第34話 初陣の洗礼
何度も訓練したし、記録映像も見た。それでもリアルには遠く及ばなかった。
「うわわっ、こっち来る!?」
「あ、当たれ!当たれえええ!」
トラックで運ばれた先は山間部の市街地だったが、田畑も道路も埋め尽くすように、そこら中に眷属がうろうろしていた。
少しずつ掃討しながら広がって行くが、不意に建物の陰や中から飛び出して来たり、かなりの数で襲って来たりするのに、一部の1年生がパニックになった。
「落ち着け!慌てるな!」
グループに付いている自衛官がそう声をかけ、何とかなるのが大方だが、中にはその声も耳に入らず、敵に向かって銃を乱射し、仲間を撃ちそうになったり、座り込んで震えるだけで仲間を危険に晒す者も出た。
出席番号順に班分けされており、1番の鬼束、2番の黒岩、3番の悠理、4番の均は同じ班だった。もう2人も鈴木で、英二と慎司だ。
しかし余談ながら鈴木は13人いる。次の班は全員鈴木で「チーム鈴木」と呼ばれているし、その次の班は悠理達の班と同じく半分が鈴木だった。
2年生からは「鈴木の呪い」と笑われている。
しかしチーム鈴木は、鈴木という同じ苗字の連帯感のなせる業か、ひとつの生き物の如く動く事ができている優秀な班だ。
反対に悠理達の班は、気を付けないと、黒岩と鬼束が突っ込んで行きかねない危険があった。しょっちゅう自衛官や悠理、均が声をかけないといけない。要注意班のひとつになっていた。
もうひとつの要注意班は、高揚して銃を乱射しがちな生徒と恐怖で震えて動けなくなる生徒がいる班で、どちらも訓練では上手くできていたのが、戦場に出てこうなった。
それでなくとも、隠れる所のある市街地では、訓練とは違う恐怖がある。
班長こと班付きの自衛官が応援を要請するのを無線機で聞き、
「ああ、山田か。あいつ、血に弱いんだよな。血に酔って変なスイッチが入ったんだよ、きっと」
と均がぼやくように言うと、悠理も
「涌井は上手くできてると思ったのにな。本番に弱いタイプだったのか」
と言った。
黒岩と鬼束は、よその班のトラブルを訊くと冷静さを取り戻したようで、大人しくなり、班長を安堵させた。
「よし。受け持ち区域はクリーンになったな。移動するぞ」
班長が言い、悠理達はまだ眷属が残っている地域を横から突く形になるように移動し始めた。
「ああ。この辺りは遮蔽物が多いな」
忌々しそうに黒岩が言うと、鬼束は腰のゼルカに手をやり、嬉しそうに訊く。
「それじゃあ、斬りに行った方がいいんじゃないか?弾も減らないし」
班長は一瞬考えたが、
「接近戦がいきなり乱戦じゃあな。少し心配だ。見通しのいい所でやってからがいいな」
と言い、鬼束は渋々剣から手を離した。
だが、飛び込んで来た声に全員ギョッとした。
『山田!左!』
『山田、伏せろ!』
『沖川会長が!?』
『うわあああ!!』
『山田、動くな!!撃つな!!涌井、そこにいろ!!』
混乱しきった声が飛び込んで来る。
「あそこだ!」
民家の向こうに、その班がいた。涌井はほかの班員に抑えられており、山田は沖川に抑え込まれてジタバタともがきながら銃を眷属に向けて撃っており、班長がその沖川と山田に接近し、山田を殴って銃を取り上げた。そのそばで、残る班員はおろおろとしていた。
その彼らに、眷属が接近し、爪を飛ばそうとしている。
「あれを狙え!援護に向かう!」
悠理のところの班長が言った時には、悠理達は発砲しながら彼らに向かって走っていた。
「うわああああ!!」
やってはいけないと言われていたが、引き金を引きっぱなしにし、体を起こしていた。
沖川の下のアスファルトが濡れている。しかもそれは、だんだんと大きく広がっていく。
過剰なほどに悠理達は発砲し、眷属達に弾を浴びせかけた。
眷属が倒れる。このまま放っておけばやがて消える。
「沖川さん!」
悠理は沖川を見た。
向こうの班長が山田を抑えつけており、悠理達の班長が沖川に大股で近寄り、かがみこんでいた。
「生徒2名が負傷。受け入れ準備を頼む」
班長が無線で言うそばで、悠理は沖川に飛びついた。
沖川の左肩がザックリと切れているが、沖川は
「大丈夫だ、俺は平気だ」
と言う。
それで沖川の下になっていた山田を見た。
山田の腿が深く切れ、驚くほどの勢いで出血していた。
その山田の傷に、班長2人で手早く応急処置を行う。
沖川はそれを真っ青な顔で凝視していた。
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