第9話 新興宗教

天 歳 黄 蒼

下 在 天 天

大 甲 當 已

吉 子 立 死



蒼天已死そうてんすでにしす    漢の世はすでに死んだ

黄天當立こうてんまさにたつべし  黄巾こうきんの世がやってくる

歳在甲子としはこうしにありて  ネズミ年こそがその時だ

天下大吉てんかだいきち    天下はおさまるだろう



ネズミ年っていつだっけ?!!


えっと、私、董青トウセイちゃんはウシ年生まれの11歳!!!


生まれから数えると、うし とら うさぎ たつ うま ひつじ さる とり いぬ 、で11年。


……今年はイノシシ!


だから、やったー。来年がネズミ年だね!!!




「三国志が始まっちゃうーー?!!」

べっどから跳ね起きた私を、心配そうな顔の董卓トウタクパパが見守ってくれています。ごつくて丸いお顔と豊かなお髭はまるで閻魔大王エンマだいおうのようですが、目は優し気で、心配そうに声をかけてくれました。


「……だ、大丈夫かい?小青青ちゃん……お茶でも飲むか?」

「あ、お茶、ありがとうございます。……でもお茶は高いでしょう?」

「もう淹れてしまったし、そんなことを子供が気にしてはいかん」


すみません。董卓パパに謝ってありがたくいただきます。


ちなみに周りの皆は湯冷ましか、漿おもゆあまざけなんかを普通は飲みます。お茶は私が小さなころにしつこく「何でお茶がないんですか?」と聞いて回ったせいで、わざわざ南方から買いもとめてくださったのです。


いや、他の飲み物甘いかお酒かタダの水なんでお茶は本当に美味しい……。



ふむ、三国志がそのまま始まるとなると、董卓パパが大魔王ルートに入ってしまって、私も皆殺しエンド一直線ですね。いや、董卓パパは優しいから大丈夫と信じたいですが、敵とみなしたら容赦ないってのをこの間見ちゃったので……。


そもそも黄巾の乱は大漢このくにが戦乱に突入する原因です。一番いいのは今のように平和なまま董卓一族が楽しく暮らして、マイエンジェル董白ちゃんが天下一の美少女に育つことでしょう。


よし、黄巾の乱を止めましょう!!!



私は董卓パパに向き合いました。


「お話が」




 - - - - -



黄巾の乱を起こす、黄巾党というのは本名を太平道タイヘイドウといって、怪しげな術を操って人を集めているそうです。


「で、その、太平道の人たちが反乱するので、このままでは大勢の人が死にます。何とか止めれませんか?」

「な、なんだと……?」


突然の告発に董卓パパも驚いているようです。




「……小青青ちゃんはどこでそれを?」

「えっ……、あーー、そのーー。あれです。お告げです」


なんか本で読んだ記憶が急に湧きましたなんて言えるわけもなく、もうお告げで押し通すしかないですね。



「なるほど、お告げか……ふむ」

いや、通るんかい。董卓パパはなんか真剣に考えこんでいるようです。



「たしかにあやつらはあやしげな術で人を集めたりと、気になっておったが……太平道は基本的には、人の病を治すなど、良いことをしていると言うておったぞ。牛輔ギュウホが」

「……なんでここで牛義兄様が?」

「あやつ、太平道に入信しとる」


おおう?!!


義兄上……またいきなり、なんてモノにハマって……!いや、確かに迷信深いなぁとは普段から思ってましたけど……董卓パパもどこに見どころがあってお姉さまを嫁がせたんですかね?


これでは黄巾の乱が始まる前にウチの一族が討伐されちゃいますよ?!


「いや、あまり良くはないんですよ?えっと、たしか太平道はおふだを燃やした灰を溶かした水を飲ませてるそうですが、あんなもので病気が治ると思われますか?」

「ないじゃろう、ああいうやからが、傷や病をやすなどありえん。戦場で試したからな・・・・・・・・・


董卓パパがニヤリとドヤ顔をなさいます。実にドスが効いていて怖いです。


「つまり、ウソですね!こうやって、信者を集めてあちこちで武装蜂起するのです。とっちめましょう」

小青青ちゃん……だから証拠がない。神のお告げで逮捕したら、父も妖賊ようぞくの同類ではないか」


「むむむ……証拠……はないですね。こういう落書きが東門の城壁にありました、これはきっと蜂起ほうきの合い言葉に違いありません」


蒼天已死……と書いて見せます。


「これは文言は不穏じゃが、太平道の連中が書いたという証拠がないではないか」

「あれ?そういえばそうですね??」


あー、またやらかしちゃいました?たしかにさっきからの私の発言って決めつけてばっかりで何の証拠もないんですよね。ひょっとして不思議ちゃんに見えちゃってます??


「ふむ……」


びくっ。


董卓パパが一声はさんで座りなおされました。こちらを振り向いて、これはまた怒られるんでしょうか……


「ところで小青青ちゃんや」

「は、はひ」


「太平道が病人をだましているとしたら、小青青ちゃんはどうすべきだと思うかね?」


え、お説教じゃないんですか?


「え、その、灰を溶かした水とか飲んだら病気が悪化しますから、ちゃんと看病してあげるべきではないでしょうか」


「よし、そうしよう。李傕リカク!!」

「はっ!李傕ココニ!」


董卓パパがパンッと一つ手を叩くと、ババッ!と李傕さんが駆け寄ってきました。

片膝を折り、右手を握って左手で包む揖礼ゆうれいと共に頭を下げます。


うわ! いたの李さん!?


「李傕の崇敬すうけいしておる神徳明らかなる河伯かはくの巫女が病人を癒すそうじゃ」

「え゛っ」




「良い話なので内密に支援するが、当家は表向き無関係であるぞ?」

尊命かしこまりましタ!!!!!」



董卓パパの命令に李傕さんが深々と頭を下げました。

なんか李さんの声もどことなく嬉しそうです。





いやいやいや。


待って待って待って。


私は医者じゃないぞーーーー!?

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