友達とMOBAをする
私はいつも通りアカウントを削除してIPアドレスを更新するためにルータの再起動中にスマホをチェックします。そんなとき目立つところにPRが出ていました。
『モンスターバトルオンライン』
そう紹介をされています。新規ローンチですか……とりあえずインストールしてみましょうか。
私はインストールボタンを押してから認証をすすめました。あっという間にダウンロードは終わったので起動させてみます。そこでアカウントの作成画面が出てきました。
捨てアドを使用してニックネームを『もゆる』にして勧めようとしたところ『既に使用されています』と表示されました。やはり偽物は仕事が早いですね。
とはいえ私がわざわざ炎上している名前を使用する必要も無いでしょう。スマホのアカウントで認証を通って『なぎなぎ』で登録をしました。幸いこちらはまだ未使用で登録することが可能でした。
私はバトルを始めました。基本的な操作は一般的なMOBAと変わらないようですね。的の拠点を全て破壊すれば勝利、なるほどわかりやすくていいですね。
じゃあフリーランクで始めましょうか……ランク関係なくマッチするフリーランクで私はそのゲームを始めました。幸いなことにコミュニケーションはボイスチャットは無く、定型文を選択して流すシステムであり、さすがの私もお行儀のいいこと場のセットしかないので炎上のしようがないでしょう。
そしてしばらく後……
「ふぁ……眠いですね……寝ましょうか……」
ジリリリ
ふぇ!?
私は唐突になった目覚ましアラームに驚きました。どうやら徹夜をしてしまったようです。睡眠不足ですが学校を休むわけにも行かないので私は支度を始めました。忙しい毎日ですが燐火ちゃんと出会って以来ほんの少しモノクロに毎日に色が差したことを否定は出来ません。
鞄にまとめて必要な物を突っ込んで家を出ます。なんだか今日の夕食について聞かれたような気がしたのですが、私には両親の小言を聞くほどの体力も精神力も残っていませんでした。
ただただ義務感にかられて小走りに学校へ向かっていくと生徒達が結構見えてきました。どうやらこの調子なら歩いても遅刻はないでしょう。
私はぼんやりとしながら歩いていきます。どこか現実感のない奇妙な感覚を覚えながらも学校に向かっていると……気がついたら保健室でした。
「え……!?」
「良かった!!!!!! よかったーーーーーーー!!!」
ギュッと抱きしめられます。よく見ると燐火ちゃんでした。
「ええっと……私は一体……?」
「倒れたんだよ! 校庭で私が声をかけたら振り向きながら倒れたんだよ! ほんとにビックリしたんだからね!!」
「じゃあ運んでくれたの……?」
燐火ちゃんにそこまでの力があるのでしょうか?
「運んだよ! すっごい心配したんだよ!」
「ごめんなさい……ありがとね」
「うん、うん……」
何故燐火ちゃんの方が涙目なのでしょう。私はといえば申し訳ないくらい体調が良くなっていました。
キーンコーン
「あれ? 今何時です?」
「お昼過ぎだよ、今のがお昼休みの合図だよ」
ああ……どうやらやってしまったらしいですね。
「あら、起きたのね。この子ったら心配は要らないっていってるのに絶対には慣れなかったのよ」
「先生!」
保健の先生に食ってかかる燐火ちゃん。私の知らないところで随分と心配をかけてしまったようです。
「ごめんね」
私のつぶやきに燐火ちゃんは笑顔を向けてきました。
「そこは『ありがとう』だよ!」
そんなやりとりをした後、体調に問題の無いことを軽くチェックされてお昼休みとなりました。そんなとき出かける前に母が言っていた言葉が思い出されてきました。
「あ、お弁当無いんだった……」
あの時出かける前にかけられた言葉は『今日はお弁当作ってないわゴメン』でした。今更思い出してしまってもどうしようも無いですね。学食にでも行ってカレーでも食べるか、購買でパンでも買えばいいでしょう。
ベッドから出て用の済んだ保健室を後にしようと思うと燐火ちゃんが声をかけてきました。
「あ、凪ちゃん、ご飯一緒に食べないかな? その……気になるし」
ああ、私の体調が気になるんですか。そりゃまあ気にもなりますよね、自分が話しかけた直後に倒れてるんですから。
「お弁当が今日はなくってね、学食で良ければ一緒にどう? さすがに今日は奢るよ?」
