第33話 合同演習
「そこ!突出するな!周囲をよく見ろ!
ビビるな!タイミングのズレで誰かが死ぬ事になるかも知れないんだぞ!」
沖川の声が飛ぶ。
悪魔が出たという事で、いよいよここも、1年生も2年生も全員が出動する事となった。
1年生は基本的には眷属相手となるが、それも場合によってはわからない。なので、合同での訓練に切り替わった。
沖川は生徒達のまとめ役、責任者として、色々としなくてはいけない事が多い。補佐は西條で、能力とカリスマ性の両方を、この2人が期待されての事だ。
チャイムが鳴り、溜め息のようなものが出る。
「今日はここまでとする」
沖川が言うと、全校生徒がザワザワとざわめきながら、座ったり水を飲みに行ったりとし始めた。
沖川は、元々厳しくクールなタイプだったとはいえ、傍目から見てもわかるくらい、ピリピリとしていた。
「沖川さん」
悠理と均は沖川に近付き、ドリンクを渡した。
「ああ。ありがとう」
そう言って水を含むと、溜め息をつく。
「そんなに完全にうまくはいかないだろ、最初から」
西條が言うと、沖川は目を険しくした。
「その最初の1回目で死ぬかもしれないだろ。訓練でできない事が、本番でできるわけがない」
西條、悠理、均は、そっと溜め息を押し殺しながら互いに目を見交わした。
2年生と1年生では、たった1年でも、練度が違った。それに、実戦の有無も原因だろう。どこか1年生は、空回ったり、遅れたりしがちだった。
「やっぱり、1年は意外と大きいもんだなあ」
西條が言う。
「でも、何とかして、1年生も2年生も、無事に戦って帰って来させないと。俺にはその責任がある。
基本的には1年生は眷属相手になる予定でも、悪魔の出現位置とかでどうなるかわからない。だから、そのように訓練しておかないと」
沖川はそうイライラと言う。
「沖川の気持ちはわかるけど、自衛隊の人もいるし」
西條が言うのに、沖川は、
「眷属相手ならな。でも、悪魔を相手にするのは俺達だ。誰も頼れないんだぞ」
と言い、はあ、と溜め息をつく。
責任感の強さからか、沖川はかなり追い込まれているように思えた。
「まあ、ケガ人が出たとしても、お前のせいじゃないさ。上に余裕がないと、下もピリピリするもんだぞ。自信がなくともあるように見せるのが指揮官だ」
服部がそう言って、軽く笑う。
「はあ」
沖川は胡散臭そうに服部を見、それに原田が苦笑する。
「いや、これは本当だぜ」
「とにかく、お前ももう休め。いいな」
沖川は服部に言われ、不承不承というのが丸わかりな顔付きで、
「わかりました」
と返事をした。
グラウンドから出て行く生徒達を見ながら、服部と原田は表情を引き締めた。
「確かに今の状態じゃあ、まずいな」
「とは言え、1年生はこの間まで普通の中学生だったんだぞ。運動部なら体力もあっただろうが、そうでない奴はそもそもの体力からできてない」
「それでも、悪魔の相手はこいつらにしかできない。できるもんなら、俺だって悪魔を殲滅しに行ってるぜ」
「どこの国も同じ状況だろうけど、何なんだろうなあ、これはよ。情けねえ。守るべきものに守られて、戦ってこいって言わなきゃならねえなんてなあ」
原田はそう言って泣きそうな顔を空に向けた。
合同演習も、一部の生徒にとっては、まるで体育祭の練習のような気分だった。沖川や服部達教師、自衛官の手前、どうにか遊び半分というのは無かったが、必要以上に力を入れるか、眷属如きとなめてかかっている生徒は、一定数いた。
そんな1年生も、実戦という洗礼を受ける時が来たのは、合同演習が始まって数日後の事だった。
サイレンが鳴り、物理の授業中だった悠理達1年生も、筆記用具を放り出し、更衣室へと向かった。
どこかもたつきながら着替え、装備品を身につけ、ホバークラフトへと急ぐと、2年生は全員が乗船していた。
急いで乗り込む1年生達が、これまで見た記録映像など、目で見た戦場とは比べ物にならないのだと思い知るのは、すぐの事だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます