第49話 ベリアル君、豹変す
予想以上だった。
イシュタルの攻撃力もベリアル君のアレも。
イシュタルは銃撃や砲撃をかい
巧妙な飛翔も、火炎の威力も、あれやこれやの大言壮語を裏切らない、さすがの実力どすえ。
(何だ、「どすえ」にハマってしまったのか?)
はいさぁ。「はんなり」の語感が素敵どすえ。
これで わ・ち・き も立派な
ねえねえ、キョーオトメって、古代の二ホンって国の「じゃぱにーず・びゅーてぃー」を体現してたって言うじゃない。
世界中の男性や知識階級の憧れだったって。
ひゃっほーい。
(京乙女が「わちき」とか「ひゃっほーい」など言うものか。それではせいぜい、自称京都出身の、勘違いして妖艶ぶったヤンキーだな)
あらあら、何をおっちゃいますことやら。
(「おっしゃい」だ!)
おや、そないどすか?
ちょっとも
ごめんしてくだしゃんせぇ。
(いい加減、怪しげな京都弁(?)を操るのは止めろ! 背筋が寒くなる。それよりも、あの二人を見よ)
実は、そのことはあまり考えたくないからボケていたのだ。
イシュタルの火炎魔法の威力はさすがだ。
大きな火球を次々と放って敵船を炎上させる姿は、「攻撃魔法の達人」と言ったゼブルさんの言葉通り。
更にそこに強風を送り込み、火は勢いを増す。
帆やマストが焼け落ち、船体は炎に包まれる。
炎が船内の火薬に引火して大爆発を起こす。
楽し気な高笑いが聞こえる。
そのようにして、気楽に、もう何十の敵船を餌食にしたろうか。
(さすがだな。「暴風に乗って天に昇る」と謳われた女神だからな。あ奴の飛翔や風の魔法は、やはり一級品だ)
暴風? ヤッパリじゃん。
それなのに、さっきは意地の悪いことを。
(
まあいい。このオッサンの意地悪はいつものことだ。
それよりも、問題なのはベリアル君。
えっ? 何が問題なのかって?
それはねえ……
「ひゃーっはー! きゃーっははははー!」
アレですよ。
まあね、「普段は大人しい人ほど、
でも、アレはちょっと……
目は異様に吊り上がり、
「
これですから。
いやね、負傷者の回復や小型船の物理防御は、普段のベリアル君と変わらず、ちゃんとやってくれてるんですけどね。
でも、混乱や幻惑魔法の威力がこれほどとは!
あちこちの空中を飛び、敵船の操舵主を混乱させては互いに衝突させる。
水夫は何かの幻影に怯えて逃げ惑い、海に飛び込む。
兵士を幻惑しては同士討ちをさせる。彼らは幾度も斬られ、刺され、血まみれになりながらも、なおも何かに
教会軍の船団は、どっかーんとか、ぐえぇとか、ぎゃあーッとか、ひぃーッとか…… まさしく
白昼の美しく澄んだ海上に地獄絵図が描かれた。
こ、これは、まさしく「悪の芸術家」の所業。
恐ろしい。
(優美に振る舞ってはいても、あ奴はベリアルだぞ。かつて、どれ程の数の都市や国を滅ぼした事か。混乱や幻惑、扇動や誘惑の力にかけては、やはり、あ奴の右に出る者は居らぬな)
右? じゃあ左はどうなんだ?
(古いギャグだな)
うう…… やっぱり。
失礼しました
ルイジ船長が私の肩を軽く叩いて
「あの子供たちも、なかなかやるずらねぇ。これで勝ちは決まったのっし」
なんて言う。
おっ! 「ずらぁ」や「のっし」はともかく、その自信に溢れた風貌と、戦いの最中にも落ち着いた口調は、もはや提督の風格ではありませんか!
「言ったのし。戦意や気合だったら負きゃーせん。おまけに、敵は海から来たのが運の尽きだったさあ。300隻とか、船の数だけは大層でも、乗っとるのは陸戦の装備をした兵士や、戦いには員数外の水夫や、せいぜい未熟な海兵ばかり。いっちょ前に大砲なんぞあっても、腕のいい砲手が居らにゃあ飾りと一緒じゃあ」
それにしても、これほど一方的な戦いになるとは。
艦隊の連続一斉砲撃、鉄甲船の威力、海賊衆の敵船へ乗り込んでの奮闘、お子ちゃま二人の
敵船団はもはや壊滅寸前だ。
船は炎上し、沈み、兵士や水夫はあるいは甲板に倒れ、あるいは海に落ちていく。
これじゃあ、私の出番はなさそう。
(残念なのか?)
だって、楽だから。
(それが本音か?)
あ、いえいえいえいえ……(以下繰り返し)
だって、みんなの
自分たちで進んで戦ってくれたら、こんなに嬉しいことはない、って、あれ? なんかエラソーなこと言っちゃちゃって恥ずかしぃったら、なんじゃもんじゃ。
(ふふん。しかし、喜んだり恥ずかしがっている暇は無いようだぞ)
そう。やっぱり出た。
心の声さんの言う通り、その時、砲声や銃声、剣戟の音、子供たちの嬌声と高笑い、敵の悲鳴や絶叫が響く中、かろうじてまだ浮いている船々に、突然に
しかも、あれもこれもが全く同質の魔力。
何だこれは?
「「「「「「「「「「そこまでだ!」」」」」」」」」」
戦場一帯に轟く凄まじい大声?
違いまーす。脳内に直接響いてきまーす。
何が出るかな、何が出るかな、わくわく。
(なっ! この大事に、その high さは何なのだ。ルイジ爺のデタラメな方言と、海戦の高揚に、少しばかり思考や言語の中枢をヤラれたか?)
失礼な。私は至って正気です。
ただちょっと、出番(?)の前にいろんな興奮を紛らわしているだけで。
おっ、これは、これは、これは!
(
さあ出ました。
あちこちの船からほとんど同時に、数十もの輝く姿が空中に飛び上がる。
もしかして、あれが皆、天使か?
それらの姿は私たちの眼前、やまと號の船首からすぐ先の空中に集まり、目も眩む光を放ちつつ不気味に
その光が弱まった時、そこには憤怒の形相の1人の巨人の姿。
ほんでぴょ、まあ、それがさあ……
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