「いいの? 凪ちゃんいつもお金無さそうだけど……」
ともすれば失礼にも聞こえるけれど、実際お金を燐火ちゃんに頼ったことがあるのでそう思われるのもしょうがないですね。
「たまにはいいでしょ? 私だって貧乏にあえいでるわけじゃないのよ」
燐火ちゃんは少し考えた末に頷いた。
「じゃあ今日はごちそうになろうかな」
「よし、じゃあ行きますか!」
「うん!」
そうしてランチタイムまっただ中の学食へと向かったのですが、普段お弁当で済ませて学食にも購買にも行っていなかった私たちは圧倒されました。
「人……多いね……」
「多いですね……」
私たちは向き合ってどうしたものかと思いながら列に並んでなんとかカレーにありつくことができました。メニューはそんなに多くないので無難なところを選ぶことになっていました。
席について二人で話をしながら食事となりました。
「ねえ凪ちゃん、なんで今日は体調が悪かったの?」
言いづらいところをつついてきますね、それを非難することは私の立場からすれば反論のしようがないところではあります。
「実はですね……」
私はモンスターバトルオンラインで延々とマッチを繰り返して気がついたら徹夜だったことを話しました。私は情報の透明性は重きを置いているのです。
「はぁ……本気で心配したんですよ?」
「ごめんなさい」
謝罪せざるを得ない私の理由に呆れ気味な燐火ちゃんでした。
「ところで……そのゲーム面白かったの?」
「ええ、とっても」
「ふむ……これですか?」
燐火ちゃんの差し出したスマホにはアプリストアの画面にそのアプリが表示されていました。
「ええ、それですよ。ついついやっちゃったんですよねえ……一試合が長いんですよ……」
「へー私もやってみようかな」
「時間を食い潰すアプリなのでそこはお気を付けて」
私はそう一言言って食事を続けました。
「ごちそうさま!」
愉快そうに燐火ちゃんがそう言います。
「美味しいですね。たまにはカレーもいいですね」
学校でお弁当としてカレーを持ってくるのはあまりにも難易度が高いのでどうしても食べたければ学食一択になります。さすがは学食だけあってしっかりした料理になっていました。
「じゃあ燐火ちゃん! お昼の授業は普通に出るんですよね?」
「あー……そですね、気は進みませんが勉強から逃げると後が大変ですからね」
「そっか、じゃあ私も午後は休まなくて良いね!」
「え……まさか午前一杯丸々私の側に居たのですか?」
「そうだよ! 当然でしょう?」
「あ、はい」
思わず真顔になってしまいました。実は燐火ちゃんも午前中はいやな授業があったとかでしょうか? なんにしてもすっかり目も覚めてしまったので授業は受けないといけませんね。
そんなことを話しているとお昼休みもかなりの部分を過ぎていました。
「じゃあ教室に行こっか!」
「そうですね」
私達は食器を返却口に入れて教室へと帰りました。午後の退屈な授業をこなした後で帰宅となったわけですが……
「ダウンロード終わらないですねえ……」
燐火ちゃんはスマホとにらめっこをしていました。そういえば今朝はアプデでメンテが入ってゲームを終えたんでした。大型だったので結構なファイルサイズになったはずです。
「あの……燐火ちゃん……ゲームは程々にね?」
「分かってるって!」
このやりとりをして帰宅した後燐火ちゃんからのチーム戦の誘いが来ました。予想はしていました、IDを出したまま見せましたからね。フレンド登録には十分な情報でした。
しかしあの一瞬でIDを全て正確に覚えられる燐火ちゃんの記憶力の良さには舌を巻くばかりでした。
その日、シスイアカウントをウォッチしていたのですがゲーム実況を突然始めていました。分かりやすいですねホント。
私はその配信を流しながら寝たわけですが起きた時テレビに流れている配信を見て驚きました。
「まだやってる……」
ポカンとしながら私はメッセンジャーで燐火ちゃんに『大丈夫?』と送ったところ『ヤバい』と返ってきました。そして配信をそこで打ち切り私たちは学校で顔をあわせることになったのですが燐火ちゃんはげっそりと体力が尽きた様子で必死に授業を受けているのでした。
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