私の友達は優しすぎて辛い
シスイ:おはよう! 今日も配信に来てくれてありがとう! 一生懸命皆のために歌うね!
私は生暖かい目線をスマホに向けながらクソリプと死闘を繰り広げています。彼女が何をしようと構わないのですが、それは私に影響のない範囲での話です。彼女ならぽろっと漏らしそうな儚げな危うさを持っています。
『シスイちゃんすこ』
『この子の声を聞くとやる気が出るな』
今日も大変好評のようです。羨ましい限りですね。
それはともかく私の方はいつも通りに炎上していました。匿名掲示板でコテハンする方が楽なのがよく分かります。何しろあっちはIPアドレスさえ変えれば別人になれますからね。
しかしこのネットの深淵に燐火ちゃんを巻き込むわけにはいかないので私は孤独な戦いを続けています。
M:最近もしもしでここ使ってる人多いですね
『もしもしって……おじいちゃん、スマホはインフラになってから言うことか?』
『もしもし煽りってかなり昔だろ、令和にもなってスマホ以外で見てる奴の方が少ないぞ』
『諦めろ、もうPCで見てる方が少数派だぞ』
『この自称女子学生は何歳だよ? もしもしとか知ってる歳なのかよ……』
『結構な数の専ブラがあるのに今更その煽りはちょっと……』
くっ……多数派が憎い……
私はスマホから自演をしようかと少し考えます。一応Wi-Fiを切断してモバイルデータ通信を使用すればIDを変えることは可能です。しかしそれをやったところでここの住人のヘイトを買うだけではないでしょうか?
ぷつっ
私はPCをシャットダウンしてスマホとタブレットを出します。彼女の配信でも見ましょうか。運がよければ炎上しない発言のコツなどが分かるかもしれません。
シスイ:おはこんばんわー!! みんな元気ー?
『この配信のためだけに生きてる』
『シスイちゃんマジ天使』
『きっと中の人も可愛いんだろうな』
私は中の人を知ってますがね……そんなマウントを撮るほど私は野蛮ではないですからね。
『声だけで美少女だと分かる』
『↑お? ガチ恋勢か?』
『シスイちゃんは概念だから、ワンチャンもないぞ』
『↑俺が概念だ!』
『はいはいトランザムトランザム』
盛り上がってますねえ……いえ、私も何か二酸化をする度に盛り上がりはしますね、悪い方向にですが。
『シスイちゃんるJK説ってマ?』
シスイ:想像にお任せしまーす!
『嘘だぞ絶対成人済みだぞ』
おっと、特定班の出番ですかね。この手合いとは関わらないのが一番なのですが、彼女の方に危機感は無いようです。
凪:話題変えた方がいいわよ
私はメッセンジャーで燐火ちゃんにアドバイスをしてあげました、よく考えたら配信中にスマホは見ることができませんね。
私が送った直後に画面は乱れました。VRモデルが奇妙な動きをしてテーブルに手が貫通します。
燐火:見ててくれるんだね! ありがと!
そう返して再び配信に戻ったようです。
『何かあったの?』
『生配信に事故はつきもの』
『スパチャも投げてないのに何があった?』
シスイ:ごめんね! 友達から連絡があったんだ
『きっと友達も可愛いんだろうなあ……』
『友達とコラボ配信希望』
『リアルの友人まで配信やってるとは限らないんだよなあ……』
ひとまず個人への興味は私の方へと向かいつつあるようです。私は身元特定の材料は全く与えていないのでいくら注目されても問題無いでしょう。彼女さえも私が『もゆる』をやっていることは知らないので感付かれることもない、いたって平和な話題です。
『シスイちゃんの友達ならVRモデル作ってもええわ』
おや?
『コラボ配信は夢があるなあ……』
おや、私の方に言及がありますね。まあ私も自分で美少女だとは思っていますが、燐火ちゃんには敵わないんじゃないかと思っています。負け戦はするべきじゃあないでしょう。
燐火:凪ちゃんは配信に興味ってあるかな?
凪:無い! 微塵もないからね!
燐火:そっかー……残念
もう配信自体はたまにやっているのですが身バレをしない程度に絞っています。その人気アカウントとコラボなんてした日にはあっという間に個人情報を掘り尽くされそうです。
シスイ:友達は恥ずかしいからダメなんだって、ごめんね!
別に恥ずかしいわけではないのですが……それで納得してくれるのならそれも良いかもしれませんね。
私はスマホをスタンドに立てかけて配信を見るのでした。
彼女はゲーム実況からトーク、食レポまで様々なことをこなしているようです。確かに人気が欲しいなら工夫は必要ですからね。その辺はさすがとしか言いようがないです。
シスイ:じゃあねー! リスナーの皆! まったねー!!
やたらハイテンションにその配信は要約終わりました。人狼ゲームをやろうなどと言う案も出ていたのですが、この手のマルチプレイのゲームになると私が巻き込まれそうで少し不安ですね。
燐火:いやーやっぱり凪ちゃんが見てると思うと緊張するね!
凪:そう? 絶好調だったような気がしたんだけど?
燐火:ふっふっふ、私の本気の配信をあの程度だと思ってもらっては困ります!
凪:あれだけ高評価とスパチャが飛ぶのは壮観でしたね
燐火:でしょ! だからこの前の買い物の時だって払えたんだよ?
凪:アレ、資金は配信から出てたんですか
燐火:そだよー! 私はそれなりに稼いでるんだから
凪:羨ましいですねえ……
一円にもならないレスバを繰り広げている私からすればそれは羨ましい限りです。
燐火:ねえねえ、お金は全部持つからさ、凪ちゃんも配信に参加してみない?
凪:えー……申し訳ないけど私は配信主になるのは趣味じゃないですね
燐火:そっか、そんなときもあるよね。また気が変わったら教えてね!
凪:多分気は変わらないと思うけど、まあその時はよろしく。おやすみ
燐火:おやすみ! また明日ね!
そう言ってLIMEに既読がつかなくなった、どうやら私のように四六時中オンラインというわけでもないようです。私も届くものの無くなったスマホを充電スタンドにおいてベッドに身を投げました。
配信……人気……投げ銭……
どうやら私はどこまでも欲深いようで、燐火ちゃんの提案が酷く魅力的に思えてしまうのでした。
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