。


年齢はハタチすぎ?背は七尺~八尺ぐらいと高く、体格はがっしりしてます。

あと耳たぶは大きいです。福耳ってやつですね!

ヒゲは薄くてまばらな感じですね。


「これは痛み入る」

雲長と呼ばれていた、顔の赤い人が酒と肉を受け取りました。あれ、どっかで見たような??


「うめぇ!」

張飛さんは貰った瞬間口に運んでます。仕事が早いですね。


「む……配慮ありがたい。俺は幽州ユウシュウ涿郡タクぐん涿県タクけん劉玄徳リュウゲントク中山靖王チュウザンセイオウ劉勝リュウショウ後裔しそんだ。黄巾討伐のため、義勇兵の募集に応えて参上した」


やっぱり劉備じゃないですかー!中山靖王劉勝……そういえばそうでした。劉備って前漢皇帝の血筋を引いてるんでした。

祖先の劉勝さんが子沢山で孫が100人以上いたそうで……王族と言っても前漢の血筋だし、大勢いるし、で別に身分が高いわけではないそうですが。



「ところで、そちらは?」

「董将軍の縁者で、董と申します」

「そうか、まだずいぶんと若いのに従軍か。大変だな。……しかし!!心遣いはありがたいが、これは飲めない!」

「うめえ」


ええええ!?もう嫌われた!?なんで?原作補正??でも張飛さん飲んでますよ??

「ななな、なぜでしょう?」


慌てて問うと劉備さんが、なんだか芝居がかった手振りで語り始めました。


「見てくれ、この陣には何万もの兵がいる」

「そうですね」


「たまたま董将軍の縁者にお会いしたからといって、彼らの前で俺たちだけ酒を飲むわけにはいかない!!」

と、劉備さんはなぜかびしっと手足の動きをキメて、セリフを言いきります。


な、なるほど……気遣いの塊ですね。これが大徳でしょうか。


ただ、それを聞いてブチ切れた人がいました。

「アアン?小爺の振舞品に対シ、グダグダと義勇兵ゴトキガ……」

「まって!!」


李傕さん、待ってください!


「うめえうめえ」

……っていうか、もう張飛さん全部飲んで食べ終わりましたけど……



関羽さんが呆れて張飛さんに声を掛けます。


「益徳、お前なぁ……せっかく玄徳兄が徳を見せてるというのに台無しだろうが」

「済まない、雲長兄。吐けばいいか」

「結構です!?」


なんなのこの人たちぃ!?

と、ともかく!好感度アップのためには、劉備さんにも飲んでもらわないと!


「りゅうび……あ、いや、えっと。玄徳様のおっしゃるとおりです。董将軍に進言いたしましょう」

「え、マジ!?」


危なかったぁ……思わず劉備玄徳って言いそうになってしまいました。さっきの挨拶では劉玄徳としか聞いてないですからね。「劉備」って名前は知ってたらおかしいですもん。



「……吐かなくていいか?」

張飛さんは座っててください。


ところでやっぱり関羽さんの顔見たことある気がする。数年前かな?顔の赤い人……。

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