第26話 伝説の剣!

 

 箱の古さに比して、白銀色の刃には錆ひとつない、異様な形だけど見事な剣だ。


「これは遥か昔、まだ魔族と亜人全体が1つの国として暮らしていた頃に、エルフの大魔導士とドワーフの名工が知恵と技を出し合って鍛え上げたという伝説的な剣でございます」


 そんなものが、なぜここに……


「伝承の中だけで存在が語られていたものを、数十年前にある遺跡で発見したのです。それをエルフ族の国とドワーフ国家の双方が所有権を主張し、ここ1000年来の反目をさらに悪化させる原因となった、ある意味、罪作りな剣でございますな」

「ふーん」

「あわや紛争になりかかったところを、発見者としての権利と魔王としての威光をもって、どちらにも渡さず、それ以来この城に秘蔵されてきたのです」


 ここでゼブルさんは一息つき、続けた。


「しかし、今回の件でエルフもドワーフもアスラ様の力を認め、新たな魔王として忠誠を誓ったとのこと。そのアスラ様が愛剣となさるのなら、両族とも否やはないでありましょう」

「え、そんな大切な物を、いいの? ガイアさんは?」

「妾はどうせ使わぬぞ。剣の戦いは好まぬし、苦手じゃからな。魔法で充分じゃ」

「ということです。先のサリエルとの戦いで剣を失われた事だし、ちょうど良い機会ではありませんか。さあ、手に取ってご覧になって下さい」


 持ってみると意外に軽い。

 刀身にはあちこちに小さく光る青い点が散らばって、まるで昼間に見える不思議な星みたいだ。

 グリップガードの大きさは控えめで、柄は意外と細くて手に良く馴染む。


「正確には分かりませんが、旧文明が生み出した特殊な合金だとかオリハルコンだとかの、今では再現不可能な素材で出来ており、大きさの割に極めて軽い筈です。アスラ様には両手剣のサイズですが、これならば片手で振る事も容易かと」


 うん、気に入った! 凄く綺麗な剣だし。ありがたく頂こう。


「刀身の反りは、刺突よりも斬撃を重視しているからです。アスラ様の戦い振りを拝見するに、大半は斬撃で、刺突は殆ど使われない。その意味でもぴったりの剣でしょう」


 あ、そうだ! 大事なことに気付いたぞ。


「ねえねえ」

「な、何ですかな。目を輝かせて。わたくし、不吉な予感がして参りましたが……」

「それほど由来のある剣なら、何か名前があるんじゃないの?」

「いや、元々は有ったのかもしれませんが、今は伝わっておりませんが」

「じゃあさあ、私が名前をつけていいかな。何かとびっきりカッコいいのを考えるから」


 ここでゼブルさんの顔色が変わり、ガイアさんとひそひそ話。


「こ、困りましたな、これは」

「あのネーミング・センスじゃからな。また、ナンチャラカンチャラ001号とか言い出されたらかなわんのじゃ」

「折角の剣にケチが付いてしまいます」

「アスラ・ソードとか、いや、片刃の剣じゃからアスラ・ブレードとかではいかんのか?」

「いや、それもちょっと安直かと」


 聞こえてますけど。ぶすーっ。


「と、とにかく…… 名前は後々考えるとして、その剣の威力についててですが」

「そりゃあもちろん、これだけ立派な剣なんだから、切れ味も凄いんでしょう?」

「いいえ。そのままでは只の鈍刀なまくらです」


 はあ?


。ただし、それ相応の魔力が必要ですから、並みの者が使えば、一振りや二振りですぐに魔力が尽きてしまう。その点、アスラ様なら膨大な魔力をお持ちなので、きっと使いこなせる筈。それに、攻撃魔法の加減はともかく、斬撃に魔力を乗せるのはお得意の様ですから」


 ふーん、そういう剣なんだ。

 何だか、変わり者が作った変わった剣なんだね。

 まあ私も変人なのは自覚してるから、似合いのコンビかな。


「それに、斬撃に攻撃魔法を乗せて魔法剣として使う事も出来ますぞ。そうすれば火炎や凍気など、相手の苦手な属性で攻める事も可能です」


 おお、それは便利。

 放出系の魔法と違って斬撃に込めるんだったら、少しは加減し易いかも。


「ではこれで、その剣をお持ちになるのは了承して頂いたという事で宜しいですな」

「はい、喜んで」

「では次の条件です」

「えーっ、まだあるのぉ?」

「当然です。条件は『幾つか』と言ったではありませんか」


 と、ここでゼブルさんが開いたままのドアに向かって


「入りなさい」


 と声をかけた。

 厨士長さんとファフニール君は


「では我々は昼食の支度がありますので、この辺で」


 と、一礼して退出。

 彼らと入れ替わりに「のっそりと」入ってきたのは……


 デカい!

 これは犬か?

 ゼブルさんでさえ見上げるような体高と細く尖った顔、四肢は細く長く、ふさふさとした体毛…… もしかして大昔に居たというボルゾイ犬?

 いや、そんな程度じゃない。

 細身の馬ぐらいの体格はある、全身灰色の毛におおわれた巨大狼だ。



 ん? フェンリでオスカ

 また「ル」かあ。毎度毎度、まいるなあ。

 あれ? でも、紹介されたのに、何だかゼブルさんの後ろで恥ずかしそうにもじもじしてるぞ。


「困ったものです。実はイヌ科や狼には珍しく、……」


 はあ? ————————

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る