第18話 小テスト

 座学に武術に射撃に基礎体力作り。それは、クラブ活動をする暇も余裕もなくて当然だ。そしてしょっちゅう小テストがあり、一定水準に達しているかどうかチェックされる。

 アウトの判定を受けた生徒は、退学にはならないが厳しい補習があり、何が何でも一定水準をクリアするように叩き込まれるのだ。

 それは生徒にとって、強いストレスであるが、それも責任のうちだ。

 しかし、それを要求されている以上に重く受け止めている生徒もいる。何が何でもトップに、などと思っている生徒だ。

 1年生では、黒岩がそうだった。

 神童と呼ばれていたのに、ここでは単に「成績がいい」「トップクラス」でしかない。

 座学では悠理に負ける。

 剣を使っての模擬試合では鬼束に負ける。

 滅力を通した武器を使ってでは、鬼束には無論負ける。これはまあ、腹立たしいが納得できる。しかし納得できない事に、悠理にも負けるのだ。

 と言うのも、悠理の滅力はバカみたいに多い。なので、どうにか凌いでいれば、誰が相手でも先に相手の方が滅力切れになって武器のゼルカが形を保てなくなり、柄の先が消えて悠理が勝つ事になる。時間を決めての勝負や、悠理がしのげない程果敢に攻撃すれば、悠理がその滅力に物を言わせて力任せのように攻撃して来るので、相手はまず、負ける事になる。

 黒岩にしては、反則だろうと言いたいくらいに腹立たしい。

(この上射撃まで上を行かれたら、期待をかけてくれている家族や師範に、向ける顔がない)

 黒岩は、焦っていた。

 そして、花園の言っていたその小さな部品の話を、繰り返し思い出す。

(狙いが逸れるだけ)

 全員に各々貸与されている銃を収めたロッカーの前で、その銃をじっと見た。


 花園は、ドキドキしながらその知らせを待っていた。

 黒岩には「狙いが逸れるだけ」ととれる言い方をしたが、そうではない。暴発し、射手は少なくともケガを、へたをしたら死ぬ事もあるだろう。

 それでも、部品の欠落がバレたとしても、やったのは黒岩だ。花園は「しろ」なんて言ってない。「気を付けろ」と先輩としてアドバイスしてやっただけだ。そう考えていた。

 転校になった2年生4人にも、そうやって背中を押してやった。だが、花園には何の注意も来ていない。

 ノートを取りながら、

(今日が射撃のテストだったよな。そろそろかな)

と唇を機嫌よくうっすらと吊り上げた。


 射撃の試験が始まった。100メートルからスタートし、中央に当たった者は200メートルに進む。そうやって距離を伸ばしていくのだ。

「1列目。準備!」

 出席番号の1番から20番までの生徒が、ブースに入ってライフルを立射の構えをとる。一番狙撃しやすいのは伏射、次に膝射となり、立射は外れやすい。しかし、悠長に戦場で狙えるとも思えないので、伏射と立射を中心に訓練する事になっており、今日はその、立射のテストだ。

「構え!」

 構えた生徒1人1人の斜め後ろに、自衛官が付く。射撃訓練だけは危ないので、教師だけでなく、自衛官が順番で補助に付く事になっている。

 シンと静まり返る中、生徒は各々、100メートル先にある的を見る。息を潜めないと、ほんのわずかな動きで的が大きく照準から外れてしまう。

 ブースに入って狙っている生徒は勿論、見ている生徒も緊張し、息を潜める。

 黒岩も、息を潜めて悠理の背中を見ていた。

「撃て!」

 教官の号令で、一斉に引き金を引く。そっと絞るように、軽く。

 轟音が射撃場に響き渡った。





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