【Session49】2016年06月03日(Fri)
月日は皐月から水無月の六月に入り、銀座の街は落ち着きを取り戻しつつあった。それは先月(皐月)に行われた『銀クラ おもてなしコンテスト(GINKURA –OMOTENASHI- CONTEST)』が終わり、「おとなの夜の街」である銀座も平常を取り戻しつつあったからだ。
学はこの日の夜、じゅん子ママに『シンデレラ杯』の優勝のお祝いと、『銀クラ おもてなしコンテスト(GINKURA –OMOTENASHI- CONTEST)』の開催のお礼を兼ねて、じゅん子ママのお店『銀座クラブ マッド』に訪れることにした。学は自分のカウンセリングルームがある新宿から、じゅん子ママのお店『銀座クラブ マッド』がある銀座8丁目に夕方の19時頃に向かった。学は途中の新橋駅から、銀座8丁目にあるじゅん子ママのお店に向かう途中で花屋さんに立寄ったのだ。それは熊本地震の件で色々とお世話にり、結果的に支援金として5000万円が熊本地震の飲食店の復興の為に贈られることが決まったからである。
学は銀座で、『フラワーショップ – ゆい - 』と言う花屋で紫陽花の花を買い、じゅん子ママへのお礼とお祝いに買うことにした。紫陽花は、土壌の性質や咲いてからの日数で花の色が変化するのが特徴らしい。土壌が酸性の場合、紫陽花は青みが強くなり、逆にアルカリ性の土壌の場合は赤みの花をつけると言われている。
学は、ピンク色の紫陽花をじゅん子ママに買って行くことにした。『フラワーショップ - ゆい - 』を後にした学は、花束を持ってじゅん子ママのお店『銀座 クラブ マッド』へと入って行った。そして、『銀クラ おもてなしコンテスト(GINKURA –OMOTENASHI- CONTEST)』の時に、アシスタントホステスをしていたはるかと挨拶を交わしたのだ。
倉田学:「こんばんは倉田です。じゅん子さんはいますか?」
はるか:「こんばんは倉田さん。じゅん子ママですね。ちょっとお待ちください」
倉田学:「そう言えば、あなたは綾瀬ひとみさんのアシスタントホステスとして、『銀クラ おもてなしコンテスト(GINKURA –OMOTENASHI- CONTEST)』に出場してましたよねぇ」
はるか:「ええぇ、まあぁ。ところで倉田さん、その紫陽花の花束はどうされたんですか?」
倉田学:「これですか。これはじゅん子さんへのお礼に」
はるか:「ふーん、そうなんだ。じゅん子ママ呼んで来ますね」
こうしてはるかは、じゅん子ママを呼びに行った。しばらくすると、じゅん子ママが学の元に姿を現した。
じゅん子ママ:「こんばんは倉田さん、珍しいですね。今日はどうされましたか?」
倉田学:「いやぁー、熊本地震の件でお世話になったので」
じゅん子ママ:「いいわよ。銀座も昔みたいに盛り上がったんだから」
倉田学:「でも、僕がじゅん子さんに電話して話を聴いてくれなかったら」
じゅん子ママ:「わたしは倉田さんのこと信用してるから、だから引き受けたのよ。長いことこの業界にいるとね。口だけのひとと、本気で有言実行するひとってわかってくるのよ」
倉田学:「僕は後者の方なんでしょうか?」
じゅん子ママ:「そうよ。だから倉田さんからのお願いを引き受けたのよ」
倉田学:「そう言って頂けると嬉しいです。そうだ、この花をプレゼントに」
じゅん子ママ:「倉田さん、紫陽花じゃない。しかもピンク色の紫陽花の花言葉って倉田さんご存知かしら?」
倉田学:「ええぇ、まあぁ」
じゅん子ママ:「紫陽花の花も、花の色によって意味がいろいろとあるのよねぇ」
倉田学:「そのようですね」
じゅん子ママ:「確かピンク色の紫陽花の花の花言葉は、元気な女性だったかしら」
倉田学:「ええぇ、まあぁ。ヨーロッパでは、紫陽花を華やかな女性のイメージに重ねることがあるそうです」
じゅん子ママ:「うまいこと言うわねぇ、倉田さん。でも、倉田さんらしいかな」
倉田学:「喜んで頂けると、僕も嬉しいです」
そう言って学はじゅん子ママに、ピンク色の紫陽花の花束をプレゼントした。それを受け取ったじゅん子ママの表情はとてもにこやかで、女性らしい独特の仕草を学に見せたのだった。そしてこう一言、じゅんこママは学に言ったのだ。
じゅん子ママ:「倉田さん、本当にありがとう」
