第11話 策略

颯爽さっそう河東郡カトウぐん安邑アンユウのお城に現れた謎の美少女巫女!うすぎぬに包まれたその美貌びぼうの正体とは!!


そう、私こと董青トウセイちゃんです。



地道に仕事をしていた「男装文官版董青さん」の人徳により出入り業者の皆さんから多額の予算を獲得しました。って人徳と言っても国の権限で稼いだものですが……貧民救済に使うから許してください。



お粥に肉や魚を混ぜたり、 病人を受け入れるための天幕てんとを増設したりなんかしていると、人気が出たのか通ってくる人がどんどん増えてきました。


なかにはかなり具合の悪い人もいて、そういう方も丁寧に看病します。と言っても医術の心得はないので、清潔にして暖かくして栄養を取ってもらい、枕元まくらもとで励ますだけなのですが……




「おお!? 巫女様からいただいた薬を飲んだら、とてもすっきりしたべ!」

「オラもだ! 背中のかゆみが綺麗に消えたべや!」

「アタシは力が湧いてきた! 巫女様の噂は本当だったんだわ!」


もともと免疫が強いのか、それだけでも治ってしまう人が続出しました。



そうすると遠くからも人が集まってきます。



「すみません!病を治す巫女様はこちらですか!!」


わぁ、年のころ15ぐらいでしょうか?礼儀正しい言葉遣いの少年がお婆ちゃんを背負ってやってきました。ここまで大変だったでしょう。


「いえ、大丈夫です!あと老母ははです!!」

「ごめんなさい」


だ、大丈夫です。ちゃんと受け入れますよ。

え、割としわしわですけど40代っ……?そんな直ぐ老けます……?私も気を付けないと……




という感じで多くの人を受け入れて、すっかり評判になったころ。

やつらがやってきたのです。



 - - - - -


大賢良師様だいけんりょうしの教えを誹謗ひぼうする巫女とやらはここかー!!」

「太平道をナメておるのかー!!」


なんか、黄色い布を頭にまいた人たちが数十人で押しかけてきて叫びます。


間違いないですね。黄巾党コウキントウの人たちです。

えっと、本人たちは太平道タイヘイドウって呼んでるんでしたっけ?


黄巾は蜂起ほうきのしるしだと思ってましたが、もう皆着けているということは反乱は近いのかもしれません。




「巫女様は下ガッテ」


とみると長い棒を持った李傕リカクさんが肩をいからせながら前に立ちふさがりました。たすかります。なんとか穏便に帰ってもらってください。


「なんだ妖賊ようぞく!!!河伯かはくの巫女様に文句でもあるノカ!!!」


いや、喧嘩売らないでーーー?!!


「貴様らは太平道のありがたい符水ふすいが効かぬなどと世迷言を申しておると聞いた!!大賢良師様は真の救い主。道に従えば、どんな病人も立ちどころに回復するというのに何を言うか!!」

「そうだ!」「そうだ!!」「そうだ!!」


太平道の皆さんが大勢で集まって気勢を上げます。

あ、ちなみに大賢良師というのは太平道の教祖である張角チョウカクさんのことですね。


「うむ!!河伯の巫女などと世迷言を言って民を騙すとは悪逆非道なり!改心し我らが太平道に従うがよい!!」

「そうだ!」「そうだ!!」「そうだ!!」



「何を言うんだ!!僕の母はちゃんと良くなったぞ!!!」

あ、あの老母をつれてきた少年がくってかかりました。


「そうだそうだ、オラたちゃ実際に良くなったべや!」

「オメさんらの符水は効かなかっただよ!」

気が付けばこちらも貧民さんたちが集まって、次々に声をあげてくださいます。


「アキャーーー!!そんなことはありえん!」

「信心が足らん! 邪心じゃしんがあるのだ!! きちんと懺悔ざんげして祈れば治る!!!」


「うるせえ、えせ術士ども!」

「オラのかーちゃんを治してからでかい口を叩きやがれ!」


どんどん険悪な雰囲気になります。ああ、喧嘩しないでください。李傕さん……も言い争いに参加してる。


ダメだ、私が何とかしないと。


「巫女サマ!?」


前に出てお辞儀をします。


「あ、あの、なんか気に障ったなら謝りますので……」

「む、貴様が巫女か……?こやつらが正しい教えの悪口をいうのだぞ!」

「すみません、それは良くないです。みなさん、人の悪口はいけません」


しーん……


私がお願いすると皆しぶしぶ黙ってくださいました。なんていい人たちでしょう。


でも太平道側はさらに言いつのります。

「ふん!我らを見て恐れをなしたか。しょせんはニセ巫女。効かぬ薬を配って民を騙していたのであろう!」


イラッ。


それはあなた達では……?私だって別に医術とか詳しくないのにがんばって物資を集めて看病してるんですが???


