配信は楽しい

「みんなー! さよならー! また二人の配信でねー!」


 そう言って配信ソフトを終了します。


 燐火ちゃんホッと一息つきます。今日は二人での配信の日でした。私は割と燐火ちゃんとの放送に参加しています。今日も良い感じに終わったことに感謝をします。


「やっぱり緊張するわね」


「そっかなー? 慣れだよ慣れ! もっとコラボ配信を増やそうか?」


「勘弁してください、今でも私は一杯一杯なんですよ……」


「それにしても凪ちゃんのプロポーズには驚いたなあ……あんなに情熱的に言ってくれるなんて」


「何がプロポーズですか! ただ単に配信に付き合ってあげるって言っただけでしょう!」


「でも私が配信できるのは凪ちゃんが友達の間だけなんだよ? つまりは一生の友達って事でしょ!」


 そこまで情熱的に言った気はしないのですが……何にせよ私たちの日常は戻ってきました。配信だって出来ますし、私も少しはネット炎上を控えるようになりました。平和です。


 あの後は大変でした。引っ越し業者のキャンセル、大家さんに契約の続行を申し入れて……まああの辺は燐火ちゃんの家族がよしなにしてくれたのですが……


「ねえ凪ちゃん?」


「なんですか?」


「なんで私のこと助けてくれたのかなって……」


「そうですね……スパチャが欲しいから……とか?」


「もう! 真面目に答えてよ!」


「そうですね……」


 私は頭脳を回転させて考えました。


「燐火ちゃんがいなくなっちゃうと私がぼっちに戻るからとか?」


 燐火ちゃんはため息をついて私に言いました。


「私はあなたにとってのオンリーワンじゃないのかな?」


「私の座右の銘は『大抵のことは替えがきく』ですからね」


「浅そうな名言だね」


 どう思われようと構いませんが私は燐火ちゃんを大事にしています。この気持ちを何と呼ぶのかは未だに決まっていません。ですがそれはきっと貴重な関係なのだと、それだけは理解できるのでした。


「明日の配信企画はどうする?」


 私がそう聞くのも当たり前になっていました。ともに歩いていくというのはそういうことなのでしょう。


「そうだなー……凪ちゃんが自分で作ってるゲームとかどう?」


「ちょ!? なんで私が作ってること知ってるんですか!?」


 私のPC内にしか存在していないはずなのに……


「まあそれは置いておいて、麻雀とかもありますよ?」


「そうですね、でもまあ私が参加して一週間記念と言うことですし……」


「?」


「あなたのチャンネルの新生一周年記念でどうです」


「いいですね!」


 そう話しながら私たちは窓の外の桜を見やっていました。


 この先も彼女と進んでいくのでしょう。私はそれを悪いことではないと思いましたし、彼女も同じ思いのようでした。私はイタズラっぽく笑ったのでした。


 そして、私に花のような笑顔を向けてくれる燐火ちゃんは私にとってかけがえのない人であり、彼女が私を捨てない限り、私は彼女についていこうと決心をしました。


「凪ちゃん? 良いことがあったの?」


「ええ、とってもいいことがありました」


「え!? 何々? 何があったの?」


「何もなかったんですよ」


「へ!?」


 燐火ちゃんはポカンとしています。


「結局の所、私たちは何もない普通の日常を目指していたんですよ、それが手に入ったので嬉しくなっただけです」


 燐火ちゃんも釣られて笑った。


「ハハハ……そうだね、結局私も凪ちゃんもまるで成長してないもんね!」


「案外、天国というものがあるのなら、それはきっと日常の中にあるのかもしれませんね」


 そう言って私は凪ちゃんに微笑んだ。彼女の真意は分からないでも私が信じることは出来る。今はただそれだけで十分でした。

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バーチャルネットバトラーもゆる! ~炎上女子とバーチャルアイドルのラブコメの行方~ スカイレイク @Clarkdale

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