プレゼントと全地球測位システム
「なーぎちゃん!」
登校途中に陽気に声をかけられました。陰キャの私にそんな声をかけてくるのは一人しかいません。
「なんですか、燐火ちゃん」
「相変わらず塩対応だね……」
「あいにく私は常時こんな感じでしてね」
ふーんと興味の無さそうな彼女を眺めていると、何故私に関わろうとするのかよく分かりません。まあ縁という物もあるのでしょうか。
「そんな凪ちゃんにプレゼントだよ!」
「へっ!?」
「なあに? そんなに驚いて」
キョトンとしていますがそりゃあそうでしょう。
「だって私誕生日でもなんでもないですし……何故にプレゼント?」
しかし彼女は不思議そうに言います。
「何かないとプレゼントしちゃダメなの?」
「ダメって事はないですけど……」
理由のない事って怖くないですか? 私だけなのでしょうか? それとも陽キャはプレゼントの文化でも持っているのでしょうか?
「私のプレゼント……要らないかな?」
「いえ、ありがとうございます。いただきます」
「うん!」
ものすごく良い笑顔で私に小箱を押しつけて去って行きます。はて? 私が開けるところを見る必要はないと言うことでしょうか?
私は学校に着くとお昼休みをじっと待ちました。お昼休みならあの箱を開けるくらいの時間はあるでしょう。しかし解せませんね、理由も無いのにプレゼントをくれるなんて。
いえ、人の好意を無駄にしてはいけません。わざわざラッピングまでしてくれたのですからちゃんと開けないと誠実ではないでしょう。
そうしてまあ特に学ぶこともない授業をこなしてお昼休みになりました。燐火ちゃんが話しかけてくるかとも思いましたがそれは無かったのでいつものぼっち飯専用スペースに行きます。階段の一番下の影になっている場所、落ち着きますね。
私はラッピングをピリピリと破らないように剥がしていきました。無地の段ボールの小箱が包まれていて、中身はキーホルダーでした。無難ですね。少し大きいような気もしますがこのくらいなら使えるでしょう。
円形にカットされた分厚い黒いレザーのキーホルダーです。私は自宅の鍵をそれに取り付けました。うん、持つべき者は友達ですね!
教室に帰るといきなり燐火ちゃんが話しかけてきました。
「凪ちゃん! プレゼントは開けてくれたかな?」
「ええ、しっかりと」
そう言って鍵束を見せました。家の鍵のついでにPCのロック解除に使うトークンもまとめてつけておきました。
「うん、ありがとう」
そう言って自分の席に帰ってスマホを操作しています。別に構わないのですが、いつものグループと遊んだりはしないのでしょうか?
じっと真剣にスマホを操作しているのを見て、まあ何か大事な連絡でも入ったのでしょうと思いました。私は私で自席に戻ってスマホゲームのログボを回収することにお昼休みを費やしたのでした。
そして何事もなく帰宅をして自分の部屋で学校の鞄を投げたところで声がかかりました。
「凪、ちょっと醤油を買ってきてくれない? 切らしちゃってるみたいなの、コンビニでいいわ」
母さんのそんな声がかかりました。別に断る理由も無いですし代金をもらって近所のコンビニに向かいました。そこで私は思いがけない出会いをしました。
「あ、凪ちゃん! 奇遇だね!」
「ああ、あなたですか」
そこにいたのは燐火ちゃんでした。珍しいこともあるものです。
「どうかしたんですか? あなたはこちらに家があるんでしたっけ?」
実のところ、未だに彼女の自宅を見せてもらったことはありません。ただ配信部屋に招かれたことがあるだけです。
「ちょっと買いたいものがここにしかなくってね」
そう言って彼女はコンビニのクジを数回引いていました。近くのコンビニでは売り切れていたのでしょうか? 最近は買い占めとかもあるので十分にあり得ることです。動画のネタにするなら必要でしょうし大変なことですね。
私はお醤油の小瓶をもってレジで会計をしました。そこで燐火ちゃんが話しかけてきました。
「これから暇かな? ちょっと遊びに行きたいんだけど……」
「ごめんなさい、これを家に持って帰らないといけないから」
「そっか……」
残念そうに彼女はクジをそこでやめて私と一緒にコンビニを出ました。
「欲しいものは当たった?」
私は大きな袋を持っている彼女に訊きました。さすがにこれだけひいたなら当たっていてもいいのではないでしょうか。
「え!?」
「ん?」
「あ、ああ! クジね! うん、欲しかったのが当たったよ! 良かったよー!」
「そうですか、それは何より」
私は彼女が欲しかった物を手に入れたそうなので良かったと思いながら家に帰りました。
彼女はまたスマホを見ながら歩いています。危ないとは思うのですがこの辺は住宅街なので車の心配も無いでしょう。
そうして帰宅してその日は明日の休みに希望を抱きながらのんびりと寝ることが出来ました。
翌日――
「ふぁあ……眠い……」
気怠いですが引きこもるのもアレですね。スーパーにでも行ってエナドリを買い込んできましょうか……
私はパーカーを部屋着の上から着ただらしない格好でスーパーへと向かいました。ドリンクコーナーでめぼしいエナドリを選んでいたところで声がかかりました。
「あれ? 凪ちゃん?」
「へ? ああ、あなたですか」
そこには燐火ちゃんが立っていました。なんだか遭遇率が高いような気もするのですが、彼女の生活圏を知らないのでたまたま私と被っているのかもしれません。
人のプライバシーには細かく追求しないのが信念なのでそれについては考えず彼女と話をしました。
「へーエナドリにそんなに種類があるんだー……」
「あなたも耐久配信をするならいくつか買っておいても良いかもしれませんね」
「ふーん、凪ちゃんは何にするの?」
「私はコレですかね」
黒い缶に緑色の爪痕がデザインされたものを見せます。高いのでたくさんは買えませんが数本あれば休みの間くらいは十分でしょう。
「じゃあ私も一本買っておこうかな」
そう言って私と同じ品を手に取りました。意外とそういったものを常用はしていないんですね。
そして会計を済ませてスーパーから出ました。私は燐火ちゃんに別れの挨拶をして自宅に帰っていったのですが振り返ると彼女はスマホを操作していました。陽キャはスマホに縛られているというのは本当なのでしょうかね?
そんなことを考えながら私は自宅へ帰りました。
――燐火サイド
「ふへへ……凪ちゃんと
私はいくらでもその偶然を再現することが出来るのです。そう、あのキーホルダーに仕込んだGPSがあればね……
ふふふ……私は知将ですね、テクノロジー方面にも彼女の影響で強くなれましたし、こうして追跡を見ているだけでも楽しいです。
私は深く笑いながらその場を離れたのでした。
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