「えっと、その、一つお尋ねします。太平道の符水で病が治るのは本当でしょうか?」

「もちろんである!」


「もし治らない人がいたら?」

「邪心があるのである!信仰が足りずきちんと懺悔しないからである!」


「……はぁー。本当に力があれば信仰とか関係なく治せますよね?それって治せなかった人を見捨ててるだけなんじゃないですか?」


私が心底残念そうに言った瞬間、空気が変わりました。


ピシッ……



「ムキャーーーッ!!!」

「「邪心!! 邪心!! 邪心!! 邪心!! 邪心!!」」

太平道の皆さんが怒り狂っています。


あ、ごめんなさい、つい本当のことを。

「「「 ぶ っ 殺 せ ぇ!!! 」」」


太平道の皆さんが襲い掛かってきました!!


「巫女様は逃ゲテッ!!」

はいっ!! ごめんなさぁい!!!



李傕さんが立ち向かいます。


「オラアアアア!!!」


背丈ほどもある長い棒を振り回すと、太平道の皆さんがあれよあれよとなぎ倒されます。


「こいつやるぞ、囲め!」

「貧弱ドモに俺が倒せるカァ!!」


李傕さんと部下の私兵たちと太平道の人たちで大乱闘になってしまいました。




「巫女さま、こっちですよ!」

私は李傕の奥さまたちに連れられ、なんとか逃げることができました……


乱闘は暴動に発展し……結局、董卓パパの正規兵が出動して鎮圧したそうです。


えっと、割と私のせいですね……ごめんなさい!



 - - - - -



御屋敷に戻った私は董卓トウタクパパに平謝りです。


「父上、この度は私のせいで大変なことに……」


うう、私が迂闊うかつなせいで大暴動を起こして、軍隊まで出動させるとか……

本当に申し訳なく……


「うむ、良くやったぞ小青青ちゃん

なぜか董卓パパがニコニコしています。


良くやったって何をですか。




そこに関西カンセイ訛りの声が飛び込んできました。


主公との!ただいま戻りましたで!!!太平道のやつらがついに武器を持ち出しました!!」

「でかした郭汜カクシ!!ようやくシッポを出したな!!」

董卓パパが膝を叩いて褒めます。


はい?


「本当に苦民を救うだけの教団なら、武器など隠し持ってるわけないですわ。それを暴動に武装に……こらもう真っ黒ですわ」

「まったくじゃ。では、さっそく上奏みかどにほうこくして討伐する!」




……んんー?


え、えっと、これって……


なんか手際が良かったのも。

李傕さんがガンガン喧嘩売りに行ってたのも……

私兵で周りを固めてたのも……ひょっとして。



「父上??……どこから父上のお考えで?」


「いや、すまんな小青青ちゃん。かねがね太平道が怪しいとはおもっておったので、郭汜を潜入させて調べさせてはおったのだ」

「でも、やつらなかなか警戒が厳しゅーて。謀反の証拠とかなかなか掴めなかったんですけど。すべてお嬢様のおかげですわ!」


うぐ……だったら教えてくれたら……教えてくれたら迂闊なこと言って策を壊してたかな?……ああもう!!何をやっても董卓パパの手の内じゃない!




「いやぁ、この牛輔ギュウホもそう思っていましたとも!これは相手を油断させる計略だったのです!」


なぜか部屋の端に立たされている牛義兄様が冷や汗流しながら口をはさんできました。


いや、義兄さんは違うよね??


 - - - - -



そんなわけで董卓パパは、帝都 洛陽ラクヨウに報告書を送り、太平道の討伐を進言し……


宦官かんがんどもめええええええっ?!!!」


皇帝陛下へのお手紙を宦官さんたちに握りつぶされました。



あうあう、魔王顔がでちゃってる……。

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