ニンニクヤサイアブラマシマシ
その日は朝食を寝坊で食べ損ねていました。朝ご飯はちゃんと食べないとどうも力が出ませんね……
それでも何とか学校まではやってきました。机に突っ伏していると隣の燐火ちゃんが話しかけてきます。
「大丈夫? 体調が悪いの?」
血糖値が下がってしまいぼんやりとした意識で答えます。
「大丈夫です、ちょっと朝食を抜いてきただけなので」
「朝ご飯を食べないと眠くなるよ?」
「今、絶賛睡魔に襲われてますよ」
燐火ちゃんはなおも私に話しかけてきます。
「凪ちゃん、お腹空いてるんだったら放課後一緒に食べに行かない? 私の奢りで」
悩ましいところですが私はついつい奢りという部分に惹かれてしまいました。
「そうですね、たまには外食もいいですよね」
凪ちゃんはニカッと笑って言いました
「じゃあ放課後にいこうね!」
「はい」
どこにと聞かなかっただけで私がそこまで苦労する原因になるとは思ってもいませんでした。
キーンコーン
終業のチャイムが鳴ります、私の所へ燐火ちゃんが走り寄ってきました。
「善は急げっていうし早速行こう!」
「分かりました」
私は鞄に荷物を詰め込み燐火ちゃんの後を歩いていきました。てっきり商店街あたりで食べるのかと思っていましたが、彼女は駅の方へと向かっていきます。確かに飲食店はありますがあまり高校生向けのものはなかったような気がするのですが……
「ここだよ!」
そこは所謂次郎系リスペクトと呼ばれるラーメン屋でした。確かに安いです、安いのですが……
「ここ大丈夫なんですか? 結構な量が出てくるって聞きますけど」
「だいじょーぶだいじょーぶ、そんなのただの噂だって! 早いところお店に入ろうよ、ここ行列が出来ると長いからさ」
そうグイグイと押し込まれ、店内で食券を買って差し出します。何か注文の仕方があったような気がするのですが思い出せません。
「ニンニクヤサイアブラマシマシで」
よく分からないので彼女と同じ注文を私もしておきましょう。
「私もニンニクヤサイアブラマシマシで」
店主が頷き調理が始まる。そこで燐火ちゃんが話しかけてきました。
「凪ちゃん、大丈夫? 結構な量があるよ?」
「まあお腹も空いてるので大丈夫じゃないですかね……」
それからすぐにドンと置かれたのはもやしの山でした、しかもニンニク臭い……
隣を見ると燐火ちゃんはそのもやしの山をパクパクと食べています。私も注文した手前残すわけにもいかないでしょう。
もやしを一束箸で掴んで口に放り込みます。途端にニンニクの濃厚な香りが鼻へ抜けてきました。
隣の彼女はもうすでにもやしが普通の具材となる程度には食べています。ものすごいスピードでした。
私はそれから必死になってもやしとその他小さな野菜を食べました。ようやく上に乗っているものを食べきったところで下から麺が出てきました。
ラーメンなので当然と言えば当然なのですが、量が多い……普通のラーメンなら大盛りくらいの量がありました。
隣を見るともうすでに麺に到達し結構な量が減っていました。彼女の胃袋はワタシのものより大きいようです……
ちゅうるるっと麺をすすっていきますが減った気がしません、隣はもうすでにラストに近い状態なので燐火ちゃんが食べ終わってしまえば私は一人でこのラーメンと向き合う必要があります。
「じゃあ凪ちゃん、私は食べ終わったから表で待っとくねー」
そんな呑気な言葉を残し空になったどんぶりを返却して出て行きました。なんと麺だけでなくスープも完飲していました。大変腎臓に悪そうなスープなのですが彼女の腎臓が心配になりますね。
その後もしばらくかけて、なんとか麺を食べきりました。私、頑張りました……
さすがにスープまで飲むのはあまりにもキツいのでスープは残したまま食器を返却して店を出ました。
「遅かったね……」
「そりゃああんな量が出てくるって先に行っておいてくれないからですよ」
「はは……ごめんごめん、この店に一緒に来られる友達っていなくってさあ、凪ちゃんなら付き合ってくれるんじゃないかなーって思ってさ」
「信頼が厚いのは嬉しいですが、事前の情報開示は大事ですよ?」
さすがにばつが悪そうにしているようですね。
「ははは……ごめんね、一緒に来てくれたからつい、ね……凪ちゃんが私と同じ注文したときも止めようかと思ったんだけどね……出来れば同じものが食べたいなって」
私は呆れて言いました。
「別に奢りの食事くらいいくらでも付き合いますよ、でも常識的なお店にしてくださいね?」
「ゴメンってば。はい、コレも奢りね」
そういって彼女は私に一つのやや小ぶりなペットボトルを渡してきました。
「烏龍茶?」
「そうそう、ここで食べた後はコレ飲んで脂肪と糖の吸収を抑えるんだよ?」
明らかに烏龍茶一本で抑えきれるような量ではないと思うのですが、まあ奢りというなら頂いておきましょう。
ゴクリと飲むと口の中の脂っぽさがいくらかやわらいだような気がしました。
ここは人類には早すぎたラーメン屋ですね……
「美味しかったよね?」
この子は本気で美味しいと思っているのか私の方を見て目を輝かせてそう問いかけてきます。
「量が普通だったら食べられる店ですね」
私はそこまで譲歩したのでした。
そして帰り道を歩きながら気になっていたことを聞きます。
「なんで私を誘ったんですか? 陽キャにも一人くらい次郎系に理解のある人くらいいないんですか?」
「凪ちゃんはあの量を食べて平気な顔をしている人を見てどう思うかな?」
「やべーやつとしか思いませんよ」
「だからそれでも付き合ってくれる凪ちゃんを誘ったんだよ」
何やらクラスカースト上位にもいろいろ面倒事があるようですね。私には関係ないですが。
私は烏龍茶をあおりました、脂のせいで胃もたれをしそうな気分でした。
帰り道では燐火ちゃんがあの店にハマった理由と美味しさの秘訣を教えてくれましたが、その時ふと気がついたことがありました。
「割とよく行ってるみたいですけど体重とか大丈夫なんですか?」
あの尋常ではない量の脂と野菜と麺をよく食べているなら体重が増えそうなものですが……
「うーん……私も体重は増えたんだよ? でも見た目が変わらないからいいかなって」
そこでふと彼女の胸に目が行きました。どうやら脂肪は一カ所に固まっているようですね……
分かれ道で燐火ちゃんと別れ、自宅への道を歩いていると、自分がかなりニンニク臭いことに気がつきました。
「帰宅後速歯磨きとシャワーですね……」
私は無料の食べ物だから量や栄養が少ないという偏見は捨て去ることにしたのでした。
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