第17話 囁き

「どうだった、感想は」

 訊かれて、悠理は答えた。

「感激だった!疲れ目で目がショボショボしなければ、あんなにハッキリ見えたのを、忘れてた!それに肩こりも腰痛もないし!」

 服部は、肩を落とした。

 悪魔には滅力を通した武器しか効かないが、眷属には銃が効く。何ならその辺のパイプや釘バットでも、眷属の種類にもよるが、どうにかできる。

 なので、悪魔と眷属が襲って来た時、悪魔に行き当たる前に滅力が切れたら困るので、銃の使用も習うのだ。

 そして今日、1年生は初の射撃訓練を行っていた。

「そんな、老眼が始まったみたいな切ない事言うなよ」

 言う服部に、均が苦笑して言う。

「悠理ですから」

「そうだな。今更か。

 よし。こいつの事は若年寄と呼んでやろう。本物の若年寄は地位的に偉いが、こいつは体がエライ」

 それに同じテーブルに着いていた生徒達が吹き出す。

 食堂で昼食を摂っていたら、服部が空いていた悠理の隣に来たのだ。

「まあ、銃の扱いは慎重にな。言うなれば、引き金を引けば簡単に弾が出る。簡単な動作で、簡単に人が死ぬ。その重みをしっかりと考えて、心して扱え」

 服部がそう言うと、そこにいた生徒達は、表情を引き締めた。

「はい」

「うわあ、先生みたい」

「先生だろうが」

 ムードメーカー的役割の生徒が場を和ませ、ひとしきり笑ったところで、服部は付け加える。

「そうそう。小さい部品ひとつも無くすなよ。動作不良になったり、暴発したりするからな。いいな。きっちり習うまで、勝手に分解したりするんじゃねえぞ」

「え、もしかして俺に言ってます?」

「お前が危険人物筆頭だろうが」

「酷い」

 悠理がムッとしたところで再び生徒達は笑い出す。


 そんな楽し気な雰囲気を、別のテーブルの生徒や教師も眺めるとなく眺めていた。

 黒岩は別のテーブルで黙々と食事を摂っていた。

 射撃をしてみたところ、まだ1回目だからわからないとは言え、黒岩、敷島を含む数人が、成績が良かった。

(くそっ)

 いらだちを顔に出さないように気を付けながら、食べ終わった黒岩は、さっさと席を立って、食堂を出た。

 その黒岩の後を追って、生徒が食堂を出た。花園だ。

「黒岩!」

 黒岩は足を止めて、振り返った。

「花園先輩。何ですか」

 一応先輩に呼び止められたから仕方なく足を止めた、というのが丸わかりの不機嫌そうな顔だが、花園は構う事無く、軽い足取りで近付いた。

「射撃、聞いたよ。黒岩と敷島が一番上手だったんだって?」

「まだ最初です。わかりませんよ」

「そうだね。悠理はあれでなかなか器用な所があるしね」

 クスクス笑って言う花園に、黒岩はムッと眉を寄せた。

(もっと水を開けられると言いたいのか)

 そう思っているのが、花園には丸わかりだったし、そう思うと思って言ったのだ。

「知ってる?小さなネジ1つでも外れてたら怖いんだよね。こう、引き金の所の、こうなってるところ」

 花園は笑いながら、手振りでライフルのある部分を示した。

「ここのネジって小さいし、なくても弾は出るし、思ったところに飛ばないだけでさ。外れても分かりづらいからまた厄介なんだよね」

 黒岩は怪訝な顔をして、花園の、口元だけの笑顔を見た。

「がんばってね、黒岩君」

 そう言って黒岩の肩をポンと叩き、花園は歩いて行った。

 残った黒岩は、花園の言った事を反芻し、ハッとして花園の去った方を見た。


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