この言葉を聴いた学は、自分には友達と呼べる友達もひとりもいない自分が、誰かの為に行動し、結果的にじゅん子さんからも、みずきさんからも感謝されることになり、本当に良かったと思ったのだ。そして僕が心理カウンセラーを目指した大きな理由は、これに関係があるのではないかと「自己分析」していたのだった。わたし達は、いくら美味しい食べ物や高価な服、富や名声があったとしてもひとりでは生きていけない。それは物理的な問題もあるかも知れないが、精神的な部分が非常に大きいのではないだろうか。
いくら美味しい食べ物や高価な服があって裕福な暮らしが出来たとしても、誰からも愛されず、認められずに生きることは、とても大変だし耐え難いと思う。そして学は今まで両親から愛されて来なかったし、またこれからも一生愛されることは無いと思っていた。そのことがこころの中に何時もあったからだ。このことを思い出すと、身体は強張り嫌な感じを覚えるのである。そんなことを考えていると、学の元にれいなが現れた。れいなは学にこう言ったのだ。
れいな:「こんばんは倉田さん。『シンデレラ杯』の時は挨拶ろくにできず、すいませんでした」
倉田学:「いやぁー、その日はれいなさん大変そうでしたから」
れいな:「今日はですね倉田さん。わたしの彼氏と彼氏の両親が今、お店に来てるんです」
倉田学:「そうなんですか。前にれいなさんから聴いた新潟県 長岡市の…」
れいな:「ええぇ、そうです」
倉田学:「れいなさんのこと、彼氏のご両親は何て言ってましたか?」
れいな:「わたしのこと、息子の晴一にやるにはもったいないぐらいだって」
倉田学:「そうですか。そうすると、その彼氏の晴一さんのご両親も喜んでるわけですね」
れいな:「ええ、はい。それに今日は、わたしの31歳の誕生日なんです」
倉田学:「それはおめでとう御座います。良かったですね」
れいな:「ありがとう御座います倉田さん」
こう学はれいなと会話を交わし、れいなは彼氏の晴一の両親の元に戻って行った。学はれいなのことを少し考えていたのだ。学がじゅん子ママのお店「銀座クラブ マッド」に訪れ、れいなと初めて会った頃の事、またれいなにビー玉を渡した時のことを振り返っていたのだった。そして彼女が自分の人生において、何を大切にして生きていきたいのか学は知ることが出来たからだ。
学はこころの中で、れいなが新潟に行くことを決意したとしても、彼女なら家族の幸せの為に頑張っていけるだろうと思っていた。そしてそう、こころから願っていたのである。こうして学はじゅん子ママのお店『銀座クラブ マッド』のカウンターの席でウイスキーを飲んでいると、バーテンダーから声を掛けられた。
バーテンダー:「倉田さん、今日はおひとりですか?」
倉田学:「ええぇ、そうですが」
バーテンダー:「倉田さんのこと、じゅん子ママは信頼しているみたいですねぇ」
倉田学:「そうですかねぇー」
バーテンダー:「そうですよ。だって、今回の『シンデレラ杯』も倉田さんがじゅん子ママにお願いしたんでしょ」
倉田学:「それはまあぁ、そうですけど」
バーテンダー:「ところで、うちのスタッフの綾瀬ひとみとは、どう言う関係なんですか?」
このバーテンダーからの質問に、学はどう答えようか少し迷った。そしておもむろにこう答えたのだ。
倉田学:「そうですねぇ、好敵手とでも言っておきましょうか」
バーテンダー:「倉田さん、よく意味わかりませんが。そう言えば好敵手と言えば、今月の23日は沖縄県の『慰霊の日』だったような」
倉田学:「昔は敵で、日本はアメリカと戦ったけど。今は日米平和友好条約を結んで、お互い助け合って行かなければならない」
バーテンダー:「そうですねぇ、倉田さん」
倉田学:「でも僕は思うんです。自国を守るには、結局は同じ国籍を持ったひと達でないと」
バーテンダー:「それはどう言う意味ですか?」
倉田学:「有事の時に、アメリカが何時も助けてくれるとは限らないと言うことを、僕たち日本人はこころしておく必要があると言うことです」
この学の言葉に、バーテンダーは何も言わなかった。そして学はお酒を一杯だけ飲み、じゅん子ママのお店『銀座クラブ マッド』を後にしたのであった。
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