第13話 上奏文
ある時は美少女巫女、またある時は美少年官吏。しかしてその実態は……ただの本好きの娘、
スラッと伸びた背丈は
今日は
「黄巾党の乱賊は三十数万に上り、あちこちで
「
「いえ、父上は見事に
本当に、おかげで
「ははは、巫女様のおかげでな?」
董卓パパはにっこりと笑って。
「しかし、見事に予言のとおりではないか。神通力はないと言って居ったはずでは?」
「いえ、私もよくわからないのですが、ある日なぜか先が見通せたので。きっとお告げだと思います」
たしかに、私がなぜ先の記憶があるのかはよく分かっていません。気が付いたらこうでしたし。三国志の記憶以外はおぼろげなんですよね……。
「ふむ、
それができたらどれだけよかったものか!
「ごめんなさい、何ができるわけでもないのです。お告げもちょっと先がわかるだけで、他は美しいぐらいでしょうか」
「それはさておき。小さなころから読み書き計算が達者なのは十分変じゃが」
本当に
「ところで
「うっ……」
黄巾の乱は曹操やら劉備の活躍で終結し、でもそのあとも戦乱が続いて、結果は一族皆殺しになります、と言うべきなんでしょうか?
でも全部言っちゃったら「予言になって成就」しちゃいそうでとても嫌です。この優しい董卓パパが独裁者になって大魔王化するようなのはあまり想像が……ちょっとつくけど多分違うし!
少なくとも三国志を止める方法を見つけないと……そもそも戦乱が起きる原因は……。
などと迷っていると董卓パパは一つため息をつきました。
「ふぅ……まぁ良い。あまり予言ばかりされては気疲れしてしまうからな」
ごめんなさい、整理出来たら話すようにします……
「失礼、義父上。都からお手紙が」
そう言って荒々しく入ってきたのは、お姉様の旦那さん、
お手紙を董卓パパに渡しました。
「ほうほう、河北の黄巾党を攻めていた
……はい???
いや、たしかに三国志の董卓って一瞬だけ黄巾の乱に登場しますけど、改めて理由を聞くと酷いですね。
「酷くないですか???? 都ってバカの巣窟なのかと!?」
義兄さんが怒るのももっともでしょう。
「牛輔……あまり言うな。都には皇帝陛下……
「だからって滅茶苦茶すぎます!?僕らは宦官の玩具ではありません!!」
宦官宦官、どこも悪さをする宦官ばかりです……はて?
「ところで、宦官はなぜそこまで権力を?」
「ん、
「はい、聞きました。いやその、なんでそんな悪い人たちが皇帝の近くにいるのでしょうか?」
「陛下とか聖上と呼びなさい、
董卓パパがちょっとひきつって注意してきます。
「ええっとだね。もともとは聖上の身の回りのお世話や後宮……聖上のお嫁さんたちの世話をするための人間でな。悪さをしないように、えっと……処理してあるんだが」
「ちょん切ってあるんです」
言いよどむ董卓パパの前で、牛義兄様が股間の前でスパッと手で切るマネを。うわぁ……お下品ですわお義兄様。
「宦官は、聖上の身の回りのお世話をする者じゃから、必要ではあるんじゃが、だんだんと政治に口出しするようになってだな」
「口出しさせなければいいのでは?」
「まったくそのとおりじゃ」
ですよね。なんで口出しさせてるんだろう……
と疑問に思ったのを見て、牛義兄様が補足します。
「昔はね? 忠義心があって、功績をあげた宦官もいたらしいさ。でもまあ、あくまで昔の話で。今はもう本当の悪しかいない」
「うむ。宦官は正義の士の言葉を聖上から
董卓パパが怒りに震えながら説明します。
「黄巾党についてもだな。調べれば、宦官に収奪された貧しい民を、張角たちが
なるほどー。
「でもそこまで悪いのがわかってるなら、ちゃんとしかるべきところに訴えてクビにしてもらうとか」
「そのとおりなんだけどね。上奏しても握りつぶされるから、陛下に届かないのさ」
「いや、牛輔。状況は変わりつつある。まず、皇帝陛下もあまりの反乱の大きさに“党錮の禁”を解除することをお決めになった。そして続々と追放された名士や賢者が戻ってきて黄巾党の討伐に従事している。いまなら宦官の力も弱まって……」
「で、その盧植将軍がまた逮捕されましたね、宦官のせいで」
ダメじゃないですか。
やっぱり宦官が諸悪の根源。宦官をなんとかすれば……
「むぅ……ならば最後の手段だな。
「なるほど! 袁家といえば、
「ああ、まだ若いワシに政治や学問、心構えなどいろいろ教えていただいた……ワシのもっとも尊敬する名士だ」
「それならば!!」
「よし、さっそく宦官の悪を告発する上奏文を書くぞ!黄巾党と戦うよりも、まず諸悪の根源を叩くべし!!!」
董卓パパと牛義兄様がなんか盛り上がっています。そんなに立派な人がいるならきっと宦官が悪だとわかってくれて皇帝陛下を説得してくれるでしょう……あれ??
……じゃあ、そんなに偉い袁隗さんって今まで何してたの??
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
河東郡太守 董卓、上奏して曰く。
「臣が伏して思いまするに、天下に謀反が絶えないのは、これは黄門常侍張譲らが天道を侮って王命を操作し、父子兄弟を州郡に据え、手紙ひとつで千金を手に入れ、京畿諸郡の数百万の美田が張譲らの手に落ちているからであります。かくして怨みの声が上がり、妖賊が蜂起したのです。
臣が詔勅を奉じて黄巾賊を討伐せんとしておりますが、将兵は川を渡ることを承知せず、皆が言いますのは、京師に参上してまず宦官どもを誅殺し、民の害を取り除いて内閣から褒美を頂戴したい、と申しておりますので、臣は兵をなだめているものです。
臣が聞きますに、湯入れを持ち上げて沸騰を止めるのは薪の火を消すよりたやすく、腫れ物を潰すのは痛くとも肉が病み続けるよりはましだ、とております。溺れてから船を呼んでも、後悔は間に合いません。どうかご決断をお願い致します」
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朝廷からの任命状を受けとると、董卓パパはさっそく返事の上奏文を書いて都に送りました……。
― ― ― ― ―
「あーにじゃーーー!!」
上奏文を都に送ってからしばらくしたころ。突如、都で仕官していた
「兄者。上奏文は却下された……がな?悪い話じゃない、上洛して何進大将軍に会ってくれ。袁司徒(袁隗)の取り計らいだぜ」
「ふむ!」
その名を聞いて董卓パパが奮い立ちます。
……三国志では宦官討伐を企んで、死んで洛陽を大混乱させたあげく、董卓が洛陽に乗り込んで独裁者になるきっかけを作った方ですよね……役者が揃っちゃう?!!
宦官は悪いけど、宦官をなんとかしちゃうと……
さ、三国志になって皆殺しエンドが……
あふ、目の前が真っ暗になって……
「
※出典:「三國志:魏書·董二袁劉傳」
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