それぞれの深夜アニメの楽しみ方

「いい感じに作画が微妙になってきてますね」


 私は深夜、自室のテレビをつけて深夜アニメを鑑賞していました。このアニメは作画が怪しいと言うことで有名になっている作品です。となればもちろん……


もゆる:いやー今週も作画崩壊だったなあ


『お? やんやん(´・ω・`)』


『そこも含めてのアニメだろうが』


『締め切り厳しかったらしいししゃーないやろ』


 私はキャプを使いません、著作権警察がシュバって来ますからね。


もゆる:しかし主人公とヒロインが愛の告白をするシーンでアレなのはヤバいな


『言って良いことと悪いことがあるぞ! 大体信者がどんな気持ちで見てんのか分かってんのかよ!』


 いい感じに炎上してきたのでアカウントを削除しました。つぶやいたーの利点ですね。しかししばらくアカウント作成は控えましょう。どうせ偽物がいい感じに暴れていますしね、連中にターゲットが向かえば儲けものです。


 一通り終わりエンドロールが切れたところでスマホが震えました。


燐火:凪ちゃん、『魔法少女ぷるん』って見てる?


 こんな時間に送信して返事を期待しているのでしょうか? 何事も無かったかのように明日の朝に返信しても良かったのですが、なんとなく返信をしてしまいました。


凪:見ていますよ


 既読がついてしばらく返信が無かったのですが、少し待っていると長文が返ってきました。


燐火:見てるんだ! 今日の主人公とヒロインのキスシーンは感動的だったよね! 戦闘場面も迫力があってさ(以下略


 アレですかね? 私と彼女が見ているのは名前が同じだけの別アニメなのでしょうか?私の琴線にはこれっぽっちも触れるところが無かったのですが、彼女にとっては違ったようです。


 私には作画が崩れて顔と顔が融合しているようにしか見えなかったのですが、彼女にはきっと素晴らしい恋模様が見えていたのでしょう。それを邪魔することはないですね。


凪:そうだね、感動的だったね


 そう返して私はルータを再起動させました。


 翌日、眠い目をこすりながら学校に向かっていると燐火ちゃんが話しかけてきました。


「おはよっ! 凪ちゃん!」


「ああ、おはようございます」


「元気ないね?」


 むしろあなたが元気いっぱいなことの方がおかしいような気がするのですがどうなのでしょう。


「まああの時間帯まで起きてましたからね……あなたは元気そうですね?」


 彼女はニコニコしながら顔色一つ変えずに言います。


「あの後配信もやったからね! リスナーさんからの応援で元気が出たよ!」


「更に配信までやったんですか……」


 燐火ちゃんのバイタル値の高さに驚きながら学校へと向かったのでした。


 うとうとしながら授業を一通り受けて昼休みになりました。私は気力も尽きて自分の席で机に突っ伏して寝ていました。隣の席では燐火ちゃんが陽キャ達と話し合っているのが聞こえます。


 陰キャ的にはここで席を譲ってどこか一人になれる場所でジメジメ過ごすべきなのでしょうが、今の私にはその元気すらもありませんでした。


 ツンツン……ポンポン


「ふぁ……? ああ、燐火ちゃんですか、何か用でしたか?」


 ツイっと時計を指さします。午後の授業開始三分前でした。


「ありがとうございます、眠いですね……」


「がんばって!」


 そうして重いまぶたをなんとか持ち上げながら午後の授業を終えました。


「凪ちゃん、眠そうだね?」


「眠いです、深夜アニメはやっぱり配信で見るべきでしたね……」


「ちょっと家で寝ていく? 配信の休憩用にベッドは用意してあるよ」


「そうですね、ちょっと厄介になりましょうか」


「じゃあ行こっか!」


 ぼんやりした頭のまま引かれるままに配信部屋まで連れて行かれたのでした。


 そこからしばらく記憶が途切れます。


「うーん……あ、燐火ちゃん、私は……?」


「少し配信部屋で休んでもらってたんだよ、結構遅かったしさ、起こそうかとも思ったんだけど気持ちよさそうに寝てたからさ……」


「あ! ああ、ごめんなさい! 思いっきり寝てました!」


「あはは、いいよいいよ、それはともかくそろそろ帰った方がいいかもね」


 サラッとカーテンを開けます。太陽が沈みかけている光景が見えました。


「こんな時間でしたか……ありがとうございます」


「うん、別に構わないよ。深夜アニメみてる人って少なくってさ、ついつい昨日もメッセージ送っちゃった」


 私は帰宅の用意をしながら言います。


「深夜アニメは配信か録画で見るべきですね、今回のことでよく分かりました」


 彼女は頷きます。


「じゃあ私も感想を聞くのは朝にするよ」


 別に早朝からみるわけではないですが……私は曖昧に頷いておきました。


 そうして帰途につきました。私はスマホを出して時間を確認します。


『六十分後にやり直してください』


 ん? おかしいですね?


 基本このメッセージは複数回パスコードを間違えないと出ないはずですが……ポケットの中で画面に触れたのでしょうか?


 時間を知るのには不自由しなかったので私は帰宅してから夕食を食べて、その時に随分遅くなったことを聞かれましたが、友達の家に居ましたと言っておけばそれ以上追求はありませんでした。


 そしてお風呂に入る前に時間が経過してパスコードを受け付けるようになったスマホにパスコードを入力して解除しました。


 その日は明日に備えて早めに寝る事にしたのでした。


 一方その頃配信部屋で。


「はぁ……パスコードは無理でしたか……」


 顔認証では目を開けないと認証されないようになっていたのでロック解除は出来ませんでした。数回パスコードの解除にもチャレンジしたのですが、あの子の個人情報をいれてみましたが、さすがにそこまでセキュリティが雑ではないらしく、全部通りませんでした。


 結局、スマホがロックアウトされるギリギリまでチャレンジしましたが、当たりは見つかりませんでした


 上手くいかないものですねえ……せっかくのチャンスだったのに……


 私は自分のくじ運の無さを恨みます。こんな時くらい運が良くても罰は当たらないと思うんですがねえ……


 もっとも、凪ちゃんがパスコードを六桁にしていたのは想定外でした。たいていの人が四桁で済ませてますからね、一万分の一くらいの確率で当たるとは思ったのですが、そう上手くはいかないようです。


 まあいいでしょう、チャンスはまだいくらでもあります。私は凪ちゃんのことを諦めませんよ!


 私はそう決意してからさっきまであの子が眠っていたベッドにダイブして、本能の赴くままに惰眠を貪ったのでした。

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