第4話 男装の美少年官吏

はい、私は謎の美少年官吏、董某トウなんとかくんになりました。


髪を後頭部に持ち上げて布で巻き上げ、司馬たいちょう李傕リカクさんに用意してもらったずぼんうわぎで男装。

頭巾を深めにかぶって変装は完璧です!


なんかお付きの女中めいどさんが嫌がってましたが、リーさんが持ってきたお土産を渡したら黙って手伝ってくれました。



この格好でお役所に堂々と潜入中の私、董卓パパの娘、董青トウセイが書類仕事を手伝ってあげましょう……

って……なんで郭司馬カクたいちょうまで居るんですか?


「なんでって、李のやつが文官仕事させたら意外とやるようだから、主公とのさんがワイも一度は文官せえって、塩官えんかんの仕事を」


まぁ、ご愁傷様です。でも董卓パパも期待してるんでしょう。部曲ぶかが脳みそ筋肉ばかりだとやっぱり辛いですし。


「そもそも李の功績って言うのは、お嬢様に手伝ってもらった分やないかい!オドレのせいやぞ!」

「主公のご指示に逆らうノカ?カクさんヨォ?」


長身でスラリとした郭汜カクシさんと低めでガッシリした李傕さんが睨みあいます。

だから喧嘩しないでぇ……はいはい、手伝ってあげますから。


「お嬢様おおきに!」

「お嬢様ありがとうゴザいマス!」


さぁ、足し算引き算レベルならいくらでもかかってきなさい!!



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李傕さんの均輸官きんゆかんのお仕事は割と単純で、李さんが市場を回って商人に差し出させた各商品の値段を報告書にまとめて、それを首都 洛陽ラクヨウ大司農府経産省に送ります。

そうすると首都から「あれ買えこれ売れ」と指示がありますので輸送隊を編成して送り出すのです。


それとは別に市場の相場を見ながら倉庫の在庫を売り買いもします。


もう一つ、郭汜さんの塩官はもっと簡単で塩の生産量と税金の入りをチェックして報告書にまとめて、これも首都 洛陽の大司農府に送り出すだけです。


ただ、これ、物資の売り買いもそうだけど、塩税が物凄い勢いで詰みあがっていきますね。


倉庫にどんどん入ってくる銅銭の束を見ます。なんというか一枚一枚数えきれないので、百銭、千銭の束で秤で重さを計ってチェックします。

集計するとこれが毎月、ン千万銭にもなります。だいたい1万銭が一家族の年間生活費なのでまさしく巨額の富ですね……


これは全部中央の収入になるので経費を抜いて全部都に送らないといけないんです。


しかし、なんでこんなに塩の税収があるんです?


河東郡カトウぐんには天下最大の塩湖、解池カイチがあるんですわ」

「日によっテ水ガ青くなったり赤クなったりスル。奇麗デス」


えーー、見たい!!!



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謎の美少年官吏、董某トウなんとかくんは、李傕さんと郭汜さんを従え、颯爽さっそう安邑アンユウ城外に出ました。


数十里数キロほど往きますと目の前にさっと大きな水の塊、解池が広がります。


一面の赤紫。


「うわぁ……キモチワルイ」

「大丈夫デスか??」


あ、いや、なんかあたり一面が赤紫色の海に見えて言いたくなっただけで別に大丈夫です。すごい。すごいなー。


すごいすごい。


なんか語彙が死んでますがすごいものを見たら人間すごいしかいえなくなるんですよすごい。


塩湖のほとりでは、湖の水を風にさらして塩を集めている人と、それを見張っている兵士がいます。


さて、仕事です。この人たちの拾い集めた塩をまとめて、税金を取って、帳簿につけるのです!




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なんかめっちゃ顔の赤い人が塩の税を払いに来ました。

酔っ払ってるんじゃないかと思うぐらいのなつめ色した顔に、立派なおひげのお兄さんです。


「あー、なんか関羽カンウっぽいひとですね」

「……関羽って誰ですんや?あいつはほれ、長生チョウセイってやつですぜ?」


そういう郭汜さんの示した帳簿にはきちんと安邑の長生、塩何石、納税いくらと書いてありました。


まー、そう簡単に有名人には会えないですよねー。



じゃあ、帳簿のチェックしましょうか。



あれ?ここ数字が合わない気がするぞ?

んーーーー?


えっと……あれ??



「李さん!郭さん!!!」

「ヘイ!」

「はいな!」


「あの人脱税してます!!!」


長生さんを捕まえてください!!!

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