凪、燐火とコンビを組む
『後ろから来てる! 迎撃お願い!』
『任せろ!』
私は前方の敵PCをスナイパーライフルで撃ち抜きます。後方の敵は味方が加勢したので迎撃をされて逃げていきました。シールドを削る程度のことは出来たでしょうから、この調子なら私たちの勝ちでしょう。
私は珍しく仲間を作り、炎上もせずにゲームをプレイしていました。
『後ろは撃退! 前はどうだ?』
『チョロいもんですぜ』
パスッと敵の頭にライフル弾が流れるように吸いこまれていき、一撃でダウンした。
『私たちの勝ちですね!』
『やった!』
とまあそんな感じで炎上することなく敵チームを打ち倒し、私たちのチームがトップと表示された。
試合後のチャットにて
「余裕でしたね」
「相手が退くことなかったですもんね」
「ニュービー狩りは捗りますね」
そう、私たちはあえてランクを上げず新人を買っているグループなのです。
「そういや最近は新人のレベルも上がってきたなあ……」
「まあ当分はチョロいっしょ」
そんなわけで本日は解散となった。新人狩りは楽しい、人がどれだけ言いつくろっても強い力でザコを駆逐していくのは気持ちが良いのです。上級者は負けるから嫌いです。
ふぁ…………
夜の大半をゲームに費やしたので眠いのですが、登校しないわけにもいかず、眠い目をこすりつつ通学の準備をしました。あ……課題一個やってねーですね。ま、指名される日でもないですし問題無いですか。
ふぁああ……
朝食を食べて登校を始めます。あくびをしながら登校していると後ろから声がかかりました。
「凪ちゃん! おはよう!」
「おはようございます……」
「あれ? なんだか眠そうですね?」
「実際眠いんですよ……昨日から延々『クラフトバトル』やってたんでね」
燐火ちゃんは呆れたように言います。
「徹夜は肌に悪いよ?」
「勝ったときの気持ちよさとは引き換えられませんね」
私がどうしようもないゲーム廃人な発言をしたあたりで彼女はいいました。
「じゃあ私もそのゲームをやってみようかな?」
「アレ結構スペックを使いますよ?」
私のスペックマシマシのマシンでも最高スペックでは動かせません。この手のゲームを作っている人たちにいいたいのですが、基準をその当時の最新グラボに設定するのはやめてくれませんかね……貧乏人に人権は無いのでしょうか?
「配信用のアレじゃダメかな?」
「ああ、アレなら余裕だと思いますよ? 確か動画をハードウェアエンコードしてましたよね? それが出来るほどのスペックがあるなら余裕でしょう」
「じゃあアレで……」
「配信用のPCにアレもコレも入れるのは感心しませんよ? ゲーム本体だけで五十GB以上ありますからね」
「ああ、アレはそのくらいありましたね」
「プレイしたことがあるんですか……」
「前にだけどねー……対戦配信したんだけど、私って弱くってさ、足を引っ張ったからやめたんだよね」
「そうですか、向き不向きがありますからね」
「でさあ……あのゲーム二人一組のモードあったよね? その……チームを組んでくれないかなあ?」
私は逡巡してから、これも一つのニュービー狩りかと思って答えました。
「構いませんよ?」
「やった! それじゃ放課後にね!」
「ああ、そうそう、一つお願いが……」
彼女が怪訝な顔をしている。
「私の代わりにノートをとっておいてください」
そうして学校に着いたわけですが、私はその頃の記憶はスッパリ途切れています。徹夜明けに数学と英語は脳にカロリーが届きませんでした。血糖値が下がったせいか意識がぼんやりとしていました。
「……ちゃん、……凪ちゃん!」
「ふぇ……ああ燐火ちゃん」
「ああ、じゃないよ! ずっと寝てたんだよ! ノートとってた私の身にもなってよ」
「それはごめんなさい、どうにも眠くて……ふぁ」
私はぼんやりした頭のまま、彼女に引かれて配信部屋へ着きました。
「じゃあ私は配信用のPCでやるから、凪ちゃんはそのゲーミングノートでやってね?」
「はい……うぇ……」
ものすごいハイスペックのゲーミングノートでした。これ、値段を見たことがあるのですが○○万円したと思うのですが、平気で買ってしまったのでしょうか?
彼女の金銭感覚が恐ろしくなります。実は実家が太いの方が理解できてまあボンボンなんだなーと納得できますよ?
ノートについているマウスを操作してログインします。ゲームは既にインストール済みでした。どうやら以前プレイしたときのデータが残っていたのでしょう。
「凪ちゃん? ログインは出来た? フレンド登録するからアカウントを教えてね」
「垢は******ですよ」
「オッケー、リクエストを送ったから承認してくれる?」
「はいはい、承認しましたよ」
画面には燐火ちゃんのキャラが表示されている。ランクこそ低いがアバターはゴテゴテ装飾されている。きっと課金の成果なのだろう。課金でランクが上がらないのが辛いところだ。
「じゃあ『コンビ』で対戦しますね」
「はいよ、チーム申請承認しました」
「じゃあ勝負といこうかな」
上空を飛ぶ船から飛び降りる。燐火ちゃんももちろん同時だ。降下可能時点で即飛び降りたためアイテムのある地点までやや遠い、しかし先手を取れるメリットもある。
「凪ちゃん、あっちの建物に武器があるよ!」
「じゃあ始めはそこに行きましょうか」
そこで武器を漁っているとサブマシンガンやアサルトライフルの他に……
「良いものゲット!」
「スナイパーライフル?」
「そうですよ! これが私の獲物です!」
私はスナイパーライフルを装備して高所を目指して走った。
「じゃあ私はここからスナイプするので、凪ちゃんは近寄ってきた敵を叩いてください」
「わかったよ!」
パスン……パスン……
敵が私のショットで次々と倒れていきます。芋砂? 言わせておけばいいんです、勝てない方が悪いのですから。
そんなことをしていると近くでパパパとサブマシンガンの発射音が聞こえました。
目をつけられましたか……
「凪ちゃん、迎撃しながら逃げますよ!」
そう言ったときにはもう手遅れでした。
バタリと倒れており蘇生しようにも敵チームが死体の周囲を監視していました。
私は不利を承知で、近距離でスナイパーライフルを使いましたが、そこは武器の差であえなく負けてしまいました。
「ごめんねー……凪ちゃん」
「まあいいですよ、こんな日もあります」
私はそう言って部屋を後にしました。そういえば配信にすることも出来たはずなのに燐火ちゃんはそうしませんでしたね。ただ単に遊びたかっただけなのでしょうか?
――
「いやほっっっっっっっほおおおおおううううう!! 凪ちゃんのアカウントゲット! やったね!」
私はPCに映る凪ちゃんのアカウント情報を見ながらニヤニヤしていたのでした。
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