燐火、スマホ選びに悩む
「うーん……」
何やら隣で燐火ちゃんが悩んでいるようです。私としては全く関係ないのでつよく生きてくださいとしか言えませんね。
まあ……悩みの原因は大体予想がつくのですが……
「凪ちゃん……」
私は目をそらしますがそちらに向けて回り込んできます。意地でも私に話を聞かせる気のようですね……
「なんですか? 言っておきますけど、私はあなたが今手に持っている文鎮についてアドバイスする気はないですよ」
そう、彼女の手には画面がバキバキに割れたスマートフォンがあります。関わると絶対面倒なやつなので逃げの一手です。
「そんなこと言わないでよぅ……これでインストとかやってるんだから無いと困るの!」
「だってそのスマホの話でしょう! 高い買い物に付き合う気は無いんですよ!」
そこで燐火ちゃんは何故か首をかしげます。
「高い……? このスマホって十万円くらいですよ?」
「え……? まさかその金額が安いと……?」
「うーん、配信の調子がいいときは一回でそのくらいスパチャが飛んでくるよ?」
「えぇ……」
明らかに高校生の金銭感覚からぶっ飛んでいる話を聞いてドン引きしました。うそでしょ、十万ですよ? 私なんて一万円から大金になるんですがね……
「でさ、凪ちゃんにお勧めの機種を教えて欲しくってさ」
「お金があるならテキトーにパンツで買えばいいじゃないですか……」
「なんで唐突な下ネタ!?」
知らない人でしたか……
「大手海外通販サイトのことですよ、Exopansysってところです。お金があるなら迷うことも無いでしょうに……」
「でも……海外通販って怖いし……」
パンツはかなり信用できるサイトなんですがね……酷いのになると平気で発送しないとかありますし……
「じゃあキャリアで買ったらいいじゃないですか、技適も問題無いですし最新型が手に入るでしょう?」
「ぎてき?」
「配信やっているなら覚えておいた方がいいと思いますけどね、日本で認可が下りていない電波通信器機を使うのは一応違法なんですよ、まあ実際逮捕されたなんて聞きませんけどね。配信で流したらそういうところを細かくつついてくる連中っているんですよ」
ないしょの話ですが私も割とそういうのを気にする方です。まあ一々通報するほどクッソ暇な人間でも無いので放置しますがね。
「じゃあ詳しいんでしょう! 教えてくださいよー!」
私に抱きつく燐火ちゃん、胸がグイグイ押し当てられてその大きさにイラッとしました。
「暑苦しいですね……Amozonあたりでスマートフォンカテゴリから適当なの選べばいいじゃないですか、大抵技適は通ってますし、そこそこのスペックのやつが買えますよ」
「じゃあ凪ちゃん、一緒にお買い物配信しよう?」
「えー……」
露骨に嫌な顔をする私に彼女は不満そうでした。なんで私があなたにそこまでやる必要があるんですか……あと私が決めるには高すぎる買い物なんですよ。
「おそろいのスマホを使いたいなって思うんだけど……ダメかな?」
「私は買いませんよ?」
「私が買ってあげるんだよ! おそろいのやつを使いたいんだって!」
おそろい……つまりハイスペックスマホを選べば私にも同じものを買ってくれるのでしょうか? 大変魅力的な提案です。
「分かりました! 任せておいてください!」
私は大変欲望に忠実なのです。目の前にお金が落ちていたら拾わずにはいられない、そんな即物的な人間なのでそれを断ることは出来ませんでした。
「では放課後、私の配信部屋に行きましょうね!」
「急すぎませんか!?」
「ふっ……私はいつでも凪ちゃんと配信ができるように準備を整えてるんですよ!」
えっ……普通に怖いんですけど……
「ま、まあいいですけど……生配信ではないんですよね?」
「まあ枠の確保とかも要りますからね……さすがに生ではないです」
こうして放課後に私たちは配信部屋に集まることになりました。
シスイ:みんなーおはよー! 今日はスマホを買っちゃうよー!
ミナハ:こんちは、何故か付き合うことになったミナハです
シスイ:テンション低くないかな? 後付き合うことになったって誤解を生まない?
ミナハ:私はそういう系ではないですよ? 分かってると思いますがね
シスイ:はーい、それじゃあAmozonを開いてショッピング始めまーす!
ミナハ:始めます……
シスイ:えっと……どこを見れば出るんだっけ?
ミナハ:決めてないなら家電とカメラのサブカテゴリに入ってますよ
配信に移っているPC画面を操作して器用に個人情報が映らないよう公式サイトを開いて移動していきます。
シスイ:おー……こんなにスマホが売ってるんだ
ミナハ:ここから好きなのを選べば後悔しないと思いますよ?
シスイ:それじゃ配信が終わっちゃうでしょ! ほら、お勧めとかってないの?
ミナハ:安いのがいいなら中国か台湾製の二択だと思いますがね
シスイ:公式サービスが使えなくなったあそこのスマホとかも売ってるんだね!
ミナハ:配信の規約に引っかかりそうな発言は控えてくださいよ
シスイ:カメラ性能がいいのはどこかな?
ミナハ:カメラだったら大人しく林檎を選んどけばいいような気がするんですがね……
私も欲しいですし……
シスイ:もう持ってるからねえ……次はドロイドがいいんだよね……
ミナハ:そうですね……一眼のクソデカセンサーを積んだレンズメーカーコラボとかもありますけどどうです?
問題は私があまり興味がないことです。
燐火ちゃんは少し迷ってから答えました。
シスイ:あれかぁ……自撮りに向いてないんだよねえ……
どうやら陽キャはインカメラを使うらしいです。私など顔認証以外にインカメラの使い道がないのでフロントカメラさえ良ければいいのではという考えではいけないようです。
ミナハ:じゃあ無難にPixelの廉価版でどうです? 当分使えますし、ハード面はともかくソフト面は強いですよ?
シスイ:やっぱりその辺になるのかなあ……ダメだったら次買えばいいか
ミナハ:ブルジョアの考え方ですね……
シスイ:じゃあ緑を注文しておこうかな、ミナハちゃんも同じのでいいよね?
ミナハ:ええ、全く問題ありません
シスイ:じゃあ公式で買えばいいよね、ポチッと
決済画面が出て決済を即すませる燐火ちゃん、彼女の金銭感覚は分かりませんね……
シスイ:じゃあミナハちゃんの家にも届くから受け取っておいてね?
ミナハ:私家のこと話しましたっけ? 住所なんて細かくは……
シスイ:言ったよ?
ミナハ:え……?
シスイ:やだなあ、しっかり教えてくれたじゃない!
その勢いに押されて私はそのまま配信から脱出しました。教えましたかね……?
「配信終わりましたか?」
「うん、録画もマイクも切ってるよ」
「私がもらっちゃっていいんですかね? アレ結構高いでしょう?」
「そう思うんだったら、今晩の配信を見てくれると良いかな」
「え?」
私はそのまま部屋から出て帰宅しました。その晩、彼女の配信を見ていると、平気で赤スパが飛び交い、なるほど元が取れるはずだと気がついたのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます