友達は課金がしたい
私の数少ないアカウントリセットをしていないアプリであるソシャゲをプレイしていました。対戦要素が無いのでのんびりできるんですよね。ちなみに『プププ、こんなのもクリアできないんですか』と煽ってブロックされた経験はあります、もちろんアカウントを即転生させて事なきを得ました。
いえ、事なきを得てはいないのですが、ゲームのアカウントはバレていないのでセーフでしょう。
いつものように学校に行く前にルータの再起動をしてスマホの方は飛行機を飛ばします。これで今日からまた新しい自分になれます。
気怠いことですが学校には行かないわけに行きませんからね。
適当にシャツを着替えて登校することにしました。玄関を開けると明るい日差しが私を刺します。陰キャには辛い日光ですね……
「よし! 今日も頑張りますよ!」
自己暗示をかけてから家を出ました。やっぱりアカウントをリセットするとスッキリしますね、しがらみを断ち切るというのは気分のいいものです。
そんな楽しげな気分で投稿していると、しがらみの塊みたいな友達が私に話しかけてきました。
「おはよう! 凪ちゃん!」
「おはようございます」
もちろん燐火ちゃんです、彼女以外に私に話しかけてくる友達なんていませんから。
そんな悲しい話は置いておきましょう。
「凪ちゃん、相変わらず私につぶやいたーのアカウント教えてくれないの? 最近探してるんだけどさ、見つからないんだよね……」
「えぇ……」
エゴサは自由だと思います、自分について調べるくらいは問題が無いでしょう。しかし私についてそこまで丹念に調べようとされるとドン引きです。
しかし、何故私にそこまでこだわるのやら、陽キャならカースト上位グループとつるめばいいでしょうに。
「何か分かりましたか?」
「うーん……」
少しの間燐火ちゃんが考え込みます。
「多分私の放送のリスナーやってるとは思うんだけどね、そこから先が分からないんだ。スパチャを投げてくれてれば一発で分かるんだけどなあ……」
私は心底スパチャを投げていないことに安心しました。この子の執念は恐ろしいものがありますね。
「まあ、大体当たってるしいいんじゃない? 私が見てるってだけで満足してくれない?」
「私の配信見ててくれたんだね!」
「まあ見てましたけど……なんでそんなに喜ぶんですか?」
「だって皆Vの配信なんて興味ある人少ないんだもん! そういうのに理解のある凪ちゃんは好きだよ?」
「そりゃ確かに上位の人たちがVの配信を熱心に見ているなんて想像できませんからね」
陽キャ達がスマホで熱心に配信を見ている図は想像できない。グループになってまとめて見るにしてもそれが肯定的な意見を言ってくれるとは思えない。
「凪ちゃんはPC持ってるからじっくり見るでしょ?」
「確かにスマホで数時間の配信を見るのはしんどいですね」
画面のサイズの他にも、バッテリーを充電しながら見ないと無理があるくらいの長時間配信もしているので視聴環境はどうしてもTVに外付けしたデバイスで見るか、スマートテレビのアプリを使うかになる。
私は転生させたアカウントを見たい意識を必死に抑えた。ここで見ようとすれば必死に燐火ちゃんが覗こうとすることは確実ですからね。自己顕示欲は抑えなければなりません。大抵ロクな結果をもたらさないものです。
「凪ちゃん、スマホ見せ「だめです」」
私は全て聞く前にお断りしました。普通に個人情報の塊を見せるとかいやなんですけど……
私はスマホをちょっと貸してといわれるのすらいやなタイプなので当然の選択ですが、燐火ちゃんの方はどうやら納得いっていないようですね。
「けち……」
「普通に嫌でしょ、下着姿を見せろって言うようなものですよ!?」
ケチと言われる覚えはありません。ブラウザの閲覧履歴すらも見られるのは絶対に嫌です。例え友人であっても個人情報を去らす気にはなるはずが無いでしょう。
「じゃあ今日も私は配信するんだけどせめてそれを見るくらいはして欲しいな」
「まあそのくらいでしたら……スパチャはしませんよ?」
「いいよ、全然いい! 私そんなことにはこだわらないもん!」
「ちなみに配信予定は?」
「今晩八時、ゲームのガチャ実況です!」
「随分と確率に挑戦する気があるんですね……」
操作していることがバレて大炎上したゲームもありますがそんなことにはならないように祈っておきましょう。
「じゃあ今日は目一杯頑張るからね! 最後まで見てね!」
「はいはい、見ますよ。明日は休みですしね」
こうして私は学校について退屈な授業を受けて帰宅したのでした。燐火ちゃんが帰りも絡んでくるかなと思ったのですが、彼女は帰宅途中ずっと歩きスマホをしていました。画面がバキバキになるんじゃ無いかと心配でしたが、えらく熱心だったので私は一人で帰りました。
お風呂に入って疲れを流し、食事をしてからが私の本番です。私はディスプレイの電源をつけて、スマホを卓上充電スタンドに置きます。ノートPCとデスクトップPCを操作できるように準備を完璧にしておきます。
デスクトップで一つの窓に燐火ちゃんのmeTubeの配信を開きます、念のためブラウザにプロキシを刺してから配信を見ることにしました。
自己顕示欲は毒にしかなりません。なので当然シスイの配信に私はコメントをつけません。どこから個人情報の欠片が飛ぶか分かりませんからね。私はちゃんと閲覧専用のアカウントを使用するくらいの用心はしておきます。
「おはこんばんわー!!! みんなのシスイだよ! 今日の配信は力入れていくよー!」
テンション高く配信が始まりました。早速スパチャが飛んでいる当たりあの子の人気がよく分かります。
『少ないけどお布施』
『ないすぱ』
『支援』
『シスイちゃんへのお小遣い』
などなどのコメントが飛んでいく当たり私のアカウントとは全く違うものですね。
「じゃあ今日はガチャで星5が出るまで回します企画始めるよー!」
正気でしょうか? 聞いたところだと今表示されている背景のゲームは星5の確率が一パーセントで現金と石のレートもやけに渋いことで有名なゲームなのですが……
「じゃあ初回十連いくよ!」
パーン
派手な音と共に十連が回ります。しかし排出に確定演出はありませんでした。
「もう十連!」
シャリーン
流れるような課金で石を溶かしていきます私が恐ろしくなるほどの量の石をつぎ込んでいます。社会人ならともかく高校生にはキツい金額です。
「もう一回!」
「あと一回」
「次で……次でラストだから……」
『シスイちゃん大丈夫?』
『ガチャ代補填のスパチャ』
『ないすぱ……といいたいところだがこの子がもっと引きそうだからやめとけ』
『追い課金』
スパチャとそろそろやめ炉の声が増えていき、とうに無料石を使い切り魔法のカードに手を出し始めました。時々画面が暗転してアカウントにチャージしているようです。
「ラスト……お願い出て!」
『運営には血も涙も無いのか』
『出したげてよぅ!』
地獄のような環境が広がりつつ課金後の三十連目でそれは出ました。
チャチャチャーン!!
『お、確定か?』
『流れ来たな』
『そろそろ出るやろ』
シャキーン
「よし! 出ました! さすが私です! みんなースパチャありがとねー!」
『乙』
『今日の配信はキツかった』
『これで高校生か……よもまつだな』
『仮想高校生だぞ』
そんなチャットが流れながらその日の配信は終了したのでした。
凪:おつかれ
燐火:出たよー……出ないかと思ったよぅ……
凪:まあ、うん……つよく生きてね
燐火:わたし、頑張った
凪:お疲れ様
最後のメッセージに既読はつかなかったのでどうやら寝落ちしたようでした。何しろ深夜という時間を過ぎて早朝という時間帯になっていますからね。
わたしはもうメッセージが届かないのを確認してからベッドに飛び込みました。
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