欲望ダダ漏れシスイちゃん
凪:燐火ちゃん、明日の英語の課題って何だったっけ?
そうメッセージを何気なく送信したのですが、珍しく返信が返ってくるのに時間がかかっていました。
燐火:参考書の邦訳だよ
そう端的に返ってきました。うーん……珍しいですね。そこでふと気がついてPCでブラウザを開いてシスイの配信ページを見てみると絶賛配信中でした。
「やっちゃったなあ……」
申し訳ないことをしました。配信中でしたか。
私はスマホをそっと消して、配信を見ることにしました。
シスイ:ごめんねー! 友達からのLIMEだったよ
『友達も可愛いと思う』
『そりゃ可愛いだろ』
私の何を知っているというのでしょう? 私はネット上ではニートの男設定にされることがほとんどなんですよ。
そんなことは置いておいて配信を眺めていると変な方向に話が曲がっていきました。
『実は彼氏の可能性』
『ワイガチ勢、お前は絶対に許さん』
『あり得ないから安心しろ』
『弟は使い古された感あるしな、友達設定の可能性はある』
ネット上の有象無象は小さな疑惑からどんどんと結論を歪めていきます。徐々に議論はヒートアップしていきました。
『シスイちゃんが恋愛してるとかガチ恋勢への宣戦布告か?』
『やんやん(´・ω・`)』
『今日の炎上会場はここですか?』
収拾のつかないようになってきたその場を納めるために燐火ちゃんはとんでもないことを言い残して配信を切りました。
シスイ:今度この友達と一緒に配信するからね! 大丈夫だよ!
『ぶもおおおお』
『コラボ? コラボなの?』
話はそれ一色になり配信が切られてもしばらくチャットが流れていました。そして私のスマホが震えました。
燐火:ごめんね! 配信見ててくれたんだよね? お願い!
凪:ものすごく気が進まないんですけど……
燐火:まあまあ、VRモデルもあるから! 顔出ししなくていいから! ね! お願い!
凪:なんでたった今私に参加を頼んでるのに、VRモデルがもう作ってあるんですかねぇ……
燐火:明日の配信で出て欲しいんだけどダメかな?
凪:また急な話ですね……台本も何もないんですか? というか生配信の必要あります?
燐火:この手のことは初期消火が大事だからね、炎上の元は早めに摘んだ方がいいんだよ
燐火ちゃんも炎上は怖いらしく、私を出して早めの鎮火を狙っているようです。しかし……
凪:であれば私である必要すらないのでは? 適当に雇った人に話を合わせて貰えればいいんじゃないですか?
その場限りならそれでも鎮火には十分でしょう。私が出る必要性がないような気がします。
燐火:まあ……知り合いに配信やってるって知ってる人居ないし……知らない人だともう一回見せてって言われたときに困るでしょ……それに、一緒に配信したいし……
凪:分かりましたよ……一回だけですからね?
燐火:はい!
凪:配信内容は何をするんですか?
燐火:フリートークかな、準備が要らないし今からだと何かやるには間に合わないから
まあそうなりますね、構想を練っている内に尾ひれがついて炎上が進むのは良くないですからね。
凪:私が準備しておくものとかあります?
燐火:私の配信部屋に全部置いてあるから大丈夫だよ!
なぜ私が配信に必要な物が今思いついた配信案なのに全部揃っているのかは聞かないことにしましょうか……怖いですね。
燐火:じゃあ明日この前の部屋に来てね? 場所は覚えてるよね?
凪:あなたに事細かにされた説明のログがちゃんと残っていますよ……
燐火:じゃあまた明日!
凪:はい、また明日
そうして私はそれから配信が終わるまでネットに触れないことにしたのでした。尻尾を掴まれると困りますからね、それが声出しの配信なら絶対にバレてはなりません。
私はもゆる垢の偽物がちゃんと複数いることを確認してから私の所持するアカウントを削除しました。
さて、明日は大事ですねえ……
翌日、学校で退屈な授業を受けた後、帰途について自宅から念のためボイチェン等を用意して凪ちゃんの部屋に向かいました。
ピンポーン
ドアチャイムを鳴らすと即ドアが開きました。待っていたのでしょうか? それにしても勢いが早い気がするのですが……
「来てくれてありがと! 早速配信環境の調整をしようね!」
勢いに押されて部屋に入ります。カメラとマイク、配信用のPCが用意してありました。
「カメラで撮ってGBにVRモデルを映す感じですか?」
「よく分かったね、配信やったことあるの?」
「無いですけどね」
そうしてキャリブレーションのためにカメラの前に座らされて黒髪ロングのモデルが表示されました。胸は三割増しといったところでしょうか、あざといデザインでした。
「凪ちゃんに迷惑はかけないからね、ちょっとフリートークに出てくれるだけでいいから!」
「分かってますよ。私もトーク力に自信は無いので長時間は無理ですよ」
そして配信が始まった。
シスイ:こんにちはー! みんなー! 今日は私の友達に来てもらったよ!
私はそこでカンペを出します。
『私、アバター名聞いてないんですけど?』
サラサラとボールペンを走らせて私の名前を伝えてきます。
「こんにちは、ええっと……ミナハです」
『マジモンの友達やんけ!?』
『朗報、朗報、朗報』
『ガチ恋勢、救済へ』
そんな嵐のようなコメントが流れていき私は気圧されてしまいます。
シスイ:ミナハちゃん、ごめんね、今日は無理して出てもらってさ
ミナハ:急でしたが構いませんよ、モデルを超速で作成したのには驚きましたが……
嘘です、この子は絶対に以前から用意しているはずです。しかしそこをつつくともっと面倒なことになりそうなので誤魔化しました。
『えっ……昨日の今日でモデル作ったん? 早すぎやろ』
『まあどこかのプリセットの流用かと思ったけどクオリティすごいな』
『シスイちゃんからすればそのくらい余裕なんだろ』
ミナハ:シスイちゃん、昨日は変なタイミングでメッセージ送ってごめんね
シスイ:構いませんよ! 友達ですから!
ミナハ:じゃあ私はこの辺でお暇するね!
シスイ:リスナーのみんな! 素敵な友達でしょう?
『安心した、ガチ恋勢ではないけど』
『信者が凶暴化するかと思ったが鎮火だな』
『昨日配信を頼んで今日やってくれる友達ってすごいな』
『アンチはさっさと解散しろよ』
こうして私は配信を終えて、本編のシスイのゲーム配信を生で眺めるのでした。楽しそうですね。
その日の配信が終わり、燐火ちゃんにお疲れ様と言っておきます。
「ありがとねー、助かったよ」
「いえいえ、私も原因ですからね」
「ははは、気にしてないよ」
「じゃあ私は帰りますね」
「あの……凪ちゃん……良かったらまた今度配信に付き合ってくれないかなあ……」
私は少し考えてから答えました。
「できたらしますよ」
「それはやらないパターンじゃないのかなあ……」
「じゃあいやだって言った方が良かったですか?」
「うん、しょうがないね! また気が向いたらお願いね!」
そして部屋を出ると太陽はやや傾いていました。
一人帰りながら、燐火ちゃんもちゃんとプロ意識を持っていることに尊敬の念すら覚えました。
そして帰宅後、映ってはいけないものが映っていないかアーカイブを確認して、私が完璧なコミュ障ムーブをしていたことを理解したのでした。
つぶやいたり書き込んだりもしようかと思いましたが、私の偽アカウントが好き放題かき込んでいるのを確認して、わざわざ渦中に飛び込むことも無いと思いました。
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