シスイとミナハのゲーム配信
私はその日、金欠でこれといってやることもなかったので授業が終わるなり帰宅をしようとさっさと荷物をまとめていました。
「あれ? 凪ちゃん、もう帰っちゃうの?」
燐火ちゃんがそう話しかけてきます。万年金欠の私と違って彼女は遊びに行ける程度のお金は持っています。
「そうですよ、どうにも先立つものが無いものでして……」
何故かその言葉を聞いて燐火ちゃんは考え込んでいます。なんだか邪なことを考えているような気がするので私はさっさと帰宅するため鞄を持ちました。
がしっ
その手を彼女がぐっと掴んで私に言いました。
「今日さあ、配信するんだけど、付き合ってくれない?」
「えー……私は表に出たくはないんですけど……」
「まあまあ、結構スパチャって美味しいでしょ?」
「それはまあ……」
痛いところを突いてきますね、確かに彼女の配信に参加したときの分け前は美味しかったです。あの金額が突然転がり込んでくると思うとついつい顔がにやけてしまいます。
「参加してくれるよね?」
「……はい」
こうして私は彼女の配信に参加することになりました。
配信部屋に向かう途中で質問します。
「何の企画をやるんですか?」
雑談配信ばかりというわけにもいかないでしょう、そもそも私にそんなトーク力はありません。燐火ちゃんは少し考えてから言いました。
「ゲーム配信ですよ」
「ほうほう、ゲーム配信ですか……私は強いですよ?」
「じゃあ決まりね! じゃあ私と……そうですね、レースゲームで勝負をしましょう!」
「お、良いですけど私は結構強いですよ?」
一人モードで延々と遊んでいた過去の積み重ねがありますからね。
「いいね、じゃあアルティメット・カート・レースで勝負しようね!」
「アレですか……私に勝負を挑むなど無謀ですよ?」
「さあ、それはどうかな?」
そんなことを話しながら配信部屋に着きました。企画の内容は『アルカ、5連勝するまで続けます!』という内容に決まりました。
「じゃあ配信の準備をしてっと……よし! 凪ちゃんはそっちのカメラの前に座ってね」
「はいよ」
彼女はキャプチャーボードを経由してテレビにケーブルを繋ぎ、PCにミラーリングをします。
「じゃあ始めるよ!」
こうして私たちの配信が始まりました。
シスイ:こんにちはー! シスイだよー! 今日はミナハちゃんが来てくれたから企画始めるよー!
『神コラボ』
『てぇてぇ』
早速スパチャが飛んでいました。私はいつも罵詈雑言を浴びているためこういった好意の言葉はなんだかむず痒くなります。
シスイ:今日の企画は『アルカ』5連勝するまで耐久配信だよ!
ミナハ:頑張ります
『シスイちゃんこのゲームクッソ強くなかったっけ?』
『ミナハちゃんも強いのかもよ?』
『自分のホームで戦うシスイちゃん策士ですわ』
「あなた、結構得意なんですね?」
「ははは……私は得意なゲームが少ないからね、すぐに勝負が終わったらつまらないでしょ?」
「それもそうですね、強い人と勝負するのは楽しいですからね」
「じゃあグランプリで良いね?」
「問題無いです!」
シスイ:じゃあグランプリモードで対戦始めるよー!
『期待』
『ミナハちゃんもがんばえー』
『シスイちゃん、一人でゲーム配信あんまりやらないから助かる』
そしてしばらく対戦をして……
ミナハ:赤ボムぶち込みますよ!
シスイ:あああ!! そこで赤はやめてー!!!!
『結構良い勝負になってて草』
『ミナハちゃん意外と強いんやね』
シスイ:バリア! バリア来た!
ミナハ:運が良いですね、ここで引きますか……
シスイ:言ったでしょう? 私は強いんですよ
そんなこんなで勝ったり負けたりを繰り返し、連勝はなかなか出来ませんでした。しかし勝負には終わりが来るもので……
ミナハ:ふぅ……やっと四連勝です、後一試合、頑張りますよ!
シスイ:まだまだ分かりませんよ!
『がんばえー』
『つよい(確信)』
シスイ:よっし! スタートダッシュ成功!
ミナハ:甘いですよ! ここでミサイル!
ドーンとシスイのカートに直撃して最下位まで落ちていきます。
シスイ:そんな……ひどい……
ミナハ:勝負の世界に卑怯も何もないんですよ! さあここでブーストが手に入りました! これで決まりです!
私が最終ラップをゴールしようとしたところで彼女が全体ボムを引きました。
シスイ:これでリセットです!
ミナハ:くっ……今それを引きますか……
ミナハ:ごーるっ!
シスイ:甘いよ!
ボムが爆発して全カートがクラッシュします。そこでゴール寸前だった私のカートは……前方に吹っ飛んでいきクラッシュしたままゴールラインを超えました。
ミナハ:ギリギリでしたが勝ちですね!
シスイ:あーあ、このゲームなら負けないって思ってたんだけどなあ……
『シスイちゃん負けるんか……』
『良い勝負だった』
『これアーカイブされるよね、また見たいんだけど』
シスイ:アーカイブには残るからまた見てねー! それじゃ今日はさよならー!
配信ソフトを終了して燐火ちゃんはため息をつきます。
「負けちゃったかあ……」
「私のぼっち経歴を甘く見ましたね、ソロで延々と練習した過去を知らないからこうなるんです!」
「それは自慢することなのかな?」
「スパチャ、結構来てましたね」
「凪ちゃんが協力してくれるといつもより多めにつくんだよね」
「じゃあ私はこれで、そろそろ外も暗くなってますからね」
私は今日の報酬をもらって部屋を出ました。あたりはもうすっかり暗くなっていて、彼女の家庭について思いを馳せずには居られないのでした。
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