第25話 過保護なガイアお姉さん ☆

「どうしてもと言うのなら、心配だから妾も一緒に行くのじゃ!」


 いやいや、それはマズいでしょ。

 私だけならともかく、ガイアさんまでこの国を何日も留守にするとか……


「危険なのは教会だけではない。その者たちは機械や技術を嫌うとか、魔族よりも、むしろ今のヒト族に近いのではないか? 敵に回るかもしれんぞ」


 うーん、もしかするとそうかもね。

 行ってみたら、即「帰れ!」とか言われたりして。

 それどころか、いきなり敵視されて攻撃されたりして。


 なんでも、古代には文明や技術を軽蔑して、おまけに「ラブ・アンド・ピース」とか「地球に優しく」とかの、ちょっと大声では恥ずかしいスローガンまで叫んでたらしいし。

 うーん、今のこの荒廃した世界じゃ絶対に考えられな能天気さだ。

 人間なんて生きてるだけでどうしても、多かれ少なかれ空気や大地を汚し、他の生物を滅亡させるっていう、地球に迷惑な、ひょっとすると癌細胞みたいな存在かもしれないのに。

 多少の害悪は垂れ流しても、できるだけ細く長く地球と共生しようって訳か?


 でも面白いよね。

 人口が増えて増えてどうしようもなかった時代に、AIDSとかエボラとかいう治療不可能な病気が発生して、人間の数を減らして、でも今の世界にはそんな病気はなくって……

 あれ? そうすると魔族は地球の癌細胞みたいなもので、今のヒト族はAIDSやエボラに代わる地球の免疫細胞みたいなものなのか?


 違う! それはきっと違うぞ。

 だって今のヒト族って、本当の創造神や地球が生み出したものなのか?

 それに人間、つまり今の魔族が本当に地球の害にしかならない存在なら、なぜ人間なんて生まれてきたんだろう?

 そう言えば、。だから地球全体を「ガイア」って呼ぶこともあるとかないとか……


「アスラ!」

「あ、は、はい」

「何を呆けておる。心配だと言っておるのじゃ」


 ありがとうございます!

 私、そんな風に好意をまっすぐに向けられたことがないから嬉しいなあ。

 なんか泣いちゃいそう。ぐすん。

 でもね、大丈夫。

 最初はずっと一人で冒険してきたんだし、連れが居ないなら居ないで、却って攻撃魔法の加減とか考えないでいいから何とかなるよ。


 でも、ありゃりゃ、いつの間にかゼブルさんが消えたぞ。

 どこへ行った?

 でも、これは好都合。

 じゃあ今のうちに、とっとと用事を済ませましょう。


 で、私はとりあえずガイアさんのことは放っておいて、さっきからあっけに取られているファフニール君と厨士長さんに言った。


「私の留守中、近衛軍と被災者の食事の件をよろしくお願いします」

「あ、ああ、はい。それは確かに承りました……」(厨士長・談)

「ちなみに聞くけど、今日のメニューはどうなってるの?」


 これにまた厨士長さんが答える。


「彼とも相談の上、予定では昼食は手軽にハンバーガー、夕食は目の前で実演でシシカバブを考えておりますが」

「うーん、それはそれで美味しそうだけど、昼も夜もいかにも肉中心っていうのはどうかなあ。塩漬けの魚が大量にあったから、適度に塩抜きをしてフライにして、フィッシュバーガーにするとか、昼を肉料理でハンバーガーかケバブ・サンドにするなら、夜は……

 そうだ! ムール貝も大型の川海老もある筈だから、魚やソーセージも加えて、パプリカなどの野菜類も乗せて、パエリアなんかはどうでしょう? もしも超大型の平鍋が調達できればだけど」

「承知しました。検討の上、すぐに準備を始めます」


 と、ここで、それまでずっと無言だったファフニール君が、それはもう意を決したかのように言うんだよ。


「アスラ様!」

「ん、何でしょう?」

「自分はアスラ様と一緒に参ります」


 あちゃー、やっぱりそう来るか。


「専属の料理人ですから、アスラ様の行かれる所には常に御一緒するのが当然っす。しかも助手ですし、食材を入手するための旅なら、なおさら同行するべきでしょう!」

「うーん、でもね、ゼブルさんも言う通り、今回は危険かもしれないし」

「構いません。竜人ですから戦闘力には自信がありますし、翼もあるから飛行もできます」


 なんて言い張るから困った。

 ところが、ふふふ、実は大して困ってはいないのだ。

 こうなることは実はある程度は予想済み。


「ダメです! あなたには、どうしても頼みたい重要な仕事があるから」

「え?」

「それは、調


 そう。

 旧世界の料理でも独特の「ワショク(和食)」の味を再現するためには、どうしてもコンブ(昆布)とカツオブシ(鰹節)は欠かせない。

 その「二ホン」っていう国では長い年月、肉食が禁じられていたそうで、だから魚や野菜を使った食文化が特に発達したらしい。

 「テンプラ」とか「懐石料理」とか、あれやこれや。

 そのためには、どうしても「ダシ」の基本になるコンブとかカツオブシとかいうものが必要だ。いろんな食材に巻いて、「ぱりっ」と美味しいらしい「海苔(ノリ)」とかいうものも。

 それに、今回の祝宴に出席予定のエルフの上流階級は肉や魚の匂いや味を嫌うらしいから、スープの旨味は野菜で取るとしても、いろんな料理に彼らの知らないコクを加えるために、できれば「コンブ」が欲しい。


「だから、私の留守の間に、それについて調べて、入手の可能性と方法を調べてもらいたいの。祝宴までには間に合わないとしても、どうせいずれは必要になるものだから。城の資料庫を使ったり、ゼブルさんに相談して進めて下さい。あの人だったら多少の事は知ってると思うから」

「うーん……」

「ひょっとすると長期に渡るかもしれない、貴方にしか頼めない重要な仕事です!」


 ということで、渋るファフニール君をなんとか説き伏せた。

 そこにゼブルさんが息せき切って帰って来たので、今の件を話すと


「それについては承知致しました。ただし、遺跡に向かわれるという件ですが」


 あ、嫌ーな予感。


「お止めしても、どうせ黙って抜け出してでも出発されるのでしょうから、今更ダメとは申しません。ただし、


 条件?

 まさか昨夜の心の声さんみたいに「尊敬しろ」とか、この人までアホなこと言い出すんじゃないよねえ。


 ここでゼブルさんは抱えてきた古そうな、厳重な鍵のかかった箱を開ける。

 そこに入っていたのは ————————

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