覇権アニメをめぐる争い
「ひゃっっっっっっほういいいいい!!」
私は今、スマホを片手にアニメを見ています、昨今のアニメ事情からもちろん深夜アニメです。最近はゴールデンタイムにアニメを放映しなくなって寂しいですねえ……
そんなことはさておき、現在見ている『ラブリーシスター茜ちゃん』をスマホで実況しています。大変にエモい出来で、文句なしの今期の覇権確定でしょう。私は抑えきれなくなった感情をスマホを通じてネットに吐き出します。匿名掲示板は民度が低いのでつぶやいたーの方を使います。
もゆる:ラブシス最高ですね! これは今季の覇権確定でしょ!
『はぁ? あれ作画崩壊してるじゃん』
『クソアニメ愛好家やね』
『中割だけ作画がおかしいとかならともかくアレは全部ヤバい』
『名誉クソアニメ収集家のもゆるなら当然見てるやろと思った』
『アレを褒めてるあたりが非常に本物のアカウントっぽいな』
などなどの酷評の嵐でした、こんな事が許されていいのでしょうか? そりゃあ原作に比べて多少削られた要素もありますし大胆なキャラデザの変更もありましたがストーリーはちゃんと成立していますし一クールに収めるための山場だって用意されています。
もゆる:は!? あの感動のシーンを前にしてその反応をするとか赤い血が流れてないんじゃないですか?
『感動(笑)』
『原作のカットでアレ入れても意味わからんやろ』
『心理描写カットしすぎで唐突感しか無い』
ボロクソでした。くそぅ、一体何が悪いのでしょう……漫画をアニメにする時にちょっとだけ尺の都合でいくつかのシーンをカットしただけじゃないですか。
私はその日、延々とクソリプを飛ばしてくる連中とバトルを繰り広げたのでした。
チュンチュン
「ん……眩しい……」
!?
目が覚めて辺りを見回すとすっかり朝になってしまっていました。昨日のレスバは私が折れなかったので皆さん逃げていったのですが、私が素晴らしさを延々と語っていたのですっかり時間の考えがなくなっていました。
時計を見ると登校二十分前を指しています。
キッチンに行き朝ご飯をかき込んでから鞄を持って登校することになりました、ギリギリいつも通りの時間に出たのでそれほど急ぐ必要はありませんでした。しかし……
「ふぁあああ…………」
眠いです。争いは何も生まないということを身をもって理解しました。私の体は昨日のレスバで悲鳴を上げています。しかし登校はしなくちゃならないのでぼんやりした頭を叩きながら学校へと向かいました。
「……ちゃん」
なんでしょう……呼ばれているような……?
「凪ちゃん!」
「ひゃうっ!?」
後ろを振り返ると燐火ちゃんが立っていました。
「ああ、あなたですか」
「どうしたの? なんだかすごく疲れてるみたいだけど」
「まあ……ちょっとばかり言い争いになりましてね」
ちなみにアカウントは意識が朦朧とする中で削除してIPアドレスの変更も家を出る前にやっておきました。
「何があったか知らないけどあんまり無茶しない方がいいよ?」
「肝に銘じておきます」
ええ、そうですとも。アニメの出来で大喧嘩を繰り広げるなど不毛なこともないでしょう、ネットでどんな言い争いをしたところでキャラデザや作画が変わるわけではないのですから。
キーンコーン
「あ、予鈴だ! 急ぐよ凪ちゃん!」
「はいはい……」
私は朦朧とする意識にむち打ちながら何とか始業前に駆け込むことが出来たのでした。
遅刻こそは避けられたのですが……
「ふぁ……」
授業のほとんどで意識が朦朧としていました。ほぼ徹夜だったので突っ伏して寝なかっただけ褒めて欲しいくらいに頑張りました。
放課後になって燐火ちゃんが話しかけてきます。
「凪ちゃん、昨日はよっぽどだったみたいだね……ノート見る?」
「お願いします」
私のノートはほぼ白紙でした。授業中先生の声は右から左へすり抜けていき記憶には一切残っていませんでした。
「じゃあこれね、明日返してくれればいいからね」
「ありがとうございます」
そう言って私はノート一式を受け取りました。持つべき者は友情ですね。
「じゃあ一緒に帰ろっか?」
「そうですね」
帰宅をしながら燐火ちゃんと他愛のない話をします、その中で私が今日一日眠かった原因になったアニメについて話します。
「へー……それそんなに面白いんだ」
「滅茶苦茶エモいのでお勧めですよ」
「私も見てみよっかな」
などと話ながら私たちは別れたのでした。
帰宅後、ノートを書き写しながら数式やイディオムを頭にたたき込んでおきます。大抵の事は自習でなんとかなりますが、学校をおろそかにもできませんからね。
そうして本日の授業一通りのノートを書き写したのですが、不思議なことに表紙に教科名の書かれていないノートが一冊残っていました。はて? 今日の授業分はもう全部やったはずですが……
その一冊を何気なく取り出し開いてみました。
『凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん凪ちゃん』
そのノートには私の名前がびっしりと書かれていました。私は背筋に寒い物を感じてそっとノートを閉じて何も見なかったことにして記憶から抹消することにしました。少なくとも五寸釘を打たれたりしたわけでもないので気にすることはないでしょう。
深く考えると正気度が下がりそうな内容からは必死に目をそらすことに決めて全てのノートをそっと袋に入れて鞄に放り込んでおきました。
PCを開いて配信一覧を見ると『シスイの定期配信』というのがありました。どこかゾッとする物を感じましたがそれを忘れることにして開いてみました。
シスイ:おハロー! 今日はアニメを見てました『ラブリーシスター茜ちゃん』って言うんですけどね、これがめっちゃエモくて最高だったんですよ
『どんな物も貶さない配信者の鑑』
『そうかな……? そうかも……』
『質アニメだったよな』
なんでしょうこの私の周囲にいる面子との民度の差は……
同じアニメを褒めているとは思えないような内容でした。私はその配信を眺めながら世の中の理不尽さに文句の一つも言いたくなるのでした